楽園へのトンネル 第8話
「な・・・なんですか?!なんなんですかあれは?!」
マイケルは滝の様な汗を流しながら自問自答を繰り返す。
あんな生物は見た事が無かったからだ。
身の丈2メートル以上、全身が黒い毛で覆われ体を真っ二つに開いて獲物を捕食する。
驚くべきはその口が体のほぼ全てだという事だろう、通常の生物なら胃や腸などと言った内臓が存在する筈なのだが、あの生物にはそれが存在するようなスペースが無いのだ。
口だけの化け物、それがマイケルが見て理解したキャシーを喰らった物の正体である。
「はっはっ・・・」
呼吸を整えると共に右足から感じる痛みに耐えるマイケルはコソッと顔を覗かせてその生物を覗いた。
キャシーを食べた後、黒い毛の生き物はその場から動かずに佇んでいた。
目も鼻も耳も無さそうなその生物が一体何で獲物を感知して襲い掛かっているのか?
全く理解が出来ない故に、別の車の背後に身を隠したトニーとミランダも動けずに身を潜めていた。
マイケルは知らないが、トニーとミランダはその黒い毛の生き物が移動する姿を見ていたからこそ尚更動けずにいた。
そして、それをマイケルも見て驚愕する事となる。
スススッ・・・
突然動き出した黒い毛の生き物、目を疑うとはまさにこの事だろう・・・
脚で歩くわけでもない、転がって移動するわけでもない、ただただそのままの状態で音も立てずに黒い毛の生き物は水平移動を開始したのだ。
見ていても理解が出来ないのは仕方ないだろう、黒い毛の生き物はその毛を使って移動していたのだから・・・
そして・・・
ダダダッ!
黒い毛の生き物が自分から離れたのを見計らってトニーが駆け出した!
無謀とも思える行動、だがトニーには一つの確信があった。
それは、あの体の中に食われたキャシーの体が入っているとすれば、咀嚼されたとはいえ自重は確実に重くなり中身も半分は満たされているだろう。
ならば走って逃げれば追いつけない、そう考えたのだ。
事実、走り出したトニーには興味を示す事も無く黒い毛の生き物は近くをフワフワと行き来するだけである。
そもそも・・・
「もしかして、目も鼻も耳も無いから気付いてはいない?」
右足を怪我しているので走る事は困難だが、歩けない事は無い・・・
そして駈け出したトニーの足音にも反応を示していない事から、マイケルは出来るだけ静かに移動を開始し始めた。
結果、マイケルにも興味を示さない黒い毛の生き物、それを見たミランダも安堵して奥へと移動を開始したのだが・・・
それは動き出した!
「ひぇぇっ?!な・・・なんで?!」
ミランダの悲痛な叫び、音を立てず物凄い勢いで迫る黒い毛の生き物。
人の走る以上の速度で迫ったそれをミランダは走りながら見ていた、見てしまっていた。
首を後ろに向けていた為に落ちていた瓦礫に気付かなかったのだ。
「あっ?!」
躓き地面に倒れるミランダ、全力疾走に近い状態で転んだ為に顔面から地面に落ち、両腕をしこたま打ちながら転がる・・・
予想していなかったダメージと言うのは必要以上の結果をもたらす、ボロボロの地面は容赦なくミランダの体を傷付ける。
しかし、それが幸いした。
バクンッ!
先程までミランダが立っていた場所、その場所目掛けて黒い毛の生き物は口を閉じたのだ。
目の前に転がったミランダに気付いておらず、認識すらもしていないのか絶望の表情のまま固まるミランダ・・・
だが黒い毛の生き物はそのまま暫く佇んだまま制止し、再びフワフワと移動した道を戻っていく・・・
何故か分からないが助かったミランダ、壁沿いをゆっくりと移動するマイケル、離れた場所で見守るトニー。
3人共分からない、分かる筈が無い・・・
黒い毛の生き物が夜行性のコウモリ等が使う超音波でエコロケーションを用いて獲物を認識していた等とは・・・
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