楽園へのトンネル 第4話
久々等と言う言葉ではまだ足りない、そう感じる程懐かしささえも感じる安眠を取った6人。
世界に蔓延した謎の霧、それ以降安らぎなんてモノとは無縁の毎日だった。
勿論霧のせいだけではない、知人すらも心を許せる状況に無かったのだ。
霧がどこもかしこも覆い、それに便乗し悪さをする者も多数居た。
衣食足りて礼節を知るとは良く言ったモノである、食料一つ満足に得られずにいる人間がどう行動するかは目に見えているのである。
だが、他者に振舞えるほど大量の食糧の発見と安眠が許されるほどの安息空間。
夜行バスの中で眠った事の在る者ならば不満を漏らすであろう、だがその環境ですらも彼等にとってはまさしく楽園であったのだ。
特に6人の中で一番若いキャシーに至ってはクッションなんて弾力のある物の上で寝た経験なんて殆ど無かったのだ。
安息・・・しかしそれは悪夢の始まりだとは誰も思わなかった・・・
「ん・・・んんっ・・・そうか、俺達ここに辿り着いたんだな・・・」
目を開いたジャックが首を回してゴキゴキと音を鳴らす。
バスのシートで眠っていたにしては体が随分と楽になっていたのに少し驚きつつ、頭をボリボリと掻いて開けっ放しのドアから外に出る。
トンネル内部は勿論暗いが、入ってきた入り口の方の霧が白く濁っている事で朝が来たのだと確認しジャックは朝食の準備を始める。
やがてゾロゾロと他の者もバスから出てきて軽く挨拶を交わす。
「おはようジャック」
「あぁ、おはようキャシー」
生まれて初めて快眠を経験したかのように、元気いっぱいになったキャシーは微笑みながらジャックの料理に目をやる。
まだまだ大量にある缶詰を開けてジャックが作っているのは鍋の様な料理であった。
日本人なら色々な具材が混ざって作られたこの鍋を見れば闇鍋かちゃんこ鍋だと言うかもしれない、そんな統一性の全くない鍋であった。
と言っても野菜的な物は携帯していた野草を使用しているし、携帯していた干し肉なんかも使われていた。
缶詰の具材に至っては使えそうな物だけを抜粋して作られているのだ。
「んー凄い良い匂い」
「そうか?適当に作ったから味は保証しないぞ」
「ジャックの作る料理だったらきっと大丈夫だよ」
昨日は置いていかれてそのまま人生の幕を下ろしかけたキャシー、だがそんな事を全く感じさせない感じで明るく話す彼女にジャックは笑いながら少し辛く感じていた。
それもそうであろう、今となっては常識となった考え方をずっとしていた彼にとっても栄えていた当時の文明に触れた事で考え方が変わりつつあったのだ。
だがジャックもまたキャシーにそんな事を知られないように明るく振舞っていた。
「それで、あいつらはどうしたんだ?」
「えっ?」
そうジャックが視線を向けている方向にキャシーも顔を向ける。
そこではマイケルとホリー、トニー、ミランダの3人が何か言い合っている様であった。
「だからお告げはそれ以上無いのです!」
「だったら尚更このままじゃ駄目だろ?!」
トニーの言葉にマイケルは言葉を詰まらせる、マイケルが告げたお告げについて今後の行動について話し合っていたのだ。
そして、マイケル自身が昨日までと真逆の行動を取ろうとしているのに3人は怒っているのだ。
『ここを出た時に楽園が汝らにその姿を現すであろう』
そうマイケルはお告げを聞いたと言っていたのだ。
だからホリー、トニー、ミランダの3人は先に進んでトンネルを抜けた先に楽園が在ると言っているのだ。
ここまでマイケルが授かったお告げに従って行動を共にしたのだから最後までお告げに従おうとしているのである。
だが問題なのはそのお告げを授かってここまで導いたマイケル自身が進むのを何故か嫌がったからである。
理由は簡単であった・・・
「それにここに居ればまだ暖かい寝床と豊富な食糧があるのですよ!」
「だがそれもいつまでも続くわけじゃないのはあんたも分かっているだろ?何故突然嫌がり始めた?」
「それは・・・」
昨日までの、お告げ通りの行動をする事が当たり前と言わんばかりのマイケルとは人が変わったように挙動不審である。
何かを言うべきか迷っている様にも感じられるマイケルの様子にミランダは一つため息を吐いて告げる。
「仕方ない、私達は先に進むべきだと思う。だから進む人間だけで先を目指すとするよ」
「ちょ、ちょっと待って下さ・・・」
「マイケル、一体どうしたのかは分からないよ。だけどミランダの言う通りだと俺も思う」
先に進むのを何故か止めようとするマイケルであったが、ミランダに続きトニーも賛同し彼の言葉を遮った。
少し悩んだ様子のホリーもミランダとトニーに付くようであった。
「皆さん・・・」
「マイケル、今日までありがとう」
ホリーの言葉を聞いてマイケルは少し悔しそうに俯き小さく頷く。
そして、3人は自分達を見ているジャックとキャシーの方を向いて尋ねた。
「マイケルは残るってさ、それで二人はどうする?」
その言葉に困惑した様子で顔を見合わせるジャックとキャシー。
そんなやり取りをしている最中、一人の人物がバスから降りてきた。
誰もがそれに気付いて視線をやり驚きに目を見開いた。
「な・・・なんで・・・」
「うそ・・・」
そこには左足太ももから血を流す一人の少女、そしてその人物を見てキャシーが互いに見合って言葉を漏らした。
それもその筈、そこに居たのは全く同じ姿をしたもう一人のキャシーだったのだから・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます