楽園へのトンネル 第9話
間一髪、黒い毛の生き物から生き延びたミランダは向こうが離れるまで身動き一つ取らずに耐え続け・・・
少し離れた状況になってから二人と無事に合流する事に成功していた・・・
「どうやら大丈夫みたいですね・・・」
「あぁ・・・」
「えぇ・・・」
疲労困憊、3人は静かに黒い毛の生き物から離れた安全な場所で黒い毛の生き物を眺めていた。
右足から未だ血が流れているマイケルは冷や汗を流しながら震えている・・・
出血多量という訳ではない、余りの驚きの連続で動悸が激しくなっているのだ。
そんな様子のマイケルに対しミランダとトニーは心ここにあらずと言った感じである。
「なぁ・・・あれ・・・」
「そう・・・よね・・・」
マイケルが後方の黒い毛の生き物を見ている最中、トニーとミランダが見ているのは前方・・・
そこに在るのは巨大な蜘蛛の巣・・・
異常な程太く白い蜘蛛の糸がトンネルを塞ぐ形で壁となっているのだ。
遠目では出口の光が差し込んでいたので気付かなかったが、近づいて初めてそれに気付いた。
そして、その巣の中央にそれは居た。
「・・・わせ・・・く・・・せ・・・せろ・・・」
それを見たトニーとミランダは絶句し口を開けたまま硬直していた。
後ろでマイケルが何か一人で話しているが二人の耳には届かない・・・
それも仕方ないだろう、トニーとミランダはその巣の持ち主を見てしまったのだから・・・
掠れる様な声にならない音を発し続けている蜘蛛、問題なのはそのサイズである。
明らかに人間よりも巨大な体を持つ蜘蛛、その背中に無数の人間の顔が浮かんでおり、それらが声を上げていたのだ。
まるで、まだ生きた人間がそこに植え付けられている様に次々と呻き声を上げている・・・
「一体どうしま・・・ぁ・・・ぁ・・・」
二人から返答がない事に気付いたマイケルは、その視線の先を見て二人と同じ様に固まった。
そして、3人が視線を集中させたその瞬間、その呻き声がハッキリと耳に届き出したのだ。
「くわせろ~・・・くわせろ~・・・くわせろ~・・・」
一体何を?そう考える事に意味があるとは思えない・・・
通常の蜘蛛は自身の体と同じサイズや自身よりも大きいサイズの生き物すら捕食する、であるならば目の前の巨大な蜘蛛が何を食べるのかは言うまでもないだろう。
身動き一つ取らない蜘蛛は獲物が巣に引っ掛かるのを今か今かと待ち続けているのだろうか・・・
っであるならば、糸に触れなければ襲われることは無い、そうであろうと考えたマイケルは視線を周囲に配る・・・
蜘蛛が一切動きを見せないからだ。
「う・・・そ・・・だろ・・・」
トニーが体の震えを絶望の顔色のまま隠さずに声を絞り出していた・・・
だがそんなトニーに構う事無く、マイケルは何かないかと辺りを見回していた・・・
ここでマイケルがいち早く思考を巡らせたのは、勿論出口が目の前に在るという事からであろう・・・
トンネルを抜ければ楽園が在るとお告げで聞いたのだ、だからこそどうにかして抜けられないか我先にと考えたのだ。
そして・・・
「トニーさん、ミランダさん・・・あそこ・・・」
そう二人に声を掛けて指差す先・・・
丁度蜘蛛の真下に位置するその部分、人が一人通れそうな不自然な空間がそこにあった。
相手が人間であればどう見ても罠、だがマイケルには心当たりがあった・・・
「あの黒い毛の生き物・・・アソコを通過したのでは?」
「「っ?!」」
そう、目の前は蜘蛛の巣、あの黒い毛の生き物の向こう側は人食い魚の水たまり・・・
となればあの黒い毛の生き物はどうやってアソコで生きているのか?
そう考えた時に各々の思考が一つの答えに向かって走り出す。
それはまるで連想ゲームの様に仮説が立てられ、真実が導き出されていく・・・
あの黒い毛の生き物が何故トンネル内部をさまよっているのか?
その答えとなりえる仮説は導かれるように組みあがり・・・
「夜行性・・・なのかも・・・」
ミランダの呟きにトニーとマイケルも頷いて同意と返す。
そもそも他の生き物を捕食しなければ生きられない生態であるならば、ここに滞在したまま生き残っているのは不自然である。
虫なんかを食べて生き延びるには15年と言う歳月は長すぎる、そして前後を挟む肉食魚と蜘蛛・・・
餌が満足に取れる訳が無い状況で生き延び続けたというのであれば、外と中を行き来しているに違いない・・・
「よし・・・俺が・・・行ってみる・・・」
ミランダの言葉に出された解答は3人共同じ・・・
その中でトニーは自ら先に進んでみると告げるのであった・・・
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