天使と悪魔(悪魔の正位置)

「ね、デビちゃん。デビちゃんの世界には、天使ってやっぱりいるの?」


 それはただの好奇心から浮かんだ疑問だった。デビちゃんこと『悪魔』の正位置は、名前にもある通り悪魔だ。

 悪魔に相対する存在といえば、やはり天使だろう。彼の住む世界には、そういった概念は存在するのだろうか。


「あ? 天使?」

「うん、デビちゃんの世界にもそういう存在はいるのかなと思って」

「お前あんな奴らのこと興味あんのか? 碌な奴いねえぞ?」


 デビちゃん曰く存在はしているものの、私たちが想像する天使のイメージとは全く食い違っているらしい。

 デビちゃんの世界における天使は、人々を天界へ誘う存在らしく、挫折した人などに声をかけ、連れていってしまうらしい。

 一方の悪魔は、デビちゃんのように無駄なものを切り捨て身軽にさせた状態で今を生き抜くよう仕向ける存在らしい。まさに正反対の存在だ。


「あいつら、頑張らなくていいんだよ~楽になろうね~とかいって直ぐあっち側に連れて行くんだぜ? 怖いだろ」

「何が原因なのかとか言ってくれないんだ……それは確かに怖いね」

「あいつらは解放こそが人の幸せだと思っているみたいだが、人の世に解放なんて甘い考えはない。あいつらに誘われたら最後、何も知ることもできずに消えてしまうだけだ」


 天使たちは早々に天界へ誘い、誘った後のケアは何もしないらしい。取り残された人の魂は、何が起こっているのかわからないままに消えてしまう……なんて悲しきことだろうか。

 その為悪魔であるデビちゃんは、天使を毛嫌いし、天使もまた悪魔を毛嫌いしているのだとか。それはそうなるよなと思いながらも、人間側では悪魔の方が悪いという概念になっていることに、悲しさを覚えた。

 海外における悪魔に関しては、確かに人に悪さをし、命を奪うようなものもいる。しかしカード上においての悪魔は、デビちゃんを含め人に寄り添ってくれる優しい存在だ。そんなデビちゃんを脅かす天使を、私は好きにはなれないなと思った。


「それでも、あいつらにほいほいついていくやつがいるんだよな……楽しそうに見えるとか言って」

「人って常に楽な方に行きたがるもんね……私も気を付けておかないと」

「お前は俺様と張り合って生きていれば目はつけられねえよ。つけられたとしても俺様がいる限り、指一本触れさせねえ。」

「ありがとう、デビちゃん。それに天使に主を奪われるって、相当の屈辱だもんね……私もそれだけはしたくないな……」


 もしも今、デビちゃんと天使がいて、手を取るならどっちだと言われたら、迷わずデビちゃんの手を取るだろう。だけどこの先私の身にいろんなことが起こって、再度どっちをとるかといわれたら……その時も迷わずにデビちゃんの手を取れるだろうか。

 人は弱い、判断力が鈍ってしまったら最後だ。きっとどこかで判断を誤って、天使の手を取ってしまうのだろう。そう思うと、デビちゃんの手を離したくないと強く思うのだった。

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