7. 十九歳

 降雪が落ち着くのを待って、三月の終わりにまた山里を訪れた。里から雪は消えていたが林道はまだたっぷりの雪に埋もれていた。


 冬の間は暖かい地方にツーリングに出かけていたが、それ以外の日は流れ作業のように大学に通っていた。毎日当たり前の生活を続けていれば湯小屋の彼女の事も忘れるだろうと思っていたのに、会いたくても会えない長い冬は、彼女の存在を俊彦の中でかえって大きくしていた。


 だがこの日も彼女は現れなかった、授業をサボって次の日まで粘ってみたが同じだった。林道に入れなくてテントを張る場所を見つける事が出来ず、この時はほとんど寝ることが出来なかった。


 次に山里に行ったのはゴールデンウィークの少し前だった。日が昇ってから東京を出たので湯小屋に着いたのは昼すぎだった。その日も彼女は現れなかった、翌日までいるつもりだったがやめて東京に戻ることにした。


 授業を気にしなければ無理をして朝までに帰る必要もない、途中のドライブインで仮眠をしながらゆっくりと帰ればいい。


 俊彦には彼女に会えたら訊きたい事があった。だがあれからもう半年が過ぎている、半年前に一度風呂で会っただけの男の事なんて彼女は忘れているだろう。彼女は俊彦の中に鮮烈な印象を残したが、彼女にとっての俊彦は一度湯小屋で会っただけの旅人の一人でしかない。あの出来事はもう青春の思い出にして、彼女に会うのは諦めるべきだ。


 帰る途中でアトランティスに寄った。


「あらぁ、お久しぶりですねぇ」


 おばさんは俊彦を見るなりそう言うと、暖かいお茶をテーブルに置いた。俊彦は言った。


「半年ぶりぐらいですよ、覚えてるんですか?」


「あらぁ、覚えてますよぅ、旅行の方ってだいたい一度きりでしょう? 遠くから何度も来てくださる方は珍しいから、覚えちゃうんですよぅ」


 おばさんは品川ナンバーがついた俊彦のバイクを横目で見ながらそう言った。せっかく顔を覚えてくれたこの人には悪いけど、次に僕がここに来るのはたぶんだいぶ先になると思う。もしかしたら一度覚えた顔を忘れてしまうぐらいに――。


 お茶がすごく美味しくて、慰められたような気分になった。見慣れたメニューをチェックするフリをして、最後ぐらいは贅沢をしようと生姜焼き定食でも頼むつもりで手を挙げた。


「はい、ご注文!」


 厨房の中から男の太い声が聞こえた。同じ辺りからすぐにおばさんの声が聞こえた。


「あなたお願い!」


 こんな山の中に伝説の大陸の名前で店を出した変人……いや大胆な男とは、一体どんな人物なのだろう。声から勝手に白髪まじりの頑固おやじ風の顔を想像していると、厨房の暖簾をかき分けて出てきたのは、白い半袖のブラウスを着た若い女性だった。


 おばさんと同じ白い三角巾を頭にかぶって、臙脂色のエプロンの紐を首の後ろで結びながら、彼女は小走りで近づいて来る。


 サンダルとは違う硬くて軽快な足音に足元を見ると、黒光りする真新しいエナメルの靴を履いていた。エプロンの下には細かい襞の付いた紺色のスカートが見える、胸ポケットからボールペンを取り出した彼女は、俊彦の前まで来ると顔を上げた。


 透き通るような白い素肌の少女だった。手入れとは無縁そうな凜々しい眉の下に形の良い大きな目があった。顔の輪郭が店のおばさんと良く似ていて、血のつながりがあることはすぐにわかった。目が合うと彼女は大きな目を余計に見開いて口をぽかんと開けた。それを見た俊彦の口もみっともなく開いた。


