第14話 フェイクと聖女アーマー

「ジェシカと申します。私も微力ながらお手伝いいたします。どうか」

 "聖女の従者"。

 俺なんかよりも、はるかに"聖女"に相応しい見目麗しさをもつ女性だ。


 俺は、そんな彼女に懇願されてしまった。

 その透き通るような可憐な瞳が、俺の姿を捉えているのが分かった。



 ここで「城に行かない」などと。

 そんなことを言えば、俺の男がすたるというものだ。


 せめて第八開拓村エイトヴィレッジの民として恥ずかしくない漢気を見せねばならない。

 俺は挫けそうな心を奮い立たせた。



 そうだ。

 いまだ俺と彼女との物語は始まってすらいないのだった。


 思い返せば……まさにボーイミーツガールの典型のような出会いであった。

 そんな劇的な出会いであった。


 "神託の儀"の日に出会った俺と彼女は、天職においても共に支えあう位置づけなのだと自覚する。

 きっと、田舎者の俺が……彼女のような都会の女と知り合えるのは、最初で最後になるだろう。

 この結びつきこそが、神が授けてくれたものなのかもしれない。


 そうであるならば、せめて……その物語が結末を迎えた後に、辺境でのスローライフを送ってもよいのではないか。

 スローライフなど始めようと思えば、いつでも始めることができるのだから。


 ふと、そんな思いを抱いた。




「どうせ旅の恥だ。そんなものかき捨ててしまえ」

 そう、俺は独り言ちた。


 そして、下を向いていた顔を上げて、覚悟を発した。

「失礼。取り乱していたが、既に登城するということで段取りが組まれてしまっているのならば、今更取りやめることも難しいだろう。どうせ、今日一日で終わるような話だ。すぐにでも身だしなみを整えて城に行っても恥ずかしくないようにしてもらおうか」


 そうして、俺はジェシカちゃんの懇願を受けて登城することを決めたのだった。





 決めて……。

 決めてしまったのだった……。




---------------



 すぐさま準備を終えて登城した。

 そして今、俺たちは城内の廊下を進んでいる。


 俺の前を颯爽と歩く男爵と、ジェシカちゃん。

 その後ろに腰をかがめるようにして付き従う黒服。


 そう。

 俺は、今回の登城にあたって秘策を思いついたのだ。


 ……まぁ……ジェシカちゃんを"聖女"だと思わせて、俺が"聖女の従者"を装うというだけのものだが……。


 ジェシカちゃんが風をきるように前を歩くだけで、あら不思議。

 俺の存在が目に留まらなくなるのだ。


 幸い、いま着ている黒服も執事が着ていてもおかしくないようなものだ。

 ジェシカちゃんを"聖女"と思わせて、俺が"聖女の従者"を演出するための小道具として実に効果的だ。


 さきほどから廊下ですれ違った宮廷官吏や貴族たちが、ジェシカちゃんの容姿に目を奪われたり嘆息をあげてばかりだ。

 容姿に優れた彼女が上質なドレスを身にまとうだけで、皆が"聖女"そのものだと錯覚するわけなのだ!


 ハハハッ!

 勝った! 勝ったぞ!

 俺が"聖女"だと思われなければ、恥すらかかないのだ。


 この勢いにのって、城でのイベントをすべて消化すれば魔物討伐の旅に出て……そして、その旅路で順調にジェシカちゃんとの恋を育んで……ぐへへっ。

 


 そんなことを考えていると、衛兵たちが立つ扉にたどりついた。

「どのようなご用件ですか」

「実は……うぇっ……聖女アーマーの件で……」

「なるほど……。うぇっ……聖女アーマーですか」

 男爵が懐から取り出した書状をあらためながら、衛兵と男爵が気さくに会話を交わしている。


 聖女アーマー?

 そんな鎧が存在するのか。

 なにか嫌な予感がするが……。


 俺は一抹の不安を覚えたが、その不安の正体に気づくことはできなかった。




 それから更に何度も同様の手順を踏んで、どんどんと城内を奥に進んでいった。

 同じような廊下を延々と歩き続けたため、とうの昔に方向感覚は失われてしまっている。

 黙々と歩き続けることにいら立ち始めていた頃だった。


「ここですね」

 男爵がそういうと、重厚な扉が目の前にあった。

 その扉は、いままでの扉と比べるとはるかに重厚で威圧感がある作りだった。


 男爵に向かって、二人の衛兵が頭を下げた。

「ルアナスキー男爵さま、お待ちしておりました」

「ええ。ご苦労さまです」


 男爵は衛兵に礼をいうと、俺とジェシカちゃんに向き直った。

「こちらの奥に……うぇっ……聖女アーマーが保管されています」

「はぁ……」

「驚くかもしれません。ですが、きっと……”聖女”さまにお似合いの……」

「いや、もう嫌な予感しかしないのですが」

「ハハハッ。ご冗談を」

 そう軽快に笑うと、男爵は衛兵の方を向いて頷く。


 すると、衛兵たちが二人がかりで扉を押し開いた。

 ゆっくりと押し開いていく扉の奥……俺から見て正面に……たしかにソレがあった。







「うぇwwwwっうぇっっっx」

 笑わざるをえなかった。



「うぇwwwwっうぇっっっx」

 俺は笑わざるをえなかったのだ……。




 なんせ、そこにあったのは…… 







 ウェディングドレス!













■■あとがき■■

2021.12.29


ねおちネオチ寝落ち~♪

寝落ちをしちゃ~うと~♪

もじすモジス文字数、文字数やばいよ~♪


というわけで更新に間があいてしまいました!

ごめんなさい!




なんか仕事で疲れて寝てしまうんです……。

今年の冬休みは4日間しかないけど、そこでちょっとでも更新が捗るといいなぁ……(遠い目)。

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