人から人へ感染するアウトブレイク 第12話
時間にしてどれ程だろうか・・・
3名で代わる代わる部屋の中の立ち上がる人影の頭部を撃ち抜いていく。
数発しか弾が込められないのを上手く3人でローテーションする事で途切れず部屋へと弾丸が撃ち込み続けられた。
まともな神経・・・いや、正気を保った者ならばこの状況で立ち上がろうとはしないだろう・・・
そんな憶測で延々と立ち上がった人を撃ち続ける光景がそこにあった・・・
「どうやら最後の様だな・・・」
一人の言葉に次に弾を込めていた男の手が止まる。
20発以上の猟銃の球が撃ち込まれた室内は悲惨な光景へと様変わりしていた。
頭部を撃ち抜かれて破壊された死体が床には転がり、壁や天井にまで飛び散った血や脳髄が付着している。
日も暮れたという事もあり点灯したランプの明りがその光景を朧げに照らし上げていた。
「まだ生き残っている人はいますか?居ましたら両手を頭に乗せてゆっくりと立ち上がって下さい」
そう部屋の中へ告げる男。
赤い目をした人間が生き残っていたならば怪我を回復させ直ぐに立ち上がっていただろう。
またギリギリ噛まれてそうなった人が居たとしても、指示通りの行動を取れば直ぐに殺されることは無いのだ。
勿論アレになっていなければ・・・であるが。
だが、ガンジーにとってそんな事はどうでもよかった。
ただただヒロエがどうなったのかだけが気になっていた。
「ひ・・・ヒロエ・・・ヒロエ?」
もしかしたら生きているかもしれない、村長に呼ばれたからと言ってこの場を離れた事を後悔しながら名を呼ぶガンジー。
その時であった。
「おとう・・・さん?」
背後から聞こえた聞き覚えのある声・・・
猟銃を持った3人もその声に驚き銃口を向けて振り返る。
そこには・・・
「ひっ!?」
ヒロエと若い夫婦の姿が在った。
震えながら恐怖に顔を歪ませ、こちらを見ている3人・・・
その姿を確認した男は猟銃の銃口を向けたまま告げる・・・
「その場から動かないで、何処に居たのですか?」
「と・・・トイレに・・・」
その返答に3人は顔を見合わせて1回頷き銃口を下へ降ろした。
会話の中で3人の目の色を確認していたのだろう。
部屋の中で起こったアレがどうして始まったのか分からない。
だが目の前の3人は無事な事だけは理解できた。
「ヒロエ!」
銃口が降ろされると共にガンジーが飛び出しヒロエに抱き着いた。
それは仕方のない事だろう、間違いなく死んだと思っていた娘が生きていたのだから。
だが、部屋の中に避難していた住人たちは誰一人生き残ってはいない、今現在ここに居るのは村長夫婦、護衛の猟銃を所持した男性3人、そしてガンジーとヒロエとヒロエに付き添った若い夫婦だけとなったのだ。
「しかし一体何がどうして・・・」
「建物の中に避難してきた人は全て目と傷のチェックをしていた筈なのに・・・」
護衛の3人が会話しているのを聞いてヒロエはそれを目の当たりにした。
自分がさっきまでいた筈の部屋の中の光景を目にしてしまったのだ。
勿論3人の様子から撃たれ続けていた銃声は聞こえていたのだろう、だが何が在ったのかは理解していない様子であったのだ。
無残に部屋の中に居た人々が皆殺しにされた様な光景、それを見て近くに居た男の猟銃を見て怯えて一歩下がる。
抱きしめていたガンジーはヒロエが逃げようとしている様子に驚き、抱き着いていた手を緩めた。
「ど、どうして・・・こんな・・・」
「仕方なかったんだ。中でアレが広がって襲い合いが始まっていたのです」
そうヒロエの言葉に答える護衛の一人。
この場にガンジーが居なければヒロエと若い夫婦もその言葉を信じる事は出来なかったかもしれない。
つい数分前まで居た部屋の中の人間が全て死んでいるのだから・・・
「すみませんが、この部屋を出て何分くらいですか?」
「えっ?そ・・・それは・・・」
「多分、10分くらいだと思います」
若い夫婦の奥さんの方が言い淀む様子に、旦那が割って入り答えた。
そう、この部屋の中で起こったアレは僅か10分で全員に広まったのだ。
しかも部屋から誰一人逃げようと扉を開けた形跡が無い、それはつまり・・・
「部屋の奥へ逃げている様にしか見えない状況・・・やはり、アレの発生元はこちらの入り口から入ったのでしょうね・・・」
そう、そうとしか考えられない状況なのだ。
一番入り口側の人がアレになって、次々と人を襲ったとしても何人かはドアの方へ逃げていなければおかしいのだ。
その事実に謎は膨らみ、困惑する一行。
そして、これはまだ始まったばかりの悲劇だという事を知らせる悲鳴が響き渡る!
「きゃああああああああああああああああああああ!!!」
その声に護衛の3人は目を見合わせ一斉に走り出す。
当然その場に取り残されたガンジー達も慌てて後を追いかけていく・・・
この場に残ったとしたところで、何かが出来る訳も無く、むしろ何かが起こった時に身を守る事なんて出来る訳が無いのだから。
「ヒロエ、しっかり捕まってろよ」
「お、お父さん私大丈夫だよ」
「いいんだ、気にするな」
ヒロエを抱き上げてガンジーは護衛の後を追う。
向った先は村長の部屋の隣、そこの入り口に村長のカタストが猟銃を構えて震えていた。
「だ、駄目だ・・・ワシには・・・」
「撃って・・・私が・・・まだ・・・意識を・・・保っている・・・間に・・・」
そこには目を赤く光らせた村長の奥さんが寝間着姿で立ち上がっていた。
その左手甲から肉が盛り上がっており、直ぐにそれも元通りに収まった。
「わ・・・ワシは・・・ワシは・・・」
「おね・・・が・・・い・・・」
そう言って猟銃を自ら眉間に合わせる村長の奥さん。
そのまま目をゆっくりと瞑り、次に目を開けた瞬間・・・
「うぎゅぁあ・・・」
奇声が確認できたと同時に村長は引き金を引いた。
反動で後ろに倒れ込む村長、そして歯の下半分だけを残して口から上が吹き飛んだ村長の奥さんだったモノが後ろに倒れ込む・・・
ガンジー達はその光景をただただ呆然と眺めている事しか出来なかった・・・
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