美は一日にしてならず(恋人の正位置)
何事においても、たった一日心がけるだけでは身につかない。継続してこそ少しずつ身についていき、自分のものになっていく。それは心の中では理解していても、なかなか難しいものである。
「貴女、スキンケアはどうしたの?」
「あ……あははは」
「貴女の美は笑うことで向上するのかしら? それにしては随分とボロボロのようだけど」
表情は微笑んでいるが、目と声は全く笑っていない彼女を前に、私は心底後悔していた。彼女から毎回口酸っぱく言われているスキンケアを、最近怠っており、その結果が肌に出てきてしまっていた。
私の肌は所謂乾燥肌で、ひどい時には指の関節がぱっくりと割れてしまう。更に厄介なのは、洗剤や水などにもめっぽう弱く、短時間触れただけでかゆくなってしまう。かかないように手袋をしたりもするのだが、蒸れて結局上からかきむしり、その度に痛い思いをする。
そうならないように、極力保湿クリームを塗るなどして対策をするのだが、べたつくのが嫌になったり、単に面倒になったりで、継続してケアをするということが少ない。
勿論、そのようなことをしているから毎回痛い思いをしているということはわかってはいるものの、いざしようとすると面倒になって後回しにしてしまい、結果的に何もしないで終えてしまっていた。
「貴女ね、折角保湿力の高い化粧品を買っても、使わなければ意味がないでしょう?」
「お風呂上がりにしようと思うんだけど、暑くてそれどころじゃないというか……」
「何を言っているの、お風呂上がりの三分前までに保湿しないと意味がないじゃない。肌呼吸をするタイミングで吸収させないと、肌の奥まで成分が浸透しないのよ?」
「そんな細かい決まりがあるの?」
「自分の体の仕組みくらい、学んでおきなさい。特に乾燥肌なら尚更気を付けておくべきポイントよ」
彼女はそう言いながら、自分の手のひらにハンドクリームを載せ、両手で包み込み始めた。呆然と見ていると、そっと彼女に右手を握られ、ハンドクリームを塗りこまれていく。
「温かい……」
「ハンドクリームを塗るときは、こうして温めてからじっくりマッサージをするようにして塗るのが基本よ。ゴシゴシこするのではなく、抑え込むようにしてゆっくり塗るの。ほら、比べてごらんなさい」
「いつもよりしっとりしている気がする!」
「肌はね、温めると開いて冷えると閉じるの。温めた状態で塗り込んでやれば、成分が開いた肌の奥にまで浸透するから、しっかり保湿されるのよ。保湿した後は、成分が逃げないように少し冷やしたタオルなんかでふたをするといいわ」
そう言われてみれば、洗顔をするときも最初はお湯で流し、洗顔料を付けた後は水で流すといいと聞いたことがある。身体も同じなんだろうと納得しつつ、彼女の美意識の高さに圧巻されるのであった。
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