エピローグ

 あの事件から一年経った。季節は再び初夏を迎えている。

 由衣は神隠しに遭った記憶を取り戻した。神隠しに遭った人間はその時のことを覚えていないことが多い。そう椿は言っていた。しかし、由衣の特性と吉川の術が解けた偶然で、由衣ははっきりと思い出したのだ。

 由衣は花壇の花に水をあげていた。

「由衣ちゃ~ん!」

「あ、鷹斗さん!」

 名前を呼ぶ彼に、手を振り返す。

「どうしたんですか?今日は平日ですし、時間は昼間。お仕事は?」

「いや~それが異動になってさ~。新設部署らしいんだ。今回の神隠し事件を解決したって、大元さんが上に言っちゃってね……。で、大元さんを中心にグループが創られて、俺も加わることになったってわけ。それで、新設部署に」

「新設部署って何するんですか?」

「俺もまだ詳しくは聞かされてないんだけど、迷宮入りって呼ばれてる事件とか、俺たちの力が必要な事件とかが発生したら、出動!みたいな部署らしい。多分、警察は……椿の能力を使おうとしてるんだ……」

「それって……もしかして……」

「うん。を隠す代わりに、能力を貸せってことだろうね……」

 鷹斗は由衣に耳打ちした。

「吉川さん、自分の能力のことも今回の事件に関することも、過去の事件も、自分が警察官だってことも、何も覚えてないらしい……。椿は、彼を殺したんじゃなくて、のかもね……」

「由衣~いつまで外にいるんだ~戻ってこ……鷹斗!なんでこんな時間に、ここにいるんだよ」

 椿は家の中から出てきた。相変わらず太陽がまぶしいのか腕で日よけを作っていた。彼の顔はどこか依然と違っていた。

「それ由衣ちゃんにも言われたんだけど~?実は俺、異動になりました!で、二人にもう一つ報告があります!えっと~、俺、今日からここに住みます!荷物はもう届くと思うから、今日からよろしく!」

「鷹斗さんもここに住むんですか!?わ~賑やかになりそう~!じゃあ、買い物も三人分ですね!鷹斗さん、休みの日は手伝ってもらいますからね!」

 どうやら由衣は受け入れたようだ。椿はというと……顔がこわばっている。だが、少し嬉しそうな気もする。

「鷹斗、ここに住むなら家賃・光熱費その他諸々、払ってもらうからな」

 椿はそう言って、自宅の中へ入ろうとした。

「あ、さっき電話があった。依頼だそうだ。明日の朝、依頼人がここへ来る」

 彼はそう言うと、踵を返す。

 一瞬見えたその瞳は、薄い紫と温かな茶色をしていた。

 きっと、彼の中には陽行が生きているのだろう。

 暖かな日差しが、三人を包んでいた―――。

 

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探偵・四十住椿の事件〜事件と出逢いは紙一重〜 文月ゆら @yura7

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