人生ゲーム(悪魔の正位置)
昔流行ったゲームの中に、人生ゲームというものがあった。双六形式でルーレットを回し、その出た目の数だけ進み、止まったマスに書かれたイベント事に従いながらゴールを目指すというものだ。勿論、人生ゲームという名前がついていることもあり、山あり谷あり。
そんな定番の人生ゲームだが、彼らの世界の人生ゲームと比べると、如何に都合よく且つ優しく作られているかが分かる。
「ねぇ、デビちゃん……これリアル過ぎない?」
「あ? それが人生ってもんだろ」
「いやそうだけどさ、これあくまでもゲームだし……」
外は雨、当初予定をしていたお出かけは取りやめ、家でゆっくり過ごそうとしていた私に、ゲームのお誘いが来た。
相手はもちろんデビちゃんで、彼の世界で流行っているゲームを持ってきてくれたのだという。それが悪魔式人生ゲームだった。
見た目などは人間界にあるものと変わらないが、仕様がとにかく細かい。
まず、人生ゲームでよくある銀行だが、始める際に配られるお金は融資としてみなされ、ゴールした時に利子付きで返却しなければならない。
次に駒となる車だが、ガソリン制度があるようで、双六のマス内にガソリンスタンドマスがある。ここに止まってガソリンを注入しなければ、進めなくなってしまう。進めなくなった場合、補給も可能らしいが、通常よりもかなり高い金額を支払う必要がある。
更に、生命保険などの制度に関しても、毎月請求があるため一定料毎回払わなくてはならない。何とも現実味のある人生ゲームである。
「え、これ子供制度……? 入院費とかいるの? しかも学校とかもあるじゃん……細かい!」
「人間はそこらでポンポン子供生み落とすか?」
「失言でした申し訳ございません」
他にもあげればきりがないが、現実感満載の設定である。その為ゲーム開始段階から疲労が凄い。
「俺様からだな……3か」
先攻はデビちゃん、出た目は3、マスには『知り合いに会い近くのカフェでお喋り。コーヒー代を支払う』と書かれていた。どの日常にもある内容だなと苦笑しつつ、私の番になった。
「え、1だ……『忘れ物を思い出して取りに帰る。スタート地へ戻る。』……幸先悪すぎるんだけど」
その後も進めていくが、私の止まるマスはどれもパッとしないものばかり。対するデビちゃんは、宝くじ売り場で宝くじを購入し、当選。どんどん先に行っている。
「デビちゃん運がいいんだね……羨ましいや」
「あ? お前の方がいいじゃねえか、俺様は最悪だ……」
「え、どうして? 宝くじ当たってるし、収入もあるでしょう?」
私が見る限りでは、かなりラッキーなように見えるのだが、彼は浮かない表情だ。その理由が次の一手で分かった。
「『うわさを聞きつけた親戚から、お金を貸してくれと要求される。人間関係のいざこざに挟まれ、入院をする。入院費を支払い2週間休み』……チッ、最悪だ」
「二週間って結構休みになるよね……? 確かに最悪かも」
デビちゃんが休みの間、私は地道にコマを進めていく。時々結婚詐欺の被害に巻き込まれたりもしたが、何とか安定した仕事につき、給料を貯金しつつラストスパートまで進んだ。
「お、もうすぐゴールだな。しかしここで究極の選択肢が来るぞ」
「究極の選択肢……?」
不思議に思いながら、ルーレットを回すとストップマスに止まった。このマスは必ず止まらなければならないマス。見ると、選んだ選択肢によって進む道が分かれている。
「『以下を決めよ。今後に待ち受ける試練は今までの者とは比べ物にならないくらいに大きいものだ。その試練は必ず訪れる、今その試練から逃れるか、逃れないか』……ってなにこれ!」
「書いてある通りだ、逃れたいなら右、立ち向かうなら左。それだけのことだ」
さも当然のようにいうが、かなりの究極的な選択肢である。右を選べば一旦試練からは逃れられる。左を選んだなら数々の試練に立ち向かいながらゴールをすることになる。ならば私は……
「左に進む」
「ほぉ、なんでだ?」
「その待ち受ける試練っていうのは、必ず遭遇するものなんでしょう? なら私は先に乗り越える。嫌なことは後からよりも先の方が受け止めやすいから……」
私は左を選び、ルーレットを回した。どんな試練でもいい、選んだ道に後悔はない。
「え、上がり……?」
出た目は10、ゴールちょうどの目だった。あっけにとられていると、デビちゃんが勝手にコマを進め、ゴールをした。
「借金もなしだな、よかったじゃねえか。俺様もやっと退院だぜ……」
程なくしてデビちゃんもゴールし、幸い彼も借金はなしで上がった。
「あの時右を選んでたら、お前死んでたな」
「え?」
「左の10の目、見てみろよ」
言われて見ると、こう書かれていた。
『美味しい話につられて引きずり込まれる。借金100万円と一緒にスタート地点へ戻る』
確かに彼の言う通り、最悪だ。何事においても地道が一番なんだろうなと何と無く理解したのだった。
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