第21話 カブを収穫しよう

 十一月、リヨンと六人の村人はカブの収穫を始めた。丸くて白いカブが畑から引き抜かれてゆく。

「みんなで頑張ったからだよ。カブが収穫できて本当によかった」

「村長、野菜がいっぱいとれましたね」とターナーが返す。


 農民たちは、泥で汚れた手でひたいの汗をぬぐった。老人が何気なく放った言葉に他の者たちも驚いている。

「こんなにたくさんのカブができたのは村長のおかげじゃろう」


 農民たちがそろって顔を見合わせた。

「ほんとうだ。ベルン村の畑は魔族が荒らしたから。十個か十二個のカブしかできなかったんだぜ」

「そうだ。若いの。でも今回は畑の野菜が守られた。村長が守ってくれたからじゃけ」


 農民たちは泥まみれになったカブを眺めた。全部合わせても四十個以上はある。

「ターナー、これが全部カブか?」

「そうさ、フリーマン。しかも、たくさんできたな。それに大きさだって小さくない」

「まったくだ。よくやったぜ」


 村人たちは喜びながらカブの収穫を祝った。豚にやるエサができたと。

「村長さん、これで冬の食料は足りるかな?」

 若い男が村長に声をかけてきた。彼はこの村に移住してきた4人の若い農民のひとりだった。

「うーん…… 」とリヨンは悩んでいた。


 正直、冬を越す食料は足りそうになかった。手に入れたライ麦は一樽だけで買い足しが必要だ。特に豚肉は必要な量の半分しかなく、あとは狩猟で補う必要がある。


 村長が答えあぐねていると、横からロザリーが口を挟んだ。

「食料が足りないなら、カブを売って麦を買えばいいじゃない」

「あっ! その手があったか」とリヨンが声を上げる。


 村長のリヨンはポンッと手を叩いた。

 ロザリーは唯一の女性農民で独身でもある。器量は良いし、度胸もある。将来が期待できる人だ。

「ロザリーさんはどこへ買いに行きます。やっぱり市場かな?」

「はい。私に任せて下さい」


 ロザリーは村人に向けて自信たっぷりに言う。

「でも、シュタルクにある市場って遠いですよね?」

「誰かが着いていけば大丈夫です」

「俺も行きます」と即答するフリーマン。

「助かるわ。フリーマン・フリーモント」

「俺が荷車を押します。いいかな? 」


 心配そうに尋ねるフリーマンに、ロザリーは微笑んだ。

「助かります。私は足は丈夫だけど、荷物が多いから」

「わかった。俺が町まで連れていきます」


 ロザリーはカブを出荷する準備を始めた。彼女は泥だらけのカブを井戸水で洗った。二人は二十個のカブを荷車に載せた。荷台の隅には丸めた鹿の毛皮もある。

「ロザリー、金貨を1枚渡しておく、麦を買えるだけ買ってきてくれ」

「任せてください」



 ロザリーとフリーマンを見送った後でリヨンはターナーと話し合った。昼食をとりつつ、村の今後について考える。

「冬が近い。食料はできるだけ買い込まないといけないな。麦も野菜も足りていない。今から豚を買っても肥えさせれるとは思えない…… 」

「豚を購入する資金はおありでしょう。村長は石橋を叩いて渡りすぎです」

「ターナー、村に売れるものはあるかな? とにかく、食料をかき集めないと」

「薪と材木は売れるでしょう。あとは冬に向けて毛皮も高くなるはずです」


 ターナーはリヨンの心配しすぎな性格を笑った。

「上に立つものはいかなる時もドッシリと構えるべきです。これは父の受け売りですけどね」

「俺には父がいなかったから身近に参考になる人がいない。父は俺を認めなかったし、母は死んだ」


 そこにセレナが昼食を持ってきた。重い空気を切り裂くようにセレナの笑顔が炸裂する。

「今日はカブのスープか。さっそく収穫したものを使ったのか」

「玉ねぎも入ってますね。これはいい」


 塩だけで味付けされたカブのスープはまずくはない。ただ、ベーコンや鶏肉を入れればしっかりと味がついたのに、とリヨンは思った。

「ぬしがわっちが作ったスープを残さないか心配じゃ」

「残さないよ。セレナの作ったものだから」


 結局、リヨンはスープを二杯おかわりした。 ターナーは農作業をするために帰っていった。

「気をつけて」

「大丈夫。村長 困ったことがあれば相談を」



 少し遅い昼食を食べてから森林の伐採に向かった。冬に向けて小麦を植えるスペースをひろげる必要があるからだ。

「この木がいいだろう。持ち運べる大きさだ」


 リヨンは両腕に力を込めて、大木に斧を打ち付ける。コンコンという音が畑に響き渡る。大木に三角形の切り込みを入れて、木を倒す方向を決めた。

 木がきしみ始めた。 追い込みの一発を当てると大木は地面に跳ね返って倒れた。周囲に木が倒れた音が響く。人に直撃すれば生きてはいないだろう。

「死ぬな。確実に」


 スコップで切り株の周りを掘った。腰が痛くなるころには切り株の根っこが見えてきた。見えてきた根っこを斧で切り落とし、力ずくで切り株を引きずり出す。


 リヨンが作業をしていると、老人が斧を片手にやってきた。

「調子はどうじゃな? 」

「ご老人。 薪を作って売ろうと思いまして」

「それはいい。ワシは何にもしとらんのじゃ。手伝おう」


 リヨンと老人は力を合わせて六本の長い木を伐採した。伐採した木を担いで村に持ち帰る。

「空模様が怪しい。今日は天気が悪くなりそうじゃな。明日、続きをするんじゃ」

「明日は薪を作ろうと思います」


 リヨンは家の外に木を積み重ねて、必要なときに建築に使おうと思いついた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る