 髪型が違う、肌も白い、顔だって少しふくよかに見える。でも間違いない――。


 見た目だけのことなら姉妹や従姉妹でも強引に通せるかもしれない。だが彼女自身の反応が彼女が俊彦を知っている事を物語っていた。


「あの、ご、ご注文は?」


 彼女が言った。俊彦は慌てて答えた。


「あ、あの……ラ、ラーメン一つ。あああっ、いややや、やっぱりチャーシュー麺で」


「あ、はい。ラーメンですね」


「いえ、チャーシュー……」


 生姜焼き定食のつもりが、慌ててつい頼みなれたラーメンと言ってしまった。それをまた慌ててチェーシュー麺に変える。悲しい事だがこんなに混乱していても女の子の前で見栄を張る事は忘れないらしい。メニューから顔を上げると、彼女は小走りで厨房に戻っていくところだった。ずいぶんとせっかちだ。


 終了のゴングが聞こえてガードを下げたら、その日一番のパンチが飛んできた。そんな気分だった。これがもし本当のボクシングだったら、俊彦はまだたぶんこの場に突っ伏しているだろう。


 心臓が胸の中で飛び跳ねている、頭の中が真っ白で何も考えられないでいると、彼女がお盆を持って戻ってきた。お盆にのっていたのは案の定ラーメンだった。


 俊彦は小声で訊いた。


「あのぅ、僕の事、覚えてますか?」


 彼女の頬が少し赤くなった、悪い印象で覚えられてるわけではないような気がする。


「あの、実はもう一度会えたら、確かめようと思っていた事があるんですけど」


 俊彦が片手を口の脇に添えてそう言うと、彼女は少し意外そうな顔をして、厨房を気にしながら顔を近づけてきた。


「あの時なんですけど、途中で不機嫌になってませんでしたか? それなのに帰るときは機嫌が直ってたと思うんですけど、あれが何でだったのかがずっと気になっていて」


 半年のあいだ気になっていた事を正直に口にした。彼女は一瞬考えたように見えたが、すぐ思い出したようで少し頬を赤くして、照れたようなそれでいて含みのある表情を見せた。


「あの、それはちょっと、ここでは言いにくいんですけど……そんなに、大した事では」


 ここで納得してしまってはせっかくの縁が切れてしまう。俊彦は少し強引に、畳み掛けるように言った。


「僕明日、同じ時間にあそこに寄るんですけど、もしよかったら……」


 そこまで言って言葉に詰まった。目の前の彼女はあのときとはまるで別人だ、刈上げだった髪は可愛らしいショートボブに変わり、真っ黒だった顔は透き通るように白くなった。あの時はまだ少し感じられた子供っぽさも、今は跡形もなく消えている。


 もしあの時この姿で出会っていたらけして男と間違えたりはしなかった。あれがたった半年前の事だなんて、とても信じられない。


 こんな娘に一緒に風呂に入ろうだなんて、僕はとんでもないことを言っているんじゃないのか――。


 彼女は顎に手を当てて「う~ん」と小さく唸った。そのとき厨房の奥から声がした。


「あきこぉ、手伝ってちょうーだい!」


「あきこ」と呼ばれた彼女は、胸にお盆を抱えたままお辞儀をすると、何も言わずに小走りで厨房に戻っていった。


 俊彦はアトランティスを出ると、さっき来たばかりの道を戻った。会計の時も彼女は出てこなかった、明日は来てくれないかもしれない、風呂で一度一緒になっただけの男にもう一度会いたいと言われたら、女の子なら警戒する方が普通だろう。


 ただ僅かでも可能性があるのならそれに賭けてみたかった。彼女をどうこうしたいという気持ちはない。だからもし明日湯小屋に来てくれなければ、帰りはアトランティスにも寄らないつもりだ。けしてやましい気持ちで誘ったわけではないことを、彼女にわかって欲しかった。


 真っ暗な林道ををいつものねぐらまで走った。単気筒エンジンのリズミカルで太い音が山の闇に溶け込んでいった。誰も居ない河原でエンジンを切ると、いつも通り流れる水の音と自分の出す音しか聞こえなかった。


 来る途中で遠くに聞こえたのは鹿の鳴き声だろう、だがここではそれすら聞こえない。その晩はまた彼女に会えた歓びと、明日は来てくれないかもしれないという不安が頭の中をかき乱して、なかなか寝付けなかった。


