第16話「犬猿の仲」
翌週になり、生徒総会の各クラスの原案も多く出されて忙しくなった生徒会室。
珍しくほぼ全員が席に着いて各々の仕事に取り掛かる中、話し合っていた二人が怒気を強めた。
「はぁ、あんたがこれまとめなさいって言ったんでしょ!?」
「違うよ。私は美鈴君に確認してそれぞれの意見を聞いてって頼んだよね?」
「聞いてないし! わたしは確かにまとめてって聞いたわ!」
「そんなこと言ってないって言ってるでしょ? 分からない?」
「そんなのこっちの台詞よ! へぇ、会長ってまさか自分のミスを部下のミスにするタイプぅ?」
「はっ! そ、そんなことしてない!」
「うわぁ、きもぉ。さっすがね。いっつもいっつもいっっっつも偉そうに!!!!!」
「な、何をぉ⁉ 散々ばら偉そうにしているのはどっち……かなぁ?」
額にしわが寄りながらも、多分心当たりがあって引くに引けなくて声を荒げる美鈴に対し、何とか体裁を保ちつつも冷静じゃいられなくなりつつある先輩。
まさに戦争状況に一触即発の現状に生徒会室はピリピリとした空気に張り詰められて――――はいなかった。
何を隠そう。この風景は生徒会室では当たり前のことだからだ。
もはや週に一度——とは言わずに週に二度も三度もあるような何にも珍しくない行事。
俺も、他の生徒会メンバーも皆見向きさえしない。
生徒会役員ならば脱兎の如きスピードで喧嘩の止めに入るのが模範的と壁に数年前の生徒会長が書いたであろうスローガンが張ってあったがそんなのは建前に他ならない。
どうせ止めったって終わらないし、飽きたし、どうでもいい。
それが本音だ。
実は、俺は未だにこの構図が面白いなと思ってるくらいなのだが皆はそうじゃない。
しかしまぁ、この生徒会が発足してからまだ日が浅いって言うのに飽きられるほどに喧嘩をするのは中々すごいものだ。
5月から始まり、6月上旬のたった1カ月で累計28回。
凄まじいペースだ。
「ねぇ、カケル! この八百長ぺちゃぱい生徒会長様になんか言ってやんなさい!」
「え、俺⁉」
なんか、俺に飛び火したんだけど。
やばい、やばくね。
美鈴の目が本気なんだが。
しかし、俺が驚く間もなく目を見開いた先輩が息を荒げた。
「はぁ⁉ 美鈴君、今なんて言った! なんて言った⁉ ぺちゃぱいって言ったわよね!?」
「あぁ、言ったわよ! この貧乳クールさむさむ生徒会長様ぁ!」
「何ぉ、このぽちゃぽちゃデブパイが何言ってるんだぁ!」
「わ、わたしの事を……でぶ、デブだって⁉ あんた殺す、殺してやるわ⁉」
「う、うっさいわ!!! 私の胸を、このクールな胸の事をぺちゃだって言ったんでしょうが!!!」
「関係ないわよぉ~~~~~」
「何をぉ部下のくせにぃ~~~~~」
バチバチバチ。
もうおでこと胸がごっつんこしてる。
「って胸デカすぎなんだけど!!」
バシッと胸をはたいた先輩、それに対して何とも言えない喘ぎ声が「ぁん」と響く。流石の俺もこれ以上暴れられると俺の俺がヤバいことになるので間に入ることにした。
「ちょ、やっぱ二人ともそこまでに」
「ど、どきなさい! あのぺちゃぱいがわたしの神聖なる胸をはたいて――」
「だ、大丈夫だからっ。そんなんで美鈴の胸は落ちたりしないからそこまで怒らないっ」
突進しようとする彼女の頭にポンポンっと手のひらを置くとやんわりと腰を引かしてしぼんでいく。
しかし、それを見た先輩は前のめりになって――
「あ、あがっ——なに、何してるのっ」
真っ赤な顔で尋ねてくる始末。
胸倉を掴まれて、いつもは優しい先輩も今日は冷静さを欠いて怒っているように見えた。
さすがにやってしまったなと思いつつも、なんだかよく分からない状況に頭を悩ませていると後ろからチョップが二発。
「うげっ」
「いだっ」
そして、一発。
「うだっ——て、なんで俺も⁉」
だんまりもやめてやってきたのは我らが生徒会女書記の
「いいからっ。なんとなくぶっただけだし、気にしない気にしない~~ってそうじゃなくて、二人とも! 私よりも立場が上なのにみっともないわよ? やめなさいっ」
止めに入るこれも大きな胸。
生徒会の中で一番大きいと言えるその胸を武器に二人を黙らせる姿には後ろで見ている俺は何も言い返せなかった。
「お、お姉ちゃん……だって」
「す、鈴夏君っ。美鈴君が——」
「二人とも、仲直りして」
涙目で言い訳をする二人にお姉ちゃんらしく胸を張って仲介する鈴夏さんの姿はとても大きく見える。
何かを言いたげだった2人もそんな姿を見れば何も言い返せるわけもなく、
「ごめん」
「悪かったわ」
あっさりと仲直りしてしまったのだった。
☆★★
「ふぅ、まったく。二人とも一線を越えたら危ないんだからねぇ」
そんなこんなで一件落着がした後、一番離れている会長と副会長の席にお互い座らせて距離をとらせる。
「お姉ちゃん……」
「んもぉ、美鈴ちゃんは可愛いのにねぇ」
さすがにお姉ちゃんには何も言えない美鈴、こうしてみると中々かわいいものだな。
と、言い忘れていたが鈴夏さんは名前の通り美鈴のお姉さんだ。もちろん、俺も小さい頃から親交はそこそこあり、いつも陽気でお姉さんらしく振舞ってくれる姿には子供ながら魅了されたくらいだ。
大きな胸に、しっかりものなのに優しくキリッとした赤い瞳。髪の毛は透き通った茶髪で、角度によっては金色に見えることもあって生徒からは「シスター様」との相性で呼ばれている。
困ったら助けざるにはいられない優しