人から人へ感染するアウトブレイク 第8話
駆けるヒロエの足音に反応しているのか、赤い眼を光らせた村人はその姿を追い掛ける。
そのうめき声の様な声にヒロエは直ぐに気付いたが、迷うことなく真っ直ぐにガンジーの待つ樹へ走っていく・・・
「うがぁああああ!!がああああああ!!」
「急げヒロエ!」
樹の枝に掴まり下へ向かって手を伸ばすガンジー、樹に到着したヒロエは樹に飛びつくようにジャンプし、真っ直ぐにガンジーに向かって手を伸ばした!
だが、指先が触れる程度にしか手は届かずヒロエは樹に抱きつく形でしがみ付いた。
追いかける村人がすぐそこまで迫っている。
愛する生き残った最後の家族を何とかして助けようとガンジーは身を乗り出した。
「ヒロエ!」
「お父さん!」
あと少し、その手が届く事はなく徐々にヒロエの体が下へ滑り落ちていく・・・
木登り経験が少ない事もあるが、ガンジーの様に塀に足が届かないのだ。
このままでは娘が・・・そんな時、ガンジーは咄嗟に腰に差していた妻を殺した斧に手を掛けた。
手だけでは届かないのであれば・・・
「ヒロエ!掴まれ!」
「っ?!」
差しだされた斧の柄にヒロエは捕まる。
刃はガンジーの方でしっかりと掴まれており、それを掴んだヒロエを思いっきり引っ張り上げる!
だが・・・
「きゃぁあああ!!」
「ヒロエ!絶対に離すな!」
「があああああ!!!」
ヒロエの足首を村人が掴んだ。
流石に2人分の体重を引き上げればヒロエの手が持たない、なによりこのままでは・・・
ガンジーの頭に最悪の結果が思い浮かんだ時であった・・・
「お父さん・・・今まで・・・ありがとう・・・」
「ヒッ!ヒロエー!!」
ヒロエは父を巻き込む事を恐れ、自らその手を離す・・・
結果は言うまでもないだろう、その足は引きずり降ろされ村人の口が大きく開かれる。
噛まれればどうなるのかは二人とも既に理解している、だからこそ考えるよりも体が先に動いた!
「娘に・・・触るなー!!!!」
樹からガンジーが飛び降り、村人の頭上に落ちた。
足首を掴まれているヒロエと共に3人は地面へと倒れ込んだ。
本来であれば完全にアウトの事態、だが偶然・・・本当に偶然だがガンジーとヒロエにとって幸運と言える事象が重なり合った。
まず一つは村人がヒロエしか見ていなかった為に飛び降りたガンジーに気付かなかった事・・・
そしてもう一つがヒロエに嚙みつこうと口を開けていた事である!
頭上に落下したガンジーとぶつかった衝撃で、村人の口は強制的に閉じられ衝撃で歯が砕けていたのだ!
結果、寸前のところでヒロエは噛まれる事は無事回避されたのである!
「あが・・・あぐがぁぁが・・・」
落下した勢いで地面に倒れたガンジーとヒロエが起き上がろうとする頃には村人は立ち上がっていた。
その様子から痛みを感じておらず、直ぐに起き上がって目の前の二人に襲い掛かろうとしたのであろう。
だが砕けた顎と折れた歯が口の中で突き刺さり口が開かなかった。
噛み付こうとしても口が開けられない事態に赤い目をした村人は困惑し、二人に向かって伸ばした手を自らの口をこじ開ける為に引っ込めたのだ。
その隙をガンジーは見逃さなかった。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
手にしていた斧をフルスイングして村人の側頭部を強打した!
ぐしゃっと生々しい音と共に周囲に鮮血が飛び散り、勢いよく村人の体は木に叩き付けられた!
その顔面にはガンジーの手から抜けた斧が深く顔の半分ほどまで突き刺さったままである。
「ヒロエ今だ!行くぞ!」
返事も待たずガンジーはヒロエの手を引いて駆けだす!
唯一塀を乗り越えれそうな木からは離れてしまう方向、だがそれも仕方なかった。
何故なら、落下した音に釣られて他の村人たちがこちらへ向かってき始めていたのだから。
逃げる先に宛てが在る訳でもない、だがガンジーは逃げるしかなかった。
武器も無くし襲われたら確実に終わる状況だが、ヒロエを守る為にガンジーは動いたのだ。
結果、それが功を成した!
「こっちだ!急げ!」
その声はガンジーが走り出した方向から聞こえた!
それと共にガーン!という大きな銃声が一つ!
駆け出したガンジーはそれを見た。
二人の方へ向かっていた村人が足を撃ち抜かれて倒れる様子、そして村長宅の裏口から銃を構えている男性の姿。
他に選択肢はない、このまま逃げたとしても助かる場所の宛てもないガンジーにとって渡りに船とはこの事だろう。
「お父さんあそこ!」
「あぁ、もう少しだけ頑張れヒロエ!」
「うんっ!」
そのまま二人は開けられていた裏口を通り中へ入った!
それと同時に裏口のドアは勢いよく閉められ、更に鉄格子の様なドアも閉じられた。
この2重の扉のお陰で村長の家は未だ無事なのであろう、まだ無事なままの人の手によって二人は助けられたのだ。
駆けこんだ事で倒れ込み肩で息をするガンジーとへたり込むヒロエ。
時間にして僅か1分ほどの事であった、だが二人の体感時間はその何十倍にも感じられた事であろう。
その疲労感を考えればその状態は仕方が無かった。
「あ・・・ありがとうございます助かりまし・・・」
「お・・・お父さん・・・」
息を整えお礼を言おうとしたガンジーであるが、顔を上げてそれを見て目を丸くして固まってしまった。
それは仕方が無いだろう、二人に向かって3人の人間が少し離れた場所から猟銃を手に二人に狙いを付けて構えていたのだから・・・
「そのまま動くな!じっとしていろ!」
物々しい雰囲気に息をのむガンジーとヒロエ、ガンジーの腕の中で小さく震えるヒロエと共に文字通り一触即発の状況にガンジーは生唾を一つ飲み込むのであった・・・
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