第13話 王都到着


「失礼しますでゲス!」

 そんな声が外から聞こえたと思うと、馬車のドアが開かれた。


 血生臭さと熱気がこもる馬車内に、突如として清らかな外気が訪れた。

 火照った身体に気持ちよいし、随分と息がしやすくなった。


「やっと着いたか……」

 俺はゆっくりと開いたドアから身を乗り出す。



 ドチャッ。


 そして、全身を血まみれにして意識を失ったナルアスキー男爵を、御者の足元に投げ捨てた。

 血濡れの男爵が、受け身をとることもできずに無惨にも地面に叩きつけられる。


(こいつが田吾作か……。ふざけやがって)


 俺が怒気を発しているにもかかわらず、御者と思われる男は驚嘆した様子を崩さない。

 まるで、尻の穴から壮絶な出血をした人物を見ているかのような驚きっぷりだ。俺は断じて尻から出血などしていないのに。


「おい。よくもやってくれたな」

「や、やるでゲスか? オラはやってないでゲスよッ……! 」

「なにをたわけたことを言っている」

「それにしても、今回は男爵がヤられるパターンなんでゲスね……! おみそれしましたでゲス」

「いい加減にしろよ……ッ」

 いい加減ブチ切れそうになってきたときのことだった。



「大変失礼しました。不覚にもプレイの途中で気を失ってしまっていたようです」

 俺がさきほど地面に投げ捨てたはずの男爵が、なんと無傷の状態で立ち上がっていたのだ。


 血でまみれていたはずの衣服は整えられており、さきほどまでの戦いの痕跡すら消え失せている。

 俺は驚愕せざるをえなかった。

「な、なんだと……!」


第八開拓村エイトヴィレッジに伝わる秘拳でボコしたはずの男爵が、復活しただとッ!)

 俺の拳には、殴った感触がたしかにあったはずだ。

 にわかに信じがたい回復力であった。


「さすがの私も、今回ばかりはM豚に目覚めてしまいました」

「え、えむ……ッ?!」

「しかしながら余韻を楽しんでいるわけにもいきません」

「よ、よいん……ッ?!」

「今日はこれから登城をして謁見をする予定でございます。"聖女"というSSR天職を授かるというのは、それだけの大ごとですから」


「えええーっ……」

 正直、俺は王都に到着するまでの道中で、すでに第八開拓村エイトヴィレッジに帰りたくなっていた。

 良いことが何もないからな……。

 望んでもいない天職を授かるし、馬車では犯されそうになるし、オネショはするし。


 加えて、王城に行かないといけないとは……。

 まして、謁見まで。


 俺は生粋の田舎者だ。生来の無作法ゆえに王族の目に触れて、どのようなきっかけで不敬とみなされるかもわからない。

 労多くして益なし、というのが率直な感想だ。

 

 困惑する俺を横に、男爵は話を続ける。

「幸い、タゴサクのおかげでほぼ定刻どおりに王都の別邸に到着することができました。ですが、すぐに準備を整えて出発しないと、王族を待たせてしまうことになりかねません。私が介添えをつとめますので、すぐに服装を着替えましょう!」

「えっ。絶対に嫌です」

 お前の介添えだけは絶対に嫌だ。そういう信念の下、俺は全力で拒否をする。

 しかも貴族が着替えを手伝うなど、身分の観点からもありえないだろ。


「そこを何とか」

「もう勘弁してください」

「正装で王城に赴かないということであれば、処分の対象になりかねません。いますぐにでもお着替えをしましょう」

「もう第八開拓村エイトヴィレッジに帰りたいんです……」


 さすがの俺の心も折れそうになってしまう。

 もはや"武侠"となって弱き者を守護まもるという夢も絶たれてしまったことによる精神的なダメージは相当に大きい。

 実家の近くの山奥で畑でもやって生涯を終えよう……。

 そんな気分になっていたときのことだった。



「どうか……。"聖女"さま、私とともに一緒に王城に向かってください」

「キミは……」

「ジェシカと申します。私も微力ながらお手伝いいたします。どうか」

 "聖女の従者"として、俺に付き従う定めを背負った女性がそこに立っていたのだった。







■■あとがき■■

2021.12.25

 仕事で鬱入ってます。


 まさか、●●管理で刺されることになるとは……。

 救いは散々メールや紙で周知していたので、抗弁できそうなことぐらい。

 いや、厳しい。まじで厳しい。

 管理職になってそんな時間経ってないけど、はやくも降格の危機かもしれない。

 上げて下ろすというお笑いの基本を見せられてる感が半端ないです。




 

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