最終話 武侠を目指す俺が女神になった件


 なんと、俺はバレリーナの衣装に身を包んでいた!!


「なっ、これは一体……ッ!」

 股間からまっすぐに生えた白鳥の頭。

 全身を覆う白いレースの衣装に、横に張ったスカートのクラシックチュチュ。


「こ、これではまるで……、かつて、UR"お笑い芸人"として名をはせた……伝説レジェンドシィムラケーンではないか……!」


 な、なんということだ……。


 SSR"聖女"からUR"大聖女"に転職した。

 それにより、聖女アーマーまでが大聖女アーマーへと進化を遂げてしまったというのか……。

 そんなバカな……。


 もはや、俺の人生がどこを目指しているのかもよく分からなくなってきているが……、あんまりの仕打ちだ。

 なぜ、こうも武人の道から逸れていってしまうのだ……。


 俺はただひたすらに……ギルド加入を受け、代紋冒険者証を背負って、武に生きたいだけだというのに……。




 

 ポン。


 あまりの出来事に、言葉を失ってうなだれる俺の肩に誰かが手を置いた。


 俺が振り向くと……そこには。



「気を落とさないでください」

「し、司祭さま……」

「誰しもが望む天職を授かるわけではありません」


 司祭さまは続けた。


「しかしながら、希望に沿った天職を授かることと、満足できる人生を送れるということは必ずしも一致しません。どうか、気を落とさずに……プッ……ククッ……」

 司祭はとうとう笑いをこらえることができずにうずくまってしまった!


「わ、笑うなぁ!!」

 俺は司祭の顔面をサッカーボールのように蹴り上げると、浮かび上がった後頭部に左手を伸ばし、髪を掴んでつるし上げた。


「吐け! さらに天職を変える方法がないか、今すぐ吐くんだ!」

 さらには右手で首元を掴んで、全力でゆする。


「や、やめなさい……。ダールマの神殿で転職をした後に、更に転職した例など私も耳にしたことはありま……」

「なんだと!」

 さらに右手を司祭の首にかけようとしたときだった。


 どうやら、命の危機に陥ったことをうけ、司祭の脳細胞がアンサーを絞りだしたようだった。呻くようにして彼は続ける。

「いえ、無いとは言えないのですが……もはや、神話の領域の話になってしまうのです」 

「ほぅ」

 俺は両手を離すと、司祭を床に立たせて、話を促した。


「ゴホン。失礼……。いにしえの勇者物語の一つに、勇者パーティーのメンバーに対して、女神様がGRゴッドレアを授けたという逸話がございました」

「なるほど……」

「魔王討伐という苦難に挑んだ信徒に女神様自らが恩寵として天職を授けたということですが、残念ながら神話として残っているばかりで……事実起こったことなのかどうかは定かではありません……。それ以外のケースとなりますと、私ごときでは知りえないのです。ご理解ください」

「そうきたか……」


 どうせ、魔王討伐には挑まなくてはならなかった。

 辺境で苦しんでいる仲間のためにもな。


 ならば、これを契機として本腰を入れて魔王を討伐すればいいだけのことだ。


「魔王討伐か……成し遂げるしかないか」

 俺が呟いたときだった。





「話は全て聞かせてもらったぞ!」

「お、お前たちは!」

 なんとそこには、ルアナスキー男爵、田吾作、ジェシカちゃんの3人が立っていた!

 い、一体、いつの間に!


「さぁ! 私たち4人で、今から魔王討伐に旅立ちましょう!」

「な、なんてタイムリーなんだ! 色々と不自然だが助かるぞ! 俺たちの冒険はこれからだ!」


 そうして、俺たち4人は、ダールマの神殿から魔王討伐へと旅立ったのだった。





---------------


 それから。

 俺一人が戦闘をする日々が続いた。


 えっ、他の人たちですか?

 後ろについてきているだけです……。




 とうとう、俺たちは魔王城にたどり着いた。

 魔王城の奥地にある巨大な扉を見ながら俺は言った。


「ここに魔王がいるのか……」

「そうみたいでゲス」

「みんな、準備はできたな!」

「多分大丈夫でゲス」

「よし! いくぞおおおおおお!」

 俺は扉を蹴破ると、魔王の居るであろうボス部屋に突入したのだった。



 

---------------


「つ、強い……」

 俺は全身血まみれで、地に伏していた。

 全身を殴打されて、瀕死の有り様だ。


 えっ。他の人たちですか?

 壁際で突っ立って傍観していますよ?