 翌朝は蒸し暑さで目が覚めた。日が当たったテントの中はこの時期でも暖かく、明け方から四時間ほど寝れたようだ。キャンプ用の鍋で炊いたご飯にサンマの缶詰をぶっかけて朝飯を済ませると、もう一度シュラフにくるまってまどろんだ。時々少しの間意識が無くなるが、昨日の興奮がまだ収まらず熟睡とまではいかなかった。


 寝るのは諦めてテントの上でシュラフを干した。二時間ほどしてからバイクで里に降りた。湯小屋には誰もいない、そうだろうなと思いながら服を脱いだ。


 三十分ほど待って、あと十五分で諦めようと思った時だった、外で自転車の甲高いブレーキの音がした。小屋の脇の壁からガチャガチャという音がすると、誰かが戸を開けた。覗いた顔は彼女だった、ずいぶん息を切らせている。彼女は周囲を気にしてから中に入った。


「お風呂、入らなくていいですよ」


 そう声をかけようと思ったときには、彼女はもう水色のリボンを解きはじめていた。脱いだ制服を棚に入れようとしているのを見て気が付いた。あの時のリボンはたしか赤だった、セーラー服の襟も黒かった。今日のリボンは水色で、襟は白い。


 セーラーを脱いだ彼女はブラジャーを外してからスカートをあげてパンツを脱ぐと、次にスカートを脱いで最後に短いソックスを脱いだ。女の子の事は分からないが不思議な順番だと思った。


 お尻があの時より少し大きくなったかもしれないが、気のせいかもしれない。彼女はすべてを脱ぎ終えると俊彦の方を向いた、今日は胸から白いタオルを下げている。


 かけ湯をするとき、彼女は少し恥ずかしそうに身をよじった。腰のくびれが艶めかしくて俊彦は思わず目をそらした。たった半年前に少年と見間違えた彼女と、目の前の美しい女性が頭の中で一つに重ならない。


 目をそらしている間に彼女は湯に浸かっていた。二人は湯舟の中であの時と同じように向き合った。


「お久しぶりです」


 今日は俊彦から話しかけた、次に会えたらそうしようと決めていた。下を向いている彼女も「お久しぶりです」と小さな声で答えた。


「制服、違うんですね」見たものをそのまま言った。


「高校生になったんですよ、私」


「そう言えばそういう時期でしたか」


 彼女の胸を凝視している事に気が付いて目をそらした。全体が白くなったせいか前ほど大きさは目立たないが、貼り付いた桜色の蕾みは、心なしか開花を始めているように思えた。


