第18話「女の子に人気な先輩」


 地下鉄大通駅を降りてから数分ほど、俺たちは早速絡まれてしまった。


「先輩、もしかしてで、デートとかですか⁉ 最近はよく噂が流れていて、1年生の松本君と一緒に歩いてるってことは……っ」

「やっぱりぃ、二人で生徒会を抜け出してのぉ……」

「「密会!!」」


 4人組の女子生徒。

 制服のリボンが赤色だし、話的にも今年入学した俺と同じ1年生だろう。


 勢いに負けてやや苦笑いしている先輩はすきを狙って俺の様子を窺っているようだが俺には何もできない。


 先輩のファンは先輩が何とかしてくれなきゃ困る。


 そんな風に傍観を決め込んでいた俺だったが肩をガシッと掴まれた。


「書記さんも大変ですなぁ」

「っ——う、上野かっ。びっくりしたぁ」

「ははっ。ビビり過ぎだよ!」


 声を掛けてきた金髪チャラ男は上野達央うえのたつひさ、俺のクラスメイトだった。


 綺麗な靡くような金色の髪に、きりっとした二重の瞳。

 もちろん一軍男子で、それでいて誰にでも普通に話せる超絶コミュニケーションが売りなクラスメイトであり、俺のもう一人の幼馴染。


 幼馴染って言っても中学からの同級生だが、なぜか色々とあって仲はそこそこいいくらいだ。


「にしても、あれが噂の会長さんかぁ。さっすが美少女、一つを除き完璧だね」

「上野、お前なぁ。本人気にしてるんだから、そう言うなよ」

「聞こえなければ思われてないと一緒だよ。それに、翔琉も思ってるくせに」

「っ俺は別に。良いところだと思ってるぞ?」

「動揺が見えるけど、まぁ翔琉も翔琉ですごいよな。足りないところは目をつむるとしても美少女には変わりないし、外見の良さじゃ会長様がナンバーワンだし、他の面子も凄いし」

「はいはい。お世辞は良いから」

「うわー。皆も言ってるけど、我らが書記さんは冷たい人ですね~~」


 どうやら俺はクラスの中では冷たい人だと思われているらしい。上野曰く、あんなにも高嶺の花なメンバーに囲まれてまったく理性が崩壊しないのが凄いとのことだ。


 言わんとしていることは分かるけど、生徒会メンバーは皆、性格に難があるし良いことだらけじゃないけどな。


「それで、なんで二人ともこんなところにいるんだ?」

「御影会計と烏目書記に頼まれて買い出しかな」

「会長が部下に命令されるのかよっ」

「上野なら分かると思うけど、会長と副会長がな」

「あ、あぁ……美鈴のやつがまたかぁ」

「それで追い出されたってわけ」

「そりゃ生徒会も大変ですわぁ」

「だろ? だからいいことばかりじゃないって言ってるんだ」

「ははっ。違いねぇ。でもクラスのやつらにとってはそれでもな環境だろうけど」

「自分に彼女がいるからって見下すんじゃねえよ、あいつらを」

「見下してないわ! でもやっぱり俺も羨ましいかも」

「浮気?」

「違うわ、馬鹿。んなのするわけねぇ」


 ボソッと呟く上野は痛いところを突かれたようで頭をポリポリとかきだした。

 話すと長いけど上野には中学生の時苦い思い出がある。


「んじゃ、俺はこの後デートだから。二人とも生徒会がんばれよ」

「ん、あぁ。楽しんでこい」

「お互い様ぁ~~」


 そう言って上野は手を振りながら駅の方へ去っていった。

 すると、丁度先輩を後輩たちへのファンサービスが終わったようで額に汗を浮かべながら走ってきた。



「っはぁ、っはぁ。んもぉ、あの子たち、憎めない、んだけどっ、まいどっ、つかれ……るっ」


 いくら体力のある先輩でもあそこまでグイグイとくる後輩には太刀打ちできなかったようで息が上がっていた。 


「さすが、会長はいつでも忙しいんですね~」

「他人事みたいにぃ。って、さっきの人は誰なの?」

「あぁ、上野ですよ。クラスメイトの」

「上野君か、なんだびっくりした。変な男に絡まれてるんだと」

「まさかぁ。でも、そう言う心配はありがとうございます」


 律儀にお礼をしてみると若干顔を赤くした先輩はこれまた可愛かった。



★★★


 

 すすきの方面を目指す俺たちは地下歩行空間、通称チカホを歩いていた。


 知らない人がいるかもしれないので一応、説明するがチカホというのは札幌駅周辺の地下に張り巡らされた地下道であり、そして若者から老人まで多くの人に人気な店が通りに店を出している繁華街道でもある。


 広さもかなりのもので、駅一個分の半径があり冬は夏などの天候に難がある季節や信号も待てないほどに急いでいる時はそこを通る市民も多い。


 そんな道を二人で歩いているとそりゃまあ声を掛けられるわけで、手を振られる度に振り返す先輩が少し不憫でならなかった。


「うぅ、可愛いんだけどね……私もプライベートが欲しいよぉ」

 

 丁度帰宅時間は過ぎているのであまり人足は多いとは言えなかったがそれでもさっき出会ったうちの高校の生徒のように放課後のショッピングや寄り道をしている学生で賑やかだった。


 それにしても、先輩の人気というのは計り知れないんだなと身にしみて感じる。学生が多い時間だとは言え、制服で会長オーラを出すと目立つのか、その凄さをまじかで見るのは中々ない。


 そして何より、うちの高校の女子生徒は皆寄り道して帰るんかって思うくらいの頻度にもびっくりだ。


「男にもあんまり手を振られないですもんね」

「そんなことは言ってないんだけど」

「先輩、目が怖いです」

「誰のせいか考えなさい」

「それはすみません……」

「うん。謝るなら許してあげる」


 ふんっと無い胸を張る先輩はあまり言いすぎると怒って何も聞いてくれなくなってしまうところがあるのでいじめるのもそこまでにしておいた。


「先輩、そう言えばこの備品ってネットで発注したりはしないんですかね?」

「備品か? それはこうやって出向いたほうが高いからだよ」

「え、そうなんですか?」

「あぁ。もちろん、大量購入するときとか業者通さないと買えないものは最終的には先生方がやるんだけどね。生徒会のものは生徒会が自ら調達しなきゃだし。安いものを変えるなら歩いて買おうってさ。御影君がそう言ってね」

「さすが、節約の鬼ですね」


 事あるごとに指さして「無駄遣いしないで」と言ってくる生徒会会計には敵うわけもない。それにしても、うちの高校の男子生徒の変態ぶりならそれを言われるがために無駄遣いしちゃいそうだけど。


「異名が可哀想だけどね。彼女、あれでも乙女なんだからね?」

「少女マンガ読んでるんでしたっけ?」

「うん。それもね、私と同じなの!」


 きらきらりんと目を輝かせる先輩は急に身を寄せてくる。


「あ、はい……」

「どうせ本屋のとかく通るし寄っちゃおうかな。読みたくなってきた」

「職務放棄を会長さながら」

「もちろん、買ってからだよ!」

「バレなきゃ犯罪じゃないってやつですか?」

「そ、そうねっ」


 完璧と呼ばれる生徒会長は悪魔的なことを言い出すのであった。


「それで、先輩」

「ん?」

「このリストの最後に書いてある『ローション』ってなんですか?」







「はい?」

 


 

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