第18話 謁見

「分かりました。謁見します」

 俺がそう発言してからは早かった。


 あれよあれよという間に、王城の謁見場の中心に立たされていた。

 流れるような段取りの良さに翻弄されてしまい、今更「やはり撤回したい」などと口を挟むことはできなかった。



 

 謁見場の中心。

 そこに立ったときの俺の心境は……




 針の筵だ。




「ほぅ……あれが当代の"聖女"ですか……」

「しかし、随分とまたガタイのいい……」

「ドレスが見事にフィット……」

「プッ……ククッ……」


 脇の壁際に臨席している大貴族たちの囁きが、嫌でも聞こえてくる。

 笑いをこらえるのに必死なやつもいるようだ。



(なんなんだ……。なんなんだ、この仕打ちは……)

 自らの置かれた境遇への憤怒。

 怒髪が天を貫くやもしれんほど頭に血が上る。


 それと同時に、心の芯から沸き起こる羞恥。

 ウェディングドレスを身にまとって王に謁見する。

 しかも衆人環視のなかで。

 そんな生き恥を人生で味わうことになるとは……。



 俺は、こんなことのために武を磨いてきたのか。

 今までの修業の日々は一体なんだったのか。

 幼きころから目指していた武の頂は、決してこのようなものではなかったはずだ。 

 尽きぬ自問に苛まれる。




 シン。

 突如として謁見場が静まり返った。


 いつ憤死するかも定かではないような時間は突如として終わった。

 貴族たちの表情はこわばり、さきほどまでの囀りがウソのように口は閉じられた。

 あわただしく動いていた官吏たちも姿勢を正して微動だにしない。




 俺は、謁見場内の雰囲気があまりに変容したことに驚いた。



 いよいよ王が現れる。

 そんな予感を抱いた。


 王が座るであろう壇上の玉座。

 そこから正面に見下ろされる位置に俺たちは立ち並んでいる。



 聖女アーマーを装着した俺。

 王都までアテンドをしてきたルアナスキー男爵。

 "聖女の従者"であるジェシカちゃん。

 そして、なぜか並んでいる田吾作。


 なにゆえ、このメンツでの謁見なのだろうか。

 謎が謎を呼ぶが、もはや俺の理解の範疇を超越しすぎていて、理解しようという気すら起こらなくなってしまう。



 スゥ。

 玉座の脇にあるビロードのカーテンが動いた。

 そこから、ウサマ王が姿を現した。


 

 初めて目にする王の姿。

 初老にさしかかるかどうかという年齢にも関わらず、異常なまでのオーラを放つ外見に衝撃を受けた。


 凡庸。

 そう巷間で評されるウサマ王。

 

 だが……俺の目の前にいる人物は、到底そのような評価で収まりそうにない。

 鬼気迫る何かを感じさせる。

 それも、俺によからぬものをもたらす何かだ。


 その瞬間。

 俺と、ウサマ王の視線が交わった。


 ふふっ。

 かすかな笑みを口元に浮かべたように感じた。


 これから何かとてつもなく恐ろしいことが起こる。

 俺は、そう思ったのだった。







■■あとがき■■

2021.01.26


 会議室での対話中のこと。

 病休を要するという診断が下された診断書を手元で確認している筆者に対して、Aさんが言った。


「テリードリームさん……」

「どうしましたか」

「3月末で退職させてください」

「な、なんですって……ッ!」

「急で申し訳ありませんが、勧奨退職に応募させてください」

「すみません。本日は病休に関する話だと思っていましたので、正直なところ動揺しています。明日、改めてお話をする機会を設けさせていただいていいですか」


 なんとか仕切りなおして、違う雰囲気のなかで慰留を試みることにした。

 意思が固くなければ、聞かなかったことで終わらせれるはず……!



 だが……。


「考え直してくれませんか。ベテラン社員であるAさんのことを頼りにしています。これだけの難易度の仕事を切り盛りできる方は、部内でもそうは居ません。まだ人生は先が長いのですから、体調が悪い状態で無理に退職をされる必要はないように思います。病気をゆっくり治しながら、軽減勤務で働かれたらいかがですか」

「もう親族などにも話をしていて、実家に帰る方向で話は進んでいます」

「そうなのですか……。ご意思は固いということですね」

「はい。勧奨退職の手続きをお願いします」




 そうして、筆者のパーティーからメンバーが一人去ることになったのだった……。



(前作のあとがきのノリは封印しようと思いましたが、あまりにひど過ぎてネタにしないと精神を病んでしまいそう。前回から間があいちゃったので、話は進んでませんが更新しました。ホントすみません)

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