人から人へ感染するアウトブレイク 第11話

「い、今なんと言った?!」

「首を切断すれば・・・赤い目をした者は命と共に動きを止めます・・・」


ガンジーの言葉に目を見開いて答える村長カタスト、だが直ぐにその目にうっすらと涙が浮かび上がる。


「そうか・・・ありがとう・・・」


そうお礼を伝えられ、ガンジーは目を疑った。

こちらを向いたままの村長の後ろで、鎖に繋がれた村長の息子の体を壁に押さえ付ける二人の男。

噛まれないように細心の注意を払っている様子から噛まれると仲間入りするのは理解している様であった。

そして、押さえ付けらえた息子の方を見向きもせずに村長は告げる。


「やってくれ・・・」


村長のその言葉を聞くと別の男が巨大な鋏のような物を広げ、村長の息子の首の拘束具の下に刺しこんだ。

鎖が間に入らないように位置を調整したその鋏、それを左右から村長の息子を押さえていた二人が同時に内側へ押し込んだ!


「ぐぎぃぇ・・・」


突然途絶える奇声、バチンっという大きな音に続き生首がゴトンっと地面に落ちる。

静寂が地下室を包み込む、脱力した村長の息子の体はその場に倒れ込み鎖の音だけが部屋に響く・・・

その光景に妻と息子の最後を思い出したガンジーは吐き気を催し、口を押えてしゃがみ込む。

そして、気付いた。

その部屋の隅に転がる2つの死体に・・・


「な・・・ぁ・・・」


一つは頭部を含む四肢が粉砕しており、着ている服装から男性だと予想出来た。

そして、もう一つが人型の炭の様に真っ黒になった死体、丁寧に首から上は破壊されていた。

視界が揺らぎ、その場に嘔吐するガンジー。

だが誰もそれを責めたりはしない、それが当然の反応なのだと言わんばかりに誰も口を開かなかった。


「うぅ・・・うげぇぇ・・・」


先程のスープが口から出るのが落ち着いた頃に村長が再びお礼の言葉をガンジーへ伝えた。

嘔吐に付いての言及はやはり無かった。

それも仕方ないだろう、既に部屋の中は切断された部位や夥しい血で綺麗な場所など何処にも無いからだ。

吐しゃ物の臭いよりも血の臭いの方が強いのだから・・・


「本当にありがとう、おかげで息子の顔を破壊せずに眠らせる事が出来た・・・犠牲になったあの二人もきっと喜んでいる事じゃろう・・・」


地面に転がる村長の息子の頭部は床の血で赤く染まり見るも無残な形である。

だがそれでも頭部を破壊する事無く殺す事が出来たのがありがたいのだろう、誰もその頭部に触れようともしない。

一応まだ動くかもしれないと警戒は解除されてはいないが、チラリと息子の頭部を見た村長はガンジーの方へ向き直り告げる。


「さて、遅くなったが上に戻るとしよう。お互いの情報のすり合わせも行いたいしのぅ」

「わ・・・わかりました・・・」


涙を今も流したまま村長はそうガンジーに告げ、一人先に階段を上がり始める。

それにガンジーも続き、二人は上の階へ戻っていく。

二人以外は地下に残り後始末をするのだろう、3名の男性は村長の目配せに一度だけ頷いて地下室に残るのであった。







「ふぅ、ありがとう助かったわい」

「いえ・・・大丈夫ですか?」

「あぁ、ワシは大丈夫じゃ。だが妻に息子の事は話さんで下され」

「はい、わかりました」


階段を上がってる途中でふらついた村長をガンジーは支え、上まで戻ってきた。

地下室に続く扉は再び閉められ、ガンジーは廊下の奥に在る村長の部屋まで共に移動した。

出された水で軽く口を濯いでからお互いの持っているあの人間の情報、そして村の外の様子・・・それらを互いに交換し話を続けた。


「他の数名にも話したのじゃが、事の発端はやはりあの紫色の霧じゃろうな・・・」


村長は話してくれた。

片腕の息子が朝外に出て、紫の霧に包まれた事で腕が生えてきたと目を赤く光らせながら喜んで報告に来た事。

そのあと直ぐに様子がおかしくなりメイドの一人に噛みついた事。

その息子を取り押さえた人物が噛まれたメイドに後ろから襲われてしまった事・・・

そして、それらをもう一人の護衛が猟銃で撃ち、動けないうちに捕縛した事・・・

目を赤く光らせた者は深い傷も直ぐに回復し、人体実験として地下の使う事が今までなかった拷問部屋で実験を繰り返した事・・・

体に油を浴びせて燃やしても死ぬことは無く、頭部を壊滅的に破壊すれば動きを止めるという事が分かったところでガンジー達が右往左往していると聞き付け外に出た事などを聞いた。


「村の外は中よりも厳しいでしょうね・・・」


ガンジーも村の外で獣が目を赤くして逃げ出した人を襲っていると思われると報告をすませる。

それらの情報を交換し合った結果、やはり村からの脱出は困難と言う結論に至り二人は言葉を止めた。


「食料についてはまだ備蓄があるが、永遠にここでと言う訳にもいかんじゃろうからな・・・」


村長がそう言葉にした時であった!


「きゃあああああああああああああああああ!!!!」


突如響く悲鳴!

あの部屋の方向から聞こえた声にガンジーは焦り村長をこの部屋に一人残し飛び出した!

唯一残った家族、娘のヒロエがそこにまだ残っているからだ。


「ヒロエ―!!!」


叫びながら部屋の扉を開いたガンジー、しかしそこは既に悲惨な状況となっていた。

何名もの目を赤くした人が別の人を襲い噛み付いていた。

噛み千切られた体の部位から飛び散る血が、部屋の床や壁に飛び散り噛まれた人は直ぐに目を赤く光らせて別の人へ襲い掛かる。

無事な人が居るのか分からない程、部屋の中は悲惨な状況であった。

ガンジーが開けた扉に気付いて隠れていたが駆けだして逃げようとした者も、直ぐに赤い目の誰かに捕まり噛みつかれる。

まさに地獄絵図、阿鼻叫喚の光景がそこに広がっていた。


「うそだ・・・」


部屋の何処を見ても既に目を赤くした人が別の人に襲い掛かる光景・・・


「うそだ・・・」


ヒロエが座っていた場所に広がる血・・・


「うそだ・・・」


目の前が真っ暗になろうとしていた時であった。

ガンジーに向かって手を伸ばし襲い掛かってきた赤い目の一人・・・

その頭部が真横から聞こえた音と同時に突然爆ぜた!


「大丈夫ですか?!」


ゆっくりと振り返ると、地下室で見た男が猟銃を構え立っていた。

そう、それで頭部を撃ち抜いたのだ。

顔面を吹き飛ばされ真後ろに吹っ飛んだ遺体、それが地面に落ちる音に反応し赤い目が一斉にこちらを見る。


「後ろに下がって下さい!」


言われるがまま、ガンジーは一歩後ろに下がる。

そして、部屋の中に何発も撃ち込まれる猟銃。

それは部屋の中で動く者の頭部を的確に破壊していった・・・

ガンジーはただただその光景を呆然と眺める事しか出来ないのであった・・・

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