人から人へ感染するアウトブレイク 第7話
村を囲う柵、出来るだけ音を立てずに沿って移動していた二人はついに村の裏門の前にまでたどり着いた。
既に扉は解放されており、そこから逃げ出した者が居るのだろう、襲われながら逃げたのか血痕が残っていた。
その半開きになった扉に出来るだけ触れず、二人は外へ視線をやった・・・
ここから逃げた村人が外で待っているかもしれないからだ。
だが、二人の目に予想だにしない光景が飛び込んできた・・・
「そんな・・・」
村から外に出ようと思ったその時でよかった。
ガンジーとヒロエはそれを目にして止まる事が出来たのだから。
カサカサ・・・カサカサ・・・
虫である、目であろう部分が赤く光り、踏みならされた道を物凄い数の虫が横断していたのだ。
まるで同族を判別しているのか、大小様々な虫が共存しているあり得ない状態でそこにいたのである。
その横断する虫たちの奥に視線をやれば更に絶望的な光景が目に飛び込む・・・
奥の方には野生の獣の様な姿も見え、村から出れば一斉にあれに襲われるのは目に見ていた。
事実、村から外は夥しい血が地面に広がっていたのだから・・・
「お父さん・・・」
「くそっ・・・」
ガンジーは建物に身を潜めながら外に出る事を諦め、何処か身を隠す場所がないか探し始めた。
おかしくなった虫や動物が村の中に入ろうとしていない今がチャンスなのだ。
そして、度重なる事態に身も心もボロボロになり始めていたヒロエを何処かで休ませないと・・・
最早それしかガンジーの頭の中には無かった。
現実が逃げ場もなく、自分達に訪れる結果を安易に想像出来る事から逃避する為に・・・
「そうだ、あそこなら・・・ヒロエもう少し頑張れるか?」
「うん・・・」
必死にガンジーはヒロエの手を引いて向かった先は、この村でも一番大きな家であった。
そこはこの村の村長が暮らしている一軒家、他の家にはない塀が家を囲っており、来客用の部屋も在った筈である。
盗賊等の略奪行為から非難する為の備えも普段からあると豪語していた村長の自宅、そこならば・・・
ガンジーは最早何処の家からも声がしなくなっている事実から、そこしかないと考えヒロエを連れて身を潜めながら移動する・・・
「良かった、まだ大丈夫そうだ!」
「でもお父さん・・・」
そこ、村長の家は健在であった。
煙突から煙が上がっており周囲を変異した村人が徘徊しているが、中に入れずにいるようであった。
入口の門は塞がれ、周囲に大量の血痕が残っている事からここで激しい争いが在ったのは間違いない。
それでも中から人の声が聞こえた事でガンジーは生き残りがまだ居る事実に安堵した。
その声に誘われるように村長の家の堀の前で唸りながら手を伸ばす村人たち・・・
何名かは堀の中へ落下し、その底で這いあがる事も出来ずに唸り声を上げるだけである。
これならば助かるかもしれない!だがしかし、問題はその村長の家にどうやって入るのかという事である・・・
「大丈夫、お父さんに任せておきなさい」
そう言うガンジーは村長の家の裏側に生える大きな木に視線をやるのであった・・・
「あ”あ”あ”あ”あ”・・・」
赤い瞳でうめき声を上げながら徘徊する村人。
その足取りはフラついており、千鳥足にも似た動きである。
だが物音が聞こえれば即座に反応を示し、そこへ駆け出す習性を何度も見ていた。
「ヒロエ、少しここに隠れていなさい」
「うん・・・」
そう言い残し、ガンジーは建物の影から飛び出す。
出来るだけ音を立てないように素早く動き、別の家の影に身を潜め落ちていた石を一つ拾う。
普段の生活を送っているのであれば、こんな事をする筈も無い少年の様な行動に少し心が躍る・・・
「ふんっ!」
拾った石をガンジーは大きく山なりになる様に目標としていた場所へ投げつけた!
ガン!ガラガラガラガラ・・・
そこは乾燥させている木材が積まれている場所。
そこに当たった石は大きな音と共に衝撃を与え、組んで積み上げられていた数本の薪が崩れた。
その音に反応し徘徊していた村人達は一斉にそこへ駆けていく・・・
今だ!
ガンジーはその隙に飛び出し村長宅の裏にある木に駆け登った。
何年かぶりの木登り、大きくなった体は非常に重く、勢いが無ければ落ちていたかもしれない。
だが、村長宅の塀が近かった事もあり、壁を足で蹴る事で何とか枝まで登りきったガンジー。
「ヒロエ!」
小さく声を出して身振りでこっちへ駆けてくるようにガンジーはヒロエを呼ぶ。
覗き込むようにこちらを見ていたヒロエもその動きを見てガンジーの元へ駆け出す。
だが、ガンジーは見てしまった。
ヒロエの後ろにその姿を追う一人の村人の姿を・・・
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