第15話 聖女アーマー、装着!

 衛兵が押し開いた扉の先にあったのは……、どう見てもウェディングドレスだった


 レース、シルク、真珠やチュールがあしらわれたドレス。

 その特有の純白さは……清純無垢を連想させる。


(こ、これは……どう見てもウェディングドレスだろ……)

 俺は、内心で半ば呆れてしまった。

 コレを聖女アーマーなどと呼ぶセンスからして、もはや理解できない。

 どう見てもウェディングドレスだ。



 胡乱げな俺に対して、ナルアスキー男爵は話かけてきた。


「やっとたどり着きました。こちらが聖女アーマーになります」

「はぁ」

「こちらが"聖女"さまの正装になります」

「はぁ?」

「ですから。こちらが"聖女"さまの正装になります」

「正装?」

「そうです。王族に謁見するには、これを身にまとわねば……」

「いまの服装で十分だと思うのだが」

 俺は身にまとっている黒服をつまんで、男爵にも分かるように示した。


「いえいえ、とんでもない話です」

 男爵は首を横に振りながら続ける。

「歴代の"聖女"も装着していたという、由緒正しい聖女アーマーなのです。これを着用しないというのは……聖女保護法の趣旨などからも到底許されないと思います」


(また訳のわからないことを……。

 男の俺が、ウェディングドレスを着るとかありえないだろ)

 俺は、全力で拒否をすることにした。


「いやだ」

「そこをなんとか」

「俺が着なくても、それこそジェシカさんに着てもらえばいいだろうが。彼女が着たら、見るもの全てが魅了されるほどに素晴らしい絵姿になると思うぞ。こんなものを男が着るなど、正気の沙汰とは思えん」

「"聖女"以外が、聖女アーマーに袖を通すというのは……無理だと思います」

「何が無理なものか。どう考えても、彼女の方が似合うだろ。男の俺なんかより彼女の方がよく似合う。彼女が着た方が、はるかに"聖女"らしく見えるはずだ」

「私は"聖女"さまにこの聖女アーマーはピッタリだと思いますが……。私の主観はひとまず置いておくとしても、仮にも、聖防具にして"聖女"専用装備品なのです。それを"聖女の従者"に着せるなどとは……」


 そんな感じで、俺と男爵が言い争いをしていたときだった。



 突如として、周囲がまばゆい光に包まれた。


 あまりの唐突さに驚くかもしれないが、その唐突さには当事者の俺ですら驚愕したのだから安心してほしい。


 光源の位置から察するに、どうやら聖女アーマーが光を発し始めたようだった。


「なっ……」

 あまりのまばゆさに目を手で蔽って顔をそむける。

 とても直視できない光の強度だ。


「まさか、これは……!?」

 思わせぶりに驚く男爵に対して、俺は問うた。

「一体、なんだというのだ!!」


「かつて、言い伝えで聞いたことがあります」

「い、言い伝え……?」

「ええ。とある谷に住むババさまからの口伝ですが……。なんでも……『その者 青きころもをまといて 金色こんじきの野に降り立つべし。』……あっ違う。これ、間違いました。訂正します」

「はぁ」

 なにかとてつもなヤバいミスのような気がしたので、俺はあえて追及しないことにした。


「なんでも……聖女アーマーは、自らが相応しいと認めた持ち主を見つけると……」

「見つけると?」

「とてつもない閃光を放ち……」

「閃光を放ち?」

「持ち主に自動で装着されるされるそうです」

「う、うわああああああああああああーーーーーーーーーーーーーー!」


 その瞬間、聖女アーマーが俺に襲いかかってきたのだった。







■■あとがき■■

2021.12.31

今年もカクヨム読者の皆様には大変お世話になりました。

寝落ちやスランプで更新が滞ることも多々ございましたが、あたたかく応援いただけたおかげで、一年間を通して成長させていただきました。

この場を借りて御礼申し上げます。


より筆者の独自性が出せるように精進してまいりますので、ひきつづきのご指導のほどよろしくお願いいたします。


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