「あの、あの事なんですけど……私、その何ていうか……あれ、が……その……普通……だったから」


 彼女は顔を伏せたまま言った。


「普通?」


 何の事だろう? よく見ると彼女の瞳が風呂の中の一点を凝視していた。もしかして……。


「じゃあ、あの時、急に不機嫌になったのって?」


 彼女は肩を竦めて小さくうなづいた。すぐに頬だけではなく耳まで真っ赤になった。俊彦は動転した。


「そんな。だってあの時、僕は限界までのぼせてたから……」


「のぼせると変わらないものなんですか? ソレって」


 綺麗な瞳で、そんな事、訊かないでよ――。


「いやその……あの、お名前はあきこさん、ですよね?」


「あ、はい、あきこです。”季節の秋に子供の子”です。平凡な名前で、ちょっと親を怨んでます」


「あの、僕は波多野です、波多野俊彦といいます。下の名前がアイドルのトシちゃんと同じで、言うと大抵の女の子は変な顔をするんですよ。凄い迷惑してます」


 芸能事務所に言いたい。アイドルの名前を付けるときは、できるだけその辺にあまりいない名前にしてほしい。ミケーレとか権之助とか――。


「トシちゃんですか。なつかしぃ!」


 秋子が言った。俊彦がぽかんとしたせいだろう、彼女は続けてこんなショッキングな事も言った。


「トシちゃんが人気だったのって、私が小学生の頃ですよ」


 うっわぁ、そんなかよ。


「あ、あははぁ、もうそんなに経つんだぁ、ふぅ。あれ? いま僕なに言ってましたっけ?」


「のぼせてたとか」


「あ、ああそうそう、そうです。あの時僕はもう限界だったんで、その、あれはけして秋子さんのせいではなくて。秋子さんは、その、凄く魅力的な……」


「『あっちゃん』でいいです、友達はそう呼んでます」


「ああ、あっちゃんですか。あは、可愛い。あ、でその……あれ、なんだっけ?」


「私のせいじゃないって」


「あ、あははは、まいったな、もう歳かな。それであの時は最初お湯の中でその……もの凄い事になってまして。それが後でのぼせてああなったんです。あ、あああああっ、こ、これはね、その、自分の意思でこうなるんじゃなくて、お、男には何て言うかその……生理現象って言うのか、そういう何て言うか、あ、あれがありまして、我慢するのは無理っていうかその……すごく難しいんですよ。持ち主の許可無しでこうなるんで」


 茶目っ気たっぷりの目をした秋子は、俊彦の顔を下からのぞき込むように見ながらこう言った。


「ほんとうですかぁ?」


 その問いに嫌らしさはまったく感じられない、どうやら俊彦をからかっているだけのようだ。もしかしたら彼女の中ではまだこれと男女のそうした関係が、あまり深くは結びついていないのかもしれない。


「じゃあ、帰り際に急に笑顔になったのって、もしかして?」


 彼女はさっきの茶目っ気たっぷりの目のまま小さくうなづいた。タオルのマッターホルンはしっかりと見られていたわけだ。額に手を当てて落ち込む俊彦を見て、彼女は見かねたように言った。


「でも私、嬉しかったんですよ」


「は? なんで?」


「あの頃クラスに何て言うんですかねぇ、張り合ってるって言うか……あ、こっちは全然そういうわけじゃなかったんですけど、なんかいちいち私に突っかかってくる娘がいたんですよ。みずきっていうんですけど。だから私も、その娘のやる事がつい気になって」


「ライバル?」


「こっちは全然そんな気無かったんです。そのみずきが夏休みの間にお風呂に行った時の話をしてたんですけど、湯小屋にどこかの大学生って感じの人がいて、その人のそれがその……変なふうに腫れてたって。あの娘たちあんまり勉強しないから病気か何かと勘違いしたみたいで、どうせ保健の授業も寝てたんでしょうけど」


「まあ確かに女の子から見たらあれは……と言うかこれは、見た事が無ければあり得ない変化かもしれない。人間の体でこんなに形が変わるものって他になさそうだし」


 そう言って俊彦は湯の中に沈んでいる分身をきつい目つきで睨んで見せた。それを見た秋子が笑う。素直な、こぼれ落ちそうな笑顔だった。


「それで、ここで俊彦さんと会った時に、あっ、なんか堅苦しいですね。トシさん……でも、いいですか?」


「もちろん」


「あの日トシさんが大学生だって聞いて、それじゃあ『私を見てもそうなるだろう!』って思ったのに……全然変わってなくて」


「いやあ、僕の方は大変でしたよ」


「本当は私、大ショックだったんですよ。『みずきに負けた』って」


 女の子って、いちいちそんな事まで張り合うのだろうか?。


「私、勉強ではあの娘に絶対に負けなかったし、スタイルだって私のほうが……。あ、あの、そんな風に思ってたんですよ、。なんか今思うとずいぶん嫌なかもですね。だから『私ってもしかして思い上がってたのかな』って、急に恥ずかしくなっちゃって」


