人から人へ感染するアウトブレイク 第13話

「そんな・・・ワシが・・・ワシがあいつを・・・」

「村長、しっかりして下さい!」


猟銃を手にしたまま仰向けに倒れ込み、呆然とする村長。

駆け寄って声を掛ける護衛へと視線がゆっくりと向く・・・

息子に続き奥さんまで失った村長に声がかけられないガンジーは、寄り添うヒロエに触れる手に力が入る。

それに呼応するかのようにヒロエの手にも力が入った時だった・・・


「お父さん・・・あれ・・・なに?」

「えっ?」


そう言ってヒロエが指差したのは奥さんが倒れる床の隅・・・

そこに小さな穴が開いており、中から小さな赤い目が光っていた。

そう、外から中に入る人間には確実な確認を行っていたにも関わらず、発生した事件。

一体どこからアレが広がったのか、そして村長の奥さんにまで及んだのか・・・

あの部屋のアレになった人間は全て射殺処分されたというのに離れたここで起こったアレ・・・

全てはそれが原因である・・・


「お、おい・・・逃げろ!」

「えっ?一体どうし・・・」


ガンジーが叫び、護衛がそこまで言ったところでそれは駆けだしてきた。

1匹だけならば静かな移動で気付かなかったのだろう。

だが集団となれば当然音も大きく鳴る。

トトトトと言う音が可愛く感じれたのも一瞬、それは一斉に穴から飛び出し駆けだしてきた。


「う、うわぁあああああああああ!!!」


慌てた様子で猟銃を構えた護衛が発砲する!

的が多数あるので命中し複数の肉片が吹き飛ぶが、お構いなしとばかりに残りが一斉に駆け寄ってくる。

赤い目の集団、それはネズミであった。


「ひっ?!」

「そ、村長なにを?!」


床に倒れた状態だった村長は慌てて立ち上がろうとするが、近くに居た護衛の腕を引っ張り銃口を反らせてしまう。

結果、目の前のネズミの集団から狙いが反れて発砲し・・・


「ぎぁあああああああああああ!!!!」


まるで波に飲まれるようにネズミ達がその体に群がった。

二人の護衛も村長と共に襲われ噛み付かれる。

痛みが走り叫ぶ、まさかこのまま喰われるのかと恐怖に引きつった。

だが、ネズミ達は群がり噛み付いた後はそのまま村長と護衛を避けガンジーとヒロエの方へ駆けだした。


「走るぞヒロエ!」

「お父さん?!ま、前?!」

「くそっ!」


ヒロエを抱えて逃げようと振り返った時であった。

反対側からもネズミが数匹走ってきており、既に退路は塞がれていた。

後ろから既に噛み終えた護衛と村長を避けて向かってくるネズミ、正面からも向かってくる数匹のネズミ。

一度噛まれれば終わりな赤い目のアレ、もう逃げ場は無かった・・・そこしか。


「ぐおおおお!!」


ガンジーはヒロエを抱き上げ、胸位の高さに在る窓に向かって拳を突き出した!

ビシィッと拳の衝撃でヒビが入り幾らかのガラスが拳に突き刺さる。

拳と同時に違うカ所への痛みでガンジーの顔が歪む、既に足首に噛みつかれたのだ。

その体を這いあがり、ネズミがヒロエを狙ってやって来る!

窓から見える少し夜が明け始めた薄暗い景色、今にも雨が降り出しそうな黒い雲で覆われた視界が徐々に赤く染まっていく・・・


「なんとかヒロエだけでも・・・」


そう口にしたガンジーであったが、足首に熱が発生し、ガラスで傷ついた拳に肉が盛り上がる。

弾力が生まれた肉によって窓に再度殴った拳は窓を割る事無く肉を潰して威力が殺された。

そして・・・


「痛っ?!」


ついにガンジーの腰から飛び付いたネズミが抱き上げていたヒロエに噛みついた。

それを理解すると共にガンジーはその場に膝をついた。

もう、助からない・・・それを理解したから・・・

真っ赤に染まる視界、その時であった。


バーン!


赤く染まる視界でガンジーは大きな音のした方を向く・・・

そこには村長の頭部を撃ち抜いた護衛の姿。

そして、銃口を咥える様に口に含みこちらを見た護衛・・・


「俺は・・・あぁなるのは・・・嫌だ!」


そう言って護衛の男は自らの口内で猟銃を撃った!

一瞬でその命が刈り取られ力なく倒れ込む護衛。

真っ赤に染まった視界のせいで飛び散る鮮血は判別がつかず、倒れ込む護衛の体が床に沈んだ。

一噛みすれば満足したのか既に周囲にネズミの姿は無く、真っ赤な視界はただただそれを見ているだけである。


「・・・さん・・・お父さん!」

「っ?!」


今にも消えそうな意識がその声で引き戻された。

もう赤く染まり、輪郭しか見えなくなりつつある視界の中、娘の・・・ヒロエの声が聞こえたのだ。

そして、ガンジーの手にそれが手渡される。


「お願い・・・もう・・・無理なの・・・これで・・・お母さんと・・・エルミンの所へ・・・逝かせて・・・」


自分よりも後に噛まれた事でまだ動けたのだろう、ヒロエは落ちていた猟銃をガンジーに手渡す。

もう輪郭すらもボヤけ、思考が停止しそうになっているガンジーはその言葉に一度だけ頷き・・・


「あぁ・・・一緒に・・・皆の所へ・・・いこ・・・う・・・」


そう言い銃口をヒロエの頭部に合わせ・・・

猟銃の引き金をガンジーは引いた・・・






窓に当たる雨音、いつの間にか降り出した雨がその音を消すかのように突然強く降り出し窓を叩く。

目の間に在る何かが倒れる音だけがガンジーの耳に届き、煙が出ている銃口を自ら咥えるガンジー・・・

やっと解放されるという安心感がガンジーを包み込む中、ガンジーはその引き金を引く・・・が。


「そ・・・ん・・・な・・・」


カチっと猟銃からは弾は発射されず、最後に残った意識がそれを弾切れだと知らせていた。

だがもう頑張る理由も元気も残されていない、視界は全て真っ赤に染まっており、意識が遠くなっていく・・・

まるで雲の中に溶け込んでいく様にガンジーはそこへ沈んでいく・・・

耳に残る最後に聞こえた雨音・・・

終わりを知らせる様にその音がフェードアウトしていくのであった・・・

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