第21話 何気ない日常

 変化なく、いつもの日常を過ごしていた。

 これで良い。

 突然変化をしてしまえば心が持たない事もある。

 辛く悲しくなるのはごめんだ。

 そんなことを思っていると。

「つんつん」

「ん?」

 僕の頬を指でつんつんしてきたみずきさん。

「何?」

「ぼーっとしてた」

「あー、ごめん」

「むぅ」

 みずきさんの頬が膨らむ。

「怒らないで」

弦大げんた君がぼーっとするのは分かっているけど、やっぱりむぅってなる事もあるの」

「それは、ごめん」

「ぼーっとして良いから、回数を減らして」

「善処します」

 僕のぼーっとはいつの間にかなる事で、呼ばなきゃその思考から意識から帰って来ません。

 ある意味、面倒くさいよね。

「でも時々、ぼーっとしててもカッコ良いって見えちゃう時があるから不思議」

「そうなの?」

 間抜け面と思ってるんだけど。

「そうなの、私だけかな?」

 みずきさんだけなら、まあ。

「私だけ知ってる事だし良いよね」

「うん」

「弦大君と関わらなきゃ分からない、まさに彼女の特権」

「おお」

 なんだか恥ずかしいや。

 嬉しそうに話すからよほど気に入っているようだ。

 ぼーっとも案外、印象ポイントが高かった。

「ねえ明日、予定あるかな?」

 みずきさんから珍しい!

「ないけど?」

「やった!」

「何かのお誘い?」

「一緒に勉強、なんてどうかなぁって」

 なーんだ。

「僕なんてみずきさんから教わる事しかないけど、それでも良ければ」

「いくらでも教えるし、一緒に出来れば楽しいかなって」

「1人よりはね」

「うんうん♪」

 こうして僕達は週末一緒に勉強をする事になった。



 僕の家で、僕の部屋で、勉強を始めて1時間。

 どの教科もみずきさんのおかげで捗った。

 分からない所を聞くと、先生よりも分かりやすくて理解出来た。

「みずきさん、本当に頭良いね」

 休憩中、オレンジジュースを一口。

「私より賢い人はいるよ」

 みずきさんもオレンジジュースを一口。

 ストローで飲んでいるので、なんだか上品に見えてしまう。

「分かりやすく教えてくれるし、先生の説明より理解出来る」

「ありがとう」

「教鞭を奪ったら勝てるよ」

「それは出来ません!」

 とりあえず、これで成績が上がれば感謝しなきゃだ。

「テスト前にもまた一緒に勉強良いかな?」

「もちろん、喜んで♪」

 良かった良かった。

「お兄ちゃん、入るよー」

「どうぞー」

 妹の弦姫ゆずきが入ってきた。

 手には問題集とノートと筆記具がある。

 ん?もしや?

「みずきさん、私にも勉強教えて下さい!」

 あーやっぱり。

「弦姫、お前なー・・・」

「良いよ?」

「マジか?」

「やった!」

 みずきさんは寛大過ぎです。


「はぁー、ありがとうございまーす!」

「どういたしまして」

 更に1時間経過していた。

「ではこれで勉強会は終了。片付けて帰るね」

「送ってく」

「ありがとう」

 片付けを完了し、みずきさんは「お邪魔しました」と挨拶してから家を出た。

「んじゃ送ってくから」

「気を付けてねー!」

「はーい」



 ゆっくりと歩く。

 みずきさんに合わせて。

「今日は楽しかった」

「こちらこそ」

 好きな人と歩く。それだけなのに幸せに満ちている。

 すると、みずきさんの方から手を繋いできた。

「この前の・・・約束・・・」

 ドキドキしてきた。

「約束だけど・・・手を繋ぎたいなって思ってて・・・」

「嬉しいよ」

「私も」

 僕もそうだけど、みずきさんの頬も赤くなっていた。

 暫く歩き、駅に着いた。

「迎え来てるからここで大丈夫」

「分かった」

 ゆっくりと手を離した。

 ぬくもりが残っているから、名残惜しさが増す。

「また学校で」

「うん、学校で」

 みずきさんを見送った。

「はぁ・・・帰りは寂しいな・・・」

 とぼとぼと1人で家に向かって歩いた。


 寂しいな・・・

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