 秋子の声がどんどん小さくなっていく、話の内容は勝気なのに、目の前でもじもじしている姿が可愛く見えてどうにも仕方が無い。


「それであんなに不機嫌そうだったんだ。でも僕のあれは本当にのぼせたからなんですよ。それまでは必死に我慢してたから、変な物を見せちゃいけないって」


「でも我慢できるんですか? さっき『すごく難しい』って」


「それはまあ、たぶん普通なら無理だけど。あっちゃんの凄いし」


 俊彦にはよく考えないまま、言わなくていい事を言ってしまう癖がある。


「凄い?」


 秋子はそう言って、俊彦の目を射すくめるように見た。真剣な目だった。


「真実を言え!」とでも言っているような視線に押されて、俊彦はうろたえた。


「あ、いや、この場合の凄いというのは、あの、その……」


「あの私、トシさんをいやらしいとかは思ってませんから。ていうか褒めてもらえるなら嬉しいです。”女冥利に尽きる”ってやつですよ」


 どうやら年下の少女に気を使わせてしまったようだ。俊彦は言う。


「苦手な計算問題とか、毎朝ちょっかいを出してくる馬鹿な奴のこととか、いろいろと思い出して必死に我慢してたんです。でもそれでも収まってくれなくて。本当にぎりぎりだったんですよ、あの時は」


「うふふ、良かったぁ。あ、『良かった』なんて……」


 秋子は照れながら手のひらでバンバンとお湯を二度叩いた。そして真っ赤になった顔をその手で隠した。どうせ隠すなら違う場所じゃないかと思った。


「あっちゃんみたいにスタイルのいい女の子、僕は他に見たことないです」


 さも自信ありげに言ってみせた。こういう小さな見栄を張ってしまうのも悪い癖だ。


「そんなにいっぱい見たことあるんですか? 女の子の裸」


「あああ、違います違います。そんな。いや、その、あの」


 慌てる俊彦を見て、秋子は微笑みながら言った。


「でも今思うと不思議なんですよねぇ。あの頃、何であんなにみずきと張り合ってたんだろうって。どっちが大人かなんて、放っておけばすぐに二人とも大人になるのに」


 たった半年前の事を、秋子はまるで十年も昔の事のように言う。この年頃の女の子の時間は、それほど速く進むということなのだろうか。


 実はそのみずきと言う娘には心当たりがある。初めてここに来た頃に湯小屋で会った三人組の一人だと思う。たぶん三人の中で一番体が大きくて、終始どこも隠さずに堂々としていた娘だろう。秋子と出会った時もその娘を思い出したから、この辺りの娘はおおらかなんだと素直に思えたのだ。


「でもあっちゃんのほうが絶対スタイルいいよ、あの娘は少しぽっちゃりしてたし」


「え? みずきの事、知ってるんですか?」


「たぶんね。だってその娘が言ってた大学生って感じの人って……」


 俊彦は黙って自分の鼻先を指さす。


「ええぇ!」


「去年の夏だよね? 僕がここに初めて来た頃だと思う。山の方の小屋で女の子の三人組に会った」


「そうそう三人組! 山の近くって『西端にしばたの湯』ですよね? 三人組の一人の地区の小屋です。あの子たちいつもセットなんですよ、背が私と同じぐらいで少しぽちゃっとした娘がみずきで、あとは小さめのぼっとした二人」


「ぼっとした二人って……でもたぶんそれ。ちょっと可愛い娘とその他二名。あの娘はそう、丸顔で髪はこれぐらい?」


「そうそう絶対にそう! そうだったんですかぁ、凄い偶然。でもやっぱりあの娘、トシさんから見ても可愛いんですね。そうかぁ、だぁからかぁ」


 秋子はそう言って湯の中のその辺りを見た。そしてすぐに目線を上げると口を尖らせて、低い声で言った。


「ぶぅ!」


「ああ、いやいや、あの娘はたしかに可愛いタイプだけど、あっちゃんはそれプラス美人だから」


 秋子がまた顔を真っ赤にした。実際あの娘は男好きのする可愛いタイプだったが、秋子はそれ以前に整った美人だ。もし俊彦の想像通り秋子の母親がアトランティスのおばさんなら、可愛さは母親譲りで美人の方は父方の血なのかもしれない。こうなるとまだ見ぬ店主の事がますます気になってくる。

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