第26話 コミュ障あるある

「お、おーい。焼けたぞー」


 依然として重たい空気が場を支配する中、弥生を呼ぶ。彼女が来ることで、空気がよくなればいいんだけど。


「すぐ行く~!」


 そんな声が聞こえて数秒、岩陰から出てきた弥生が海斗のもとに到着する。


「……え、なに? どしたん?」


 弥生はなにかを察し、海斗に訪ねる。


「あ、えっと……」


 海斗は耳打ちでササっと話した。


 すると弥生は何事もなかったかのように


「あ、よく焼けてるじゃない! 美味しそうね。早く食べましょ」


 俺の話を無視し、そう促してくる。怒られた?


 ……いや、睦美のいる前でそれ以上の話は出来ないからか。


「いただきまーす!」


 その場に座ると、弥生は元気にそう言って、目の前のアマゴにかじりつく。


「うっまぁ~い!」


 ホクホクの顔で食べ進めていく。


 ……今は色々考えていても仕方がない。折角の魚は美味しく頂きたいし、積もる話は後回しだ。


「いただきます。……睦美さんも、食べようよ」


「……はい」


 しきりに髪の毛をいじっていた睦美は、力なくアマゴに手を伸ばし、それを口にする。


 その様子を見て少し胸に痛みを覚えながら、海斗もアマゴにかじりついた。


 美味しい。やっぱり、魚は最高だ。


 美味しい、けど……。


「どうしたのよ海斗。美味しそうに食べないと、魚が報われないんじゃないの?」


 ……その通りだ。まさか弥生にそんなことを指摘されるとは。


「そうだね。うん、美味い」


 俺は正直な感想を言った。淡白な白身で、臭みなどは全くなく、旨みのある素晴らしい味わいだ。


「……ほら、睦美も元気出しなさい」


 ……驚いた。弥生が睦美を気遣っている。睦美が裏切り者かもしれないって言い始めたのは弥生なのに。


「……はい」


 しかし、睦美の表情は優れない。


 海斗はもう一度弥生の顔を窺うも、弥生はこれ以上、睦美に声をかけるつもりはないようだ。黙々とアマゴを食べている。


「「「……」」」


 ……もうちょっと話を続けてほしかった。


「……あ、今更だけど、弥生ってこういう魚食べれるの?」


 気まずい空気に耐えられなくなったので、なんとか話題を絞り出す。


「こういう魚って?」


「魚の姿がそのままの料理だし、大丈夫なのかなって」


「あー、まぁ、生き物としての魚じゃなければ大丈夫。串焼きはれっきとした食べ物だし、今はそこまで怖くないわ」


「ってことは、昔は怖かったの?」


「……そうね。一年前の今頃は、まだ怖くて食べれなかったと思うわ」


 急に弥生が悲しげな顔をする。海斗は地雷を踏んでしまった。


 え、これは深掘りしちゃいけないやつなのか? それとも俺の気にし過ぎ?


 ……日頃からクラスメイトと話したりしないから、よく分からない。人の感情を読み取るとか、難しすぎる。


 こんなことなら、友達でも作ってたくさん会話をしておくんだった。……まぁ、作ろうと思って作れれば苦労はしないんだけど。


 いや、でも友達作ると色々面倒だし、そもそも周りに釣り好きで俺と気が合いそうな人いないし、大体俺から歩み寄っても向こうが俺を拒絶したら友達にはなれないし……。


「「「……………………………………」」」


 ──色々考えていたら、喋るタイミングを失った。コミュ障あるある。


 そのまま、食事中は終始無言だった。

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