第19話 気負う事なく

 3月に入った。はしょり過ぎ?そうかなー。

 卒業式が終わって、もう新学期への浮き足立ちとクラスが変わる寂しさがどこか漂った空気。

 そんな中、さとしと一緒に文房具コーナーにいた。

 バレンタインのお返しを買いに来たのだ。

「どれも分かんねーなー」

 肩を竦めてしょんぼりする聡。

「聡が考え抜いて決めた品に優愛ゆめは文句なんか言わないよ」

「だけどよー」

 悩める少年をよそに、僕は僕とて悩んでる。

 シャーペンやペンは好みやら拘りがありそうだし、ノートはなんか違うし。

 消しゴム?クリップ?

 野郎2人は迷走する。

「あー!お兄ちゃん!」

「ん?弦姫ゆずき?」

 なんでいるんだよ。しかも隣の彼は誰だ?

「弦姫、説明しろ」

「何を?」

「隣の彼はなんだ?」

「あー、お友達!ほんとに本当!」

 弦姫の目を見ても嘘ではないらしい。

「ふーん」

「信じてよー!」

 兄は親代わりでもあるから、変な虫なら即刻退治しなければならない。

「あの、はじめまして、宮藤くどうさんのお兄さん」

「あっはい」

 名字呼び・・・うむっ。

 見た目は爽やかだが、中学生特有の幼さは残っている。

 身長なんてまだ低いがこれから伸びる兆しあり。

「僕は宮藤さんと同じクラスの宮西みやにし龍誠りゅうせいです」

「妹がお世話になってます」

 礼儀正しいなー、好感度上がってる。

「今日は何故ここに?」

「うん、バレンタインのお返しをしたいって言うから選んでた!」

「は?」

 つまり、選んでもらってそれをその場でプレゼントってことか。

 僕はハッとした。そして、宮西君の手を取り。

「宮西君、妹をよろしく、ありがとう」

「えっ、は、はい!お兄さん!」

 僕はうんうん考えている聡に一言。

「聡、帰るぞ」

「あー?どしたどした?」

 頭上にクエスチョンマークいっぱいの聡であったが関係ない。

「んじゃ弦姫、気を付けて帰れよ」

「はーい!」

「お兄さん、責任を持って送ります!」

「ありがとう!」

 てなわけで僕と聡は妹達のいる場所を去った。


 ファミレスにいる僕と聡。

「つまり、一緒に店に行ってプレゼントしようってか!」

「うん」

「それなら外れないな!」

 宮西君に感謝しかない。

「とにかく、出掛ける約束をして行くぞ」

「おー!」



 直球で『この前のお返しをしたいから、一緒にお店にどう?』とみずきさんに送った。

 すると『ありがとう、じゃあお言葉に甘えて』と返って来た。

 そんなわけで、僕とみずきさんは本屋にいた。

 真剣に本を見るみずきさん。横顔が綺麗だなー。

 なんて見とれている僕。

「あの子もこの子も気になるなー」

 本の事を「あの子この子」と言っている。

 なんだか楽しそうだ。

「うーん、どっちが良いかなー」

 悩んでる悩んでる。

「ゆっくり考えて良いから」

「それだと弦大君飽きるでしょ?」

「大丈夫、飽きないさ」

 飽きるわけがない。

 好きな人と一緒にいるんだから。

「優しいね」

「そうかなー」

 みずきさんはまた本とにらめっこ。

 可愛いなー。

 こんな僕でも彼女と釣り合うのだろうか。

 少し不安がよぎる。

「よーし!決めた!ジャン!」

「おぉー」

 みずきさんが決めたのは絵本だった。

 赤ちゃん動物達のピクニックのお話。

「普通に書籍とか文庫本とかでも良いんだけど、絵本って回りくどい言い回しなくて、すんなり読めるのが良いよね♪」

 なるほど。

「絵も可愛かったり、芸術的だったり、飛び出す絵や音のなる絵、擦ると香りがする絵もあるし、凄いよね!」

 今時の絵本は凄いよなー。

 まだまだ可能性はあるんだろうし。

「それじゃあ、これね」

 絵本を預かりお会計を済ませた。


「どうぞバレンタインのお返しです」

「ありがとうございます!」

 絵本の入った紙袋を大切に抱き締めるみずきさん。

 満面の笑みだ。良かった。

「読むのが楽しみだなー♪」

 ルンルンなみずきさんを見て、僕も足取りが軽くなる。

「みずきさん」

「何?」

 振り向いたみずきさんと目が合って、腹の底から感情が湧いた。


「みずきさん、好きです」


 ついに、言った。


「この前の返事、です・・・」


 少し声が小さくなったけど。

 それでも、言えて良かった。


 みずきさんの様子は、みるみる顔が赤くなって、俯いていた。


「ありがとう、弦大君」


 そして顔を上げて一言。


「よろしくお願いします」


 彼女は涙を流しながら笑顔で言った。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 こうして僕とみずきさんは、恋人になった。

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