 まさか、魔王がここまで強いとは……。

 俺の練り上げた武では足りなかったということか……。


「だが、俺は負けるわけにはいかん!」


 俺が、全身に力をこめて立ち上がり、股間から生える白鳥の頭による攻撃を繰り出そうとしたときのことだった。


 

 なぜか、俺の全身が明るい光に包まれた。


 これは……まさか……。


『ムーラチッハよ、よく頑張りました』

「ま、まさか、この声は女神様!??」

『あなたのこれまでの労苦に報いるために、ささやかではありますが、GRゴッドレア職を授けましょう』

「助かります!」


 さすがは女神様だ!

 いままで信じてきてよかった!



 そして、俺は授かったのだった。







 GR"女神"、を。







 待て。

 ちょっと待て。


 俺って男やん?

 なんで女性しか授かれない天職を授かるんですかねぇ??


 

 そして……。



 パァン。


 

 GR職の負荷に耐えられなかったのか。

 突如として、大聖女アーマーがはじけ飛んだ。



「ぬぅ、これでは運営にBANされかねない! 衣装が光り輝いて飛び散っているうちにどうにかしないと!」


 腰に下げていた革袋から、ウサマ王に授かった瞬間接着剤を取り出した。

 そして、捻りだした瞬間接着剤を用いて、世界樹の葉を股間に貼り付けて難を逃れたのだった。


「なんとか、ジェシカちゃんには見られなかったか……」

 それだけで一安心だ。

 後日、接着剤を剥がすときに大変なことになりそうだが、知ったことか。

 最終回でBANになるのだけは勘弁だからな。



---------------


 GR職の強さは圧巻だった。

 俺は、怒りに任せて魔王を瞬殺した。

 あまりの呆気なさに拍子抜けしてしまったほどだ。


 それから、魔王の骸と、その傍に落ちていたドロップアイテムをしばし見下ろした後、俺は背を向けて歩み始めた。

「はぁ……。野人転●の主人公みたいに山に篭るか……」


 いかなる服を着てもGR職の負荷に耐えられずに、はじけ飛んでしまうことだろう。

 もはや、俺は全裸で生きるしかないのかもしれない。


 そんな風に苦悩して去った俺は知らなかった。


 魔王のレアドロップは、秘薬セイテンカーンであることを。

 そして、ルアナスキー男爵と、セイテンカーンを握りしめる勇者田吾作とが、去り行く俺のケツをガン見していたということを。


 知らなかったのだ……。

 






■■あとがき■■

2022.06.21


 あの炎上ラインをどうにかしないと!


 いよいよのっぴきならなくなって、筆者の上司たちも考えを改めてくれた。

 そこに至るまでの時間が長すぎたが、まあそれはどうでもよい。


 筆者のラインに、"炎上プロジェクト界の救世主"とも呼ばれる社内有数の高スキル社員が1名異動してくることになった。


「まさか、こんなに仕事のできる人がこの会社にいるなんて……!」

 筆者は、いかに自分のラインに●●みたいな人材しかいなかったのかを肌で感じて恐れ慄きながらも、助っ人にドンドン仕事を回した。


「すげぇ! こんなに、こんなにも……処理が捗るなんて」

 2名退職し、派遣BBAは1名入れ替わりという危機的状況。

 だが、そんな状況も彼ならば……彼ならばきっと何とかしてくれる!



 だが、そんな甘い目算は崩れ去った。



 彼が配属になってから1月半ほど過ぎたころ。


「すみません。テリードリームさん、少しだけお時間いただいてよろしいですか」

「まさか……ッ!」



~その後~



「あれが……噂の人財破壊神……!」

「テリードリームさんから後光がさしているわ……」

「ヒィッ。退職したくなっちゃう!」


 給湯室パントリーの前で心ないヒソヒソ話をするOLたちを尻目に、筆者は悠然と廊下を歩いていた。


 もはや失うものなど何もない。

 髪すらも喪ってしまったのだ……。

 もはや残っているものなど、アナ●処女ぐらいのものだ。


 なんということはない。

 世の中の全ての出来事が、筆者にとっては些事なのだよ。


 色々と波乱に満ちた日々が続いたために培われた鈍感力。

 それが筆者に根拠のない自信を与えてくれるようになった。


 何が起こっても動じない。そう自負するようになるほど、筆者は動揺をしなくなってしまった。

「ははは、どうということもない。これ以上の苦難など、起こるものか!」



 だが、筆者は知らなかった。

 筆者のサラリーマン人生が、更なる苦悩に満ち溢れているということを……。





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すみません。なかなか仕事が落ち着かず、連載の間があいてしまい、ギャグのモチベを保てなくなってしまったので打ち切ります(笑)

WinningPost9 2022とか、太閤立志伝V DXとかに足を引っ張られました。本当に申し訳ございません。


別途、次回作の告知します。

もうしばらく、本作をフォローいただけると幸いです。


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