海の音、空の声(星の正位置)

「え……本当に?」


 その日、私は衝撃的な事実を聞いた。当の本人はきょとんとしているが、私にとってはかなり驚愕だった。


「スターちゃん……海見たことないの? 本当に?」

「うん! 私空しか知らないから!」


 スターちゃんこと、『星』の正位置は海を見たことがないのだという。

 元々スターちゃんは星を司るカードなので、今思えば見たことがないというのも無理はないだろう。

 然し、カードさん=何でも知っているという勝手な解釈をしていた私にとっては、新しい発見だった。


「ねぇスターちゃん……海、見てみたくない?」


 海を見たことがないというスターちゃんの為に、今日一日の予定を海水浴に変更して早速準備した。

 といっても大した用事があったわけではないので、いいきっかけになった。その日は幸いなことに晴天、海も透き通って見える。


「ここが海だよ」

「わぁ~! すっごくきれい!」


 初めて海を見るというスターちゃんの反応は、想像以上のものだった。歓喜の声を上げながら海に近付き、押し寄せる波に驚いて逃げ回ったりしていた。

 対する私は貝殻拾いをしながらスターちゃんの様子を見ていた。ひとしきり走り回って満足した様子のスターちゃんは、私が集めた貝殻を見て喜んでいた。特に、巻貝に興味を持ったのか面白い形だと言って喜んでいたので、耳に当ててみるように促す。


「何か聞こえる……!」

「海の音だよ、ざざ~って聞こえるでしょう? 本当は耳の中の音なんだけど、海の音って思った方がロマンチックじゃない?」

「うん……聴こえる! ちゃんと海の音聴こえるよ!」


 すっかり気に入った様子なので、持ち帰ることにした。帰宅したときに改めて感想を聞いてみる。


「初めての海、どうだった?」

「楽しかった……ありがとう主! 海って、空みたいだね!」

「空?」

「うん! 広いしキラキラしてたし、貝殻は私達星みたいだったし!」

「あはは、確かに似てるところがあるかもしれないね」

「でも……空の声はみんなには聞こえないから、ちょっとうらやましいな……」


 スターちゃんはそう言って少し悲しそうに笑った。そんな彼女に私は声をかける。


「でも、スターちゃんがいるじゃない。この巻貝が海の音を届けるように、スターちゃんが空の声を届けてあげればいいんだよ」

「そうだね! うん、私もっともっと空の声をみんなに聞いてほしい!」


 そういってスターちゃんは、嬉しそうに笑った。何となく、今の空もこんな風に笑っているような気がした。

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