人から人へ感染するアウトブレイク 第10話
硬い床に座り込み、壁にもたれて眠る・・・
普段であればとても寝れるような状態では無いのに、ガンジーとヒロエは深い眠りについていた。
極度の緊張と疲労によって疲弊した心身が休息を求めていたのだろう。
だが、そんなガンジーとヒロエがほとんど同時に目を覚ます・・・
暖かく美味しそうな香りに意識が呼び戻されたのだ。
「ん・・・ここは・・・そうか、村長の家か・・・」
「んん・・・お父さん?・・・」
まだ子供なヒロエは寝ぼけ眼を擦りながらガンジーの顔を見て周囲をキョロキョロと見回す。
そして、今ある現実を思い出しその目に涙が滲む・・・
今朝まであった平穏な日常はもう戻ってこないのだ・・・
「ヒロエ、大丈夫だ。お父さんがここに居るぞ」
「・・・うん」
泣いてばかりも居られない、これからの事も考えなければいけないのだ。
その為にはまずは朝から何も食べてない空腹をどうにかしないとと考えた。
部屋の何処からか漂ってくる匂いで目を覚ましたのをそこで思い出し、ガンジーは周囲を見る・・・
その時、隣で座っていた家族が会話していたのが耳に入ってきた。
「父さん、そろそろ夕飯の時間だね」
「あぁ、村長さんが夕飯を用意してくれるって言ってたからもう少しの辛抱だ」
「さっきから良い匂いがしているもんね」
名前は知らないが同じ村に住む家族、見覚えだけはあるその家族の会話を聞いて食事の心配が無くった事に安堵していると。
「村からは出れないのかな?外に出られればもしかしたら逃げられるかもよ」
「そうだな・・・村の外ならあるいは・・・」
その会話を聞いてガンジーは口を挟む、いや隣の家庭が壊れる可能性を少しでも減らしたいと止める為に挟んでしまう。
「村の外はとても逃げられそうにないです。獣達も同じように目が赤くなってました・・・」
「そ・・・そうなんですね・・・」
ガンジーの言葉に一瞬戸惑ったようだが、後から来たガンジーが村の外に脱出を図ったのだと理解した父親はその情報に感謝を返す。
もしも知らずに村から逃げ出せたとしても、その後助からないのであれば意味が無いのだから・・・
僅かとは言え、生き残った仲間だからこそガンジーの言葉を受け止めた父親はそれ以降何かを考える様に言葉を発する事は無かった。
そうしている間に正面の大きな扉が開き数名の人が姿を現した。
「皆さん暖かいスープが出来ましたよ、全員分十分にありますので順番に受け取りに来て下さい」
そう告げる年配の女性、村長であるカタストの奥さんマーレさんだ。
その言葉の通り、大きな寸胴に沢山作られた野菜スープがそこに用意されていた。
何名かの人間がコップやお椀にスープを入れ、順に並ぶ人に配っていく・・・
おかわりも自由の様でガンジーはヒロエの頭にポンっと軽く手を乗せて立ち上がる。
「ここで待ってなさい、二人分貰ってくるから」
「・・・うん」
家族を失った悲しみで食欲は無いかもしれない、だが生きる為に食事は必須だ。
それをヒロエも理解しているのか、少し考えてから小さく頷いて返事を返す。
床でもたれて寝ていた為に関節が固まったかのように重くなった体を起こし、ガンジーはマーレさんの方へ歩いていく・・・
「すみません、2杯お願いします」
「はい、どうぞ。ゆっくり噛んで食べて下さいね」
渡してくれた男性に小さくお辞儀をしてマーレさんにも深く頭を下げる。
湯気の上がるスープを手に、他の人と同じようにお礼を告げたガンジーはヒロエの元へ戻り片方のお椀を渡す。
野菜の沢山入った暖かいスープ、塩味と野菜の甘さだけが口の中に広がる優しいスープは疲れた体に染み込むように二人の心身を癒していく・・・
「・・・美味しい・・・」
「あぁ、美味しいな・・・」
小さく感想を述べるヒロエにガンジーは微笑みながら言葉を返す。
家の中に居るので、今が何時か分からないが、お腹の減り具合から日が暮れているとガンジーは予想をしていた。
フト視線をやると、窓には外が見えないくらい木が打ち付けられており、ここへ来た時は隙間から刺しこんでいた光も無くなっていた事からガンジーは確信を持ち安堵の息を漏らす。
