第21話 ……ないでください……


『探さないでください』

 その晩、ムーラチッハは王城の客間に書置きを残して出奔したのであった。



 これは、己の天職に半ば絶望したためでもある。


 一連の出来事が、往年の儁才しゅんさいムーラチッハの自尊心を如何に傷つけたかは、想像に難くない。

 彼は怏々おうおうとして楽しまず、狂悖きょうはいの性は愈々いよいよ抑え難くなった。

 パレードの後、王城に宿った時、遂に発狂した。

 ある夜半、急に顔色を変えて寝床から起上ると、何か訳の分らぬことを叫びつつそのまま下にとび下りて、闇の中へ駈出した。

 彼は二度と戻って来なかった。

 附近の山野を捜索しても、何の手掛りもない。

 その後ムーラチッハがどうなったかを知る者は、一部を除いて誰もなかった。


 

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 低い位置から放たれた拳が唸りをあげて、魔物の頭蓋骨を撃ち抜いた。


 それにより飛び散る鮮血と脳漿。

 返り血が全身に跳ねるが、それもまた興を添えてくれる。


 血液特有の臭いが鼻をつくと、ますます闘争本能が刺激された。



「ハハハッ……! これだ! 俺が求めていたのはこれなんだ!」

 

 たまりにたまったストレスを発散するかのように。

 ムーラチッハは道なき道を進んだ。


 夜闇のなかを駆ける彼の物音は、獰猛な魔物を数多引き寄せた。

 だが、そのような魔物の息の根を止めることなど、彼にとっては容易いことであった。


 返り血を浴びることに躊躇するような良識は失せた。

 もはや、彼は自らが一匹の猛虎にでもなったように感じていた。


 血の臭いに寄せられる魔物たち。

 対峙するのは、ただ本能のおもむくままに拳を繰り出す獣であった。


 赤く染め上げられた聖女アーマー。

 それを翻しながら、ひたすらに彼は疾駆したのであった……。

 






「やっと、目的地についたか」

 そうしてムーラチッハはたどり着いたのだった。


 天職を変えることのできる地、ダールマの神殿へと。





■■あとがき■■

2022.03.26


T社において●●●●●●●を原因とした●●●●が発生。

それに伴い、ヅラ市長の部署において締結していた契約(前作のあとがき参照)書において不備があったことが判明。

社内の誰もが「そんなバカな……」と思った。


多方面で苦悩する筆者を、更なる悲劇が襲った。


4月人事異動で、頼りにしていた右手が部外に出てしまうことが決まった。

偉い人により勝手に決められた人事異動は、4月以降のライン業務の見通しを不可能とする事態を招いた。

なんで、こんなことに……。



だが、そんなことすらも生ぬるい出来事が。



とうとう……社内最大の敵が筆者の前に立ちふさがったのだ。


そう。


社長。


X領域に関する報告を社内会議体に行ってからというもの。

社長オーダーに対応することが増えてきていた。


報告をするたびに、まったく関係のないことを翌月の会議で報告するよう求められるのだ!

こんな些事に興味を持つなよ……。


当月報告をするためにヘロヘロになりながら関係各所と調整し、資料をまとめたというのに。

当月報告することで仕事が終わると思っていたのに。


なぜか報告後に、翌月の報告を求められるのだ。

ご丁寧に社長事前レクまで……。

こんな些事に興味を持つなよ……(大事なことなので2回言いました)。


さすがは社長。


当社の「高速増殖炉もんじ●」と呼ばれるだけある……。

核燃料リサイクル同様、手を変え品を変え同じような報告をさせられる。仕事のリサイクルなどお手の物なのだ!


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