星空パズル(星の正位置)

 太陽が眠りにつき、月が起きる夜の時間。月と共に目を覚ます、空を彩る小さな光達は、空のあちこちでキラキラと輝いていた。そんな小さな光達に目をかけながら、彼女は今日も上機嫌で空を見上げていた。


「目に見えない子達も、輝けているかな?」

「うん! 僕たちはここだよーって一生懸命光ってるよ!」


 スターちゃんこと、『星』の正位置は、私には見えない仲間の様子を楽しそうに教えてくれる。夜空に輝く数多の星たちは、みんな彼女の仲間であり家族。嬉しそうに家族の様子を話す彼女につられて、自然と私も笑顔になる。


「ねえスターちゃん、前に星座は人間が作り出したものだって言ってたじゃない?」

「うん! 人って面白いこと考えるよねー!」

「私ね、星座って一番よく見える星たちを繋いで作ってると思うの。でも実際は目に見えない星たちもたくさんいるでしょう? だから、その子たちも一緒につないでオリジナルの形を考えるのはどうかなって思うんだ」

「あたしたちで? そんなことできるの?」


 私の言葉に、彼女は心底驚いたような顔をしながら言った。私達人間側が最も馴染みのある星座といえば、12星座と大三角形星座。勿論それ以外の星座もあるが、写真などでしか見たことがないのが現状である。

 それなら、自分達で作って楽しむのもよいのではないかと思いついたのだ。個人で楽しむ範囲なら、何も言われないだろうし、最も星たちが了承してくれるのならの話ではあるが。


「それ、すごく素敵だと思う! みんなもいいねって賛同してくれてるみたい!」

「ほんと? 良かった」

「ちょうどいいものがあるよ! あたしスケッチブック持ってくるね!」


 そう言って彼女は、一旦自分の世界に帰っていった。思い切って提案してみてよかったなと安堵していると、スケッチブックと色鉛筆らしきものを持った彼女が戻ってきた。


「お待たせ!」

「綺麗なスケッチブック……あれ? これ透明だね、ビニールみたいな素材なのかな?」

「これはあたしの世界で売ってるスケッチブックでね、空にかざして好きなようになぞっていくと、いろんな形につなげられるんだよ!」


 彼女が持ってきたスケッチブックは、透明のビニールのようなものでできており、空にかざすことで、まるで空を切り取ったかのように印刷され、その上に好きな形を描けるようになっているようだ。彼女の世界にふさわしいアイテムだなと思っていると、彼女が一緒に持ってきた色鉛筆らしきものも見せてくれた。


「これ、色鉛筆じゃなくてインクペン……? インクが動いているみたいだけど……」

「主の世界でいう立体ペンみたいなやつかな? このペンで絵をかいたりすると、浮き上がって空中に浮遊するんだよ! 触ったりもできるし、おしゃべりしたりもできるんだー!」


 そう言いながら、彼女はスケッチブックを空にかざし、星空が印刷されたことを確認すると、猫の絵を描いて見せた。すると、スケッチブックから、猫の絵が飛び出し、ごしごしと顔を洗いながら空中を楽しそうに歩く猫が現れた。


「凄い……ほんとに飛び出した!」

「猫座の完成、なんてね! 描いたイラストは、勝手に立体的になるし、動き回るから楽しいんだよー? 朝になると消えちゃうから、それまでしか遊べないんだけどね……」


 これらのアイテムは、星の力を原動力としているようで、星が見えなくなる朝になると効力を失い、使えなくなってしまうらしい。再び夜になると使えるようになるとの事だが、曇りや雨の日は同じく使えないのだという。


「そっか、それは少し寂しいね……」

「でもね、その分たくさん遊べば遊べない時も楽しかった思い出が蘇ってくるから、寂しくなくなるんだよ?」


 そう言って彼女は嬉しそうに笑った。彼女と二人、色んな絵を描いては描いた絵と遊んだり、お喋りをしたりして遊んだ。この日の夜は、私にとって忘れることが出来ない、貴重でとても楽しい思い出になったのは言うまでもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る