怒涛の一日となった今日、村で起こった異変の数々に何故こんな事になったのか理解が及ばないガンジーは少しだけ残ったスープを眺めながら答えの出ない思考を延々と巡らせる。
そんな時であった。
「ガンジーさん、食べ終わったら聞きたいことがあるから付き合ってくれ」
「えっ?あっ分かりました」
突然掛けられた声に慌てて返事を返すガンジー、相手は配給の手伝いをしていた男性であった。
村長の家でお手伝いをしていた若者で名前も知らない相手ではあるが、ガンジーは裏口を開けてくれた彼には頭が上がらない。
残っていたスープを飲み干し、お椀を持って立ち上がり・・・
「ヒロエ、ちょっと行ってくるから待っててくれ。おかわりもあるみたいだから欲しかったらちゃんと貰って食べておくんだぞ」
「うん・・・お父さん、早く戻って来てね」
「あぁ」
娘にやっと余裕のある父親の笑顔を見せる事が出来たガンジー、立ち上がって自分を呼んだ男性の方へ歩いていく・・・
ガンジーが近寄ってきたのを確認した男性は小さく頷き部屋から出て行き、ガンジーもそれに続いた。
しかし・・・
「地下・・・ですか?」
「そうです。村長が外の様子を知りたいと言っていますので・・・」
地下に降りていく階段の前のドアを開いた男性、その言葉を途中まで聞いた時であった。
「うぐぁあああああああ・・・・・」
聞き覚えのある奇声、それは階段の先から確かに聞こえてきた。
その声が漏れるのを嫌がったのか、男性はガンジーを先に進ませドアを閉める。
部屋で寛ぐ人々に聞かせたくないのだろう、だがガンジーの耳に残るその声・・・
それは間違いなく赤い目をした人間のものである。
「この先に村長が?ですが、今の声は・・・」
「えぇ、そうです。ですが心配はいりませんよ」
そう言って階段を下りていく男性。
壁に設置された灯りがゆらゆらと足元を照らす階段をガンジーも後に続いて降りていく・・・
そして、地下の部屋に足を踏み入れてガンジーは絶句した。
「なっ・・・?!」
「村長、村の外の状況を知っているガンジーさんをお連れしました」
「あぁ、ごくろうさん」
そこに居たのは数名の人間と村長、そして鎖に繋がれた目を赤くし暴れる一人の青年。
それは間違いなく・・・
「村長、それ・・・息子さん・・・ですよね?」
「あぁ、そうじゃ・・・」
ガンジーの言葉に悲しそうな眼を一瞬見せた村長は肯定を返す。
壁から繋がる何本もの鎖に繋がれた村長の息子、目を赤くし唯一自由になっている左手を他の人の方へ伸ばしながら奇声を上げ続けていた。
右手首、左足首、右足首、そして首と胴体・・・
計5か所を鎖で繋がれた青年の周囲は物凄い量の血で変色していた。
そして、その足元に転がるいくつかの物体・・・
「村長・・・まさか・・・」
「幻滅するならそれでも構わん、だがワシは生き残った人の為に調べなければならんのじゃ!」
村長がそう言うのと同じタイミングで伸ばしていた息子の左手に向かって男性が包丁を振り下ろす!
生々しい音が地下に響き、再び奇声を大きく上げる村長の息子。
床に落ちる細長いそれは切断された指であった。
「ぐぎぁあああああああ!!!!」
だが、自身の手を破壊されたというのに気にも止めた様子も無く、村長の息子は指が何本か無くなった左手を近くに居る男性に向かって伸ばし奇声を上げ続ける。
痛みすらも感じていないのか、動じた様子も無く叫ぶ村長の息子、時間にして10秒程するとその破壊された手の肉が盛り上がり指が復元していく・・・
そこまで見てガンジーも思い出した。
そう、確か村長の息子は・・・事故で左手を・・・失っていた筈だったことを・・・
ガンジーの視線を理解し村長であるカタストは息子の方を見ずに俯き口にする・・・
「情報が・・・必要なのだ。現状を理解し、打破する為に・・・息子を・・・殺してやるために・・・」
そう口にした村長にガンジーは口にする・・・
「首を・・・切断すれば・・・殺せ・・・ます」
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