第17話「ぺちゃぱいは悲しい」

 放課後の若干暗くなりつつある学校を飛び出して、近くの駅までの道のりで俺は鈴夏さんに手渡された買ってきてもらう物リストを上から順に眺めていた。


「えっと、買いに行くのは生徒総会で使うバインダーと新しいボールペンと、それと壊れたノートパソコンの代わりになるそこそこのスペックなパソコン……って結構ありますね、これ」


 どうやらこれは生徒会会計の椎名先輩から託されたものらしく、通販では頼めないけど買いに行くわけにはいかないしと悩んでいるところで喧嘩していた会長に行かせることにしたらしい。


 困っている人を助けるのは共通で生徒会メンバーらしくもあり、人を動かすのが得意な指示を出すところは参謀って感じもしてさすが鈴夏さんって感じだ。


 あ、ちなみに椎名先輩は会計をやっている2年生の先輩だ。見た目は可愛いのに、髪の毛を目が見えなくなるまで垂らしているから根暗な印象があってミステリアスさが凄い。


 実際、口数も少ないが先輩とは少女漫画という共通の趣味があり、話が合うらしくそう言う時は饒舌になるらしい。


 人というのは奥に秘めてあるものがあるんだなと感じる今日この頃。

 と一人語りしていたが、先輩からの返事は一向に返ってこない。


「あの。先輩、大丈夫ですか?」

「うはっ……え、えと、何⁉」


 さすがに可愛い後輩が真横にいるのに気づいてくれないのは悲しいので思いっきり肩を叩くと足をガクッと踏み外す。


 虚ろになっていた目が一瞬で光を取り戻し、慌てた様子で俺を見据えた。


「何って、リストの確認ですよ」

「え、あぁ……そ、そう言えばなんで外にいるんだろって思ってたけど、そうだったね」


 どこか悲し気に頷く先輩に理由もなく悲しくなってくる。

 喧嘩するし、やめたら虚ろになるし、もしかして先輩は面倒くさい人なのだろうかと最近思ってきた。


 別にそれが悪いわけでもないというか、むしろドンとコイなんだけどこの性格のせいで先輩がモテないのは避けたいところだ。


「大丈夫ですか、別に俺一人で行っても良かったんですけど」

「そ、それは大丈夫! 私も行くっ」

「元気を取り戻してくれるんなら、まぁいいんですけど。何をそこまで落ち込んでるんですか?」

「それは……恥ずかしいから言わない」

「恥ずかしいって、俺と先輩の関係でもそんなことあるんですか?」

「ちょっとそれは語弊を生むんだけど!」

「語弊も何も、先輩がよわよわになるの俺の前でだけだし。ていうかその点で言うなら自主的に弱みを見せてることになるんですけどね?」

「う、うぅ……今はそういう正論いらないもん」


 正論も何も、そう言うつもりがあっていったわけでもないんだけどなぁと心の奥で感じたが不意に見せるその姿に胸が閉まる。


 涙目で降参と震えるその姿はさすがに反則だよ。

 可愛いの嵐雨霰爆撃ってくらい悲惨だ。


 先輩ってたまにこう言うのしてくるから俺もやめられないのかもな。


「それで、何が気に障ったんです?」

「ぺ、ぺちゃぱいって……言われた」

「っ」

「あ、今笑ったでしょ!!

「わ、笑っては……っ。いませんよ」

「笑いながら言っても信憑性ないんだけど!」


 いや、そんなこと言われてもと失笑せざる負えなかった。

 そう言う理由をまたもや今更と感じてしまって笑みが止まらない。


「そんなに気にしなくても……」

「気にするの! 誰だってコンプレックスストレートに言われたら悲しくなるでしょうが……もう!」

「そうかもしれませんけど、先輩だっていいとこ他にいっぱいありますよ?」

「それとこれとは話が違うもん。、ていうか、こないだ翔琉君だって言ってたじゃん胸は大きい方がいいって」

「え、そんなこと言いましたっけ?」

「うん。言った」


 身に覚えがなかった。

 そこまでひどいことは言わない――こともないのがちょっと怖い。


「それは——そう言ったのなら謝りますって」

「心がこもってない」

「十分こめてます。先輩とは長い付き合いですから、そこだけじゃないのは本当に知っていますよ?」

「……本当に?」


 そう言うと先輩は横から前のめりに寄っかかってきて、上目遣いをして尋ねてくる。


 そのあまりにも破壊的な可愛さに考えることなどできず、俺はコクッと頷いた。

 

「な、なら許す」

「ありがとうございます。それじゃ、とにかく行きましょうか中心街に」

「うん……」


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