14 性癖と長所

「やっといい顔するようになったじゃん」


 机にお菓子が置かれた。

 ナギは軽いため息をついた。


「だから、お礼はもういいって」


「これはただの友好の印さ」


「それなら受け取ってやろうじゃない」


「お主もワルよのう」


 ナギは開封済みのチョコボールをひとつ食べた。

 どかっとミナミが隣に座る。


「で、いい顔ってなによ」


「その顔だよ」


「どの顔よ」


「こう、なんというか、静かな笑みっていうの?」


「シリアルキラー的な?」


「そうそう」


 ナギはスマートフォンの画面で自分の顔を見た。

 不健康そうな青白い顔、普段と変わりはない。


「今のあたし、人、殺してそう?」


「何人かはもう逝ったね」


「ご愁傷さまでした」


 ミナミは教科書類を広げ、あー、と伸びをする。


「入学からはや3ヶ月。青春の兆しは未だ見られず」


「告白されたじゃん。先輩から」


「それはノーカン」


「ジャッジが不正では」


「ルールが違うんだよ。サッカーのコートでバスケをするようなものだ」


「どっちもファールがあるじゃあないの」


「最小公倍数ではなく、最大公約数だよ、ダンナ」


「だからそのダンナっての、やめてよ。思い出すから……」


『おふたり、やっぱり仲がいいですね〜』


 ひっ、とナギとミナミはそろえて声を上げた。

 後ろにはアサイ。人を殺していそうな微笑みでナギたちを覗き込んでいる。


「や、やあ。アサリン」


「アサリン? もしかして……ワタクシのあだ名、ですか?」


「い、いい名前ね。アサリン、今度からそう呼ぶわねェ」


 思ってもいない言葉が出て、後悔するナギ。

 アサイは一瞬嬉しそうな顔をしたが、すぐに首を振った。


「嬉しいのですが……あいにく、ワタクシには力不足です。おふたりの間に入ることなど、到底できません」


「い、いや……そんなこと、なくない……?」


「ワタクシはこうして、おふたりの後ろで空気になっていた方が幸せなのですから」


 世の中は広い。

 こういった消極的な幸福を望む人間もいるのだと、ナギは知った。


「てか、アサイさ……いつもオレたちの後ろに座ってるよな」


「どきぃっ」


「友達、いないのね」


「……みんなと仲良くなりたいんですけど、どうしてかひとりになってしまうんですよ。ワタクシが入ると、尊い関係に水を差してしまう気がして……」


 身を滅ぼすもの。

 飲酒。

 喫煙。

 賭博。

 そして、強すぎる性癖。

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