第6話 有識者会議

 ネットを開き皇位継承有識者会議のサイトを検索する。古いものは平成十六年から十七年にかけて小泉元首相によって開催されていた。現在も菅首相によって引き続き開催されているが、結論が出ていないので古いものを使うことにする。


まずは出席者だが肩書だけを抜き出した。


• 男女共同参画審議会会長

• 国際協力機構理事長

• 日本経団連会長

• 日本学士院(元)院長、専門は古典語学、古代インド語学、西洋古典学

• 政治学者、専門は政治学、西洋政治思想史

• 日本の歴史学者、専門は日本古代史

• 日本の法学者、専門は憲法学

• 日本の法学者、弁護士、(元)女性宮家検討担当内閣参与

• (元)内閣官房副長官

• 産業技術総合研究所理事長、工学博士

 次に報告書の内容だが

• 女性天皇及び女系天皇を認める

• 皇室継承順位は男女を問わず第一子を優先とする

• 女性天皇及び女性皇族の配偶者も皇族とする

• 永世皇族制を維持する

• 女性天皇の配偶者の敬称は「陛下」などとする

• 内親王の自由意志による皇室離脱は認めない

 以上六項目だった。

 またメディア等の反応として朝日、読売、毎日の主要新聞はこの結果を支持、産経新聞だけが伝統を崩すことへの懸念を表明。小泉氏と同じ自民党内でも慎重論が多い。逆に民主党では支持者が多いなど通常の法案審議とは逆の現象を指摘。たしかにここまでは科学的根拠というものは存在しない。


 麦原を見るとまだ作業中だった。何をしようかと思ったときスマホに着信がある。


「はい銀山です」


「ねえ社長室で何があったの。総務の子たちが怒りながら戻ってきたって聞いたけど」


「社長のメールをよく読まずに返信しただけ」


「銀山くんは大丈夫だったの」


「怒られてもいないし戻ってもいないから分かるよね」


「よかった」


 こちらの身を案じてくれていると思ったが今の声は蟹の心配だったような気がする。香取主任たちは社長が男系にこだわることを阻止するために鬼谷から指示されて返信したのだろう。確信はないが香取が社長室から出てきたときに寄り添っていたのが証拠だ。


「それより何か用だったの」


「鬼谷次長ってそこにいるの」


 いたらこんなにのんびりと電話していない。


「さっき戻っていったよ」


「分かった。ちょっと行ってみる」


 自分の頼んだ仕事をしているか心配だったが蟹がかかっているのに忘れるわけがない。


「男系の根拠になるよーなものはほとんどありませーんね」


「ほとんどということは少しはあったということですね」


 皮肉で言ったつもりだったが首を縦に振ってきた。


「Y染色体が変化なく継承されていることでーす。識者の中にもけっこう支持する人はいるみたいでーす」


「識者といってもピンから切りまでありますよね。どんな肩書の人がコメントしているんです」


「すまん、手間取った」

羽黒が戻ってきた「どこまで進んだ」


「僕が有識者会議をまとめて麦原さんが調べたネットの情報を確認しているところです」


 ディスプレイをCH2に切り替えると自分が作った有識者会議のまとめが表示される。


「これは悠仁親王が生まれる前に行われたものだから男子継承者がいない場合を想定している。自民党内には男系堅持論者が多いからいつ削除されてもおかしくはない内容だ。麦原さんはネットの情報ですか」


 リモコンでCH3に切り替えてワードパッドに貼り付けた記事にさっと目を通した。


「科学的根拠はこのY染色体だけでーすね」


「遺伝子に詳しくない者は簡単に信じてしまいそうだ。高崎経済大の助教が発案らしいが、京大の生物学の専門家も支持しているしな」


 それなら立派な識者だ。それより羽黒がけっこう詳しいことに驚いた。


「しかし反論として女性天皇を否定するものだとありまーした」


「その通り。Y染色体を持っていることが天皇の条件なら持たない女性は資格がないことになり歴史を否定することになる。また染色体はあるだけでは意味がなく遺伝子が働いて初めて役割を持つ。その働きが何であるか示さないうちは変化しないで伝わったとしても説得力はない」


「ならばY染色体はこれ以上議論しても仕方がないということですか」


「変化しないで継承されるという事実は捨てがたいが、これだけでは使えないな。他に見るべきものがなかったら本格的に始めるぞ」


「ちょっと待って下さい。これを使って何かをするのではないのですか」


 否定とまではいかないが十分程度とはいえ自分の仕事が軽く見られた気がした。


「ネットの情報は誰にでも見られる物。当然社長も見ている。今してもらったことはその最低ラインを共通認識下に置くものだ。重要ではないが不要でもない」


 反論できなかった。

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