第三章⑥
休暇を取った鷹斗。忙しい陽行に代わり、椿の看病をするためだ。
「椿……いつになったら目を覚ますんだ……お前……今どこにいる……」
ベッドで眠る椿を見ながら、鷹斗は力なさげに言った。
手には自らがまとめた捜査資料。そして椿周辺の人物から聴取した資料があった。彼は椿を救いたく、休暇を利用して捜査していた。
「鷹斗さん、今日もいたんですね……」
声のした方を見る。病室の入り口には由衣が立っていた。彼女は先週、無事退院した。神隠しの記憶がないだけで、身体にはどこも異常はなく、加賀美によって退院が許可された。
「ああ。いつ目を覚ますか分からないから……。目を覚ました時、一人なのはさすがにな……こいつ、こう見えて意外に寂しがりだから」
「鷹斗さんって本当に、椿さんのことよく知ってますよね。昔から仲がいいんですか?」
由衣の問いかけになんて答えたら良いのか……椿は彼女にどこまで話したのだろか……俺が勝手に話すのは……この際、話してもいいか……?と心に葛藤が生まれる。
「君は……椿のどこまでを知ってるんだ?」
突然、声がした。
「父さん……」
陽行が加賀美と共に立っている。
「あ、こんにちは……」
「由衣さん、元気そうで安心したよ。それで……君は椿や鷹斗のことを知りたいのかい?」
由衣はそう聞かれ、「知りたいっていうか……何というか……」という。陽行は「あれは……何年前だったかな……」と話し始める。鷹斗が止めようとするも、彼の口は動き続けた。
「君はもう、椿も鷹斗もこの教会出身だと気付いてるだろう?それに椿と住んでいるなら、こいつのことをある程度知っておいた方がいい。椿にとって君はどうやら特別な存在らしいしな」
陽行がそう言ったことに対し、鷹斗は目を見開いた。そして「由衣ちゃん……知ってたの……?椿から聞いた?」と問いかける。
「椿さんが前に言っていたことと、皆さんの様子と……を見ていたら何となく。でも誰も話さないので、知らないふりというか、あえて聞かなかったというか……」
彼女はそう答えた。
「二十五年ほど前かな……椿がここに来たのは。まだほんの赤子だった時だ。雨の中連れてきた女性がいてね。その人は私にこの子を託したんだ。それからはずっとこの教会の施設で育った。そして椿が二歳くらいの時だ。この施設に鷹斗が来た。それからはずっと二人でいたんだけど、鷹斗が五歳の時だったかな……彼は“松風”という温かい家庭に恵まれてね。椿はまた一人になった。まあ、学校は二人とも同じだったから仲の良さは変わらずだったが。そして小学五年の時に、二人が通う学校で神隠し事件が起きたんだよ。鷹斗もそれの被害者になった。で、椿がその時に初めて能力を使って、解決に導いたんだ。私も手を貸したが、椿のほうが能力が強くてね。あんまり役に立たなかったんだよ、私は。それからはいろいろあったが無事に成長して、今に至るけど……由衣さんはここからなら知ってるね?」
由衣は頷く。
「椿の能力、私でも怖い時があるんだよ……強すぎるんだ。そのせいでこんなことになる。こんなの初めてじゃないからね……」
聞いてはいけないことだったのでは……私なんかが気にしてはいけないことだった。と彼女は後悔した。
「鷹斗さん……あ、あの……」
「何も言わなくていいよ。俺のこと、知られて困るものじゃないから。それにいつかは話そうと思ってたことだし。気にしなくていい」
彼はそう言った。
「椿、早く起きなさい……一体いつまで寝てるんだ……?みんな、心配してるぞ……」
陽行が声を掛ける。
「神父……少し、彼の診察しますね……」
加賀美はそう言って、椿に近づいた。
ライトを目に当て、聴診器で胸の音を聞き、体を刺激する。しかし、彼は目を開けることも、動くことも、体をぴくつかせることすらない。
「あれ……」
由衣が何かに気づいた。
「由衣ちゃん、どうかした?」
鷹斗が声を掛けると、由衣は「鷹斗さん、今の椿さんの瞳……見ました?」と驚いた顔で近づいてきた。
「え、どういうこと?」
「椿さん、ふとした時とか、光が当たったときとか、薄く紫っぽく見えるんです。でも今、ライトが当たったのに普通の茶色でした……これってどうしてなんでしょうか……」
由衣がそう言った時、陽行は血相を変えて部屋を飛び出した。
何が起きたんだと不安になっていると、手に何やら色々持って再び現れた陽行。
「申し訳ないが……全員出てくれないか……」
普段とは違う雰囲気に低い声。鷹斗も由衣も怖くなった。
「あ、と……父さん?何するんだ……?椿、何かあったのか?」
彼がそう尋ねるも、陽行はこの部屋から出ていくんだの一点張り。仕方なく、三人は出ていくしかなかった。
「椿……お前のその眠り……そういうことだったんだな……」
陽行はそう呟くと、彼の周りに結界を張った。強力なものを何重にも―――。
そして「今から迎えに行ってやる……この命に代えても、お前を助けてやるから……」と彼は、椿の意識の中に入った。
彼しか使えない、“侵入の術”だ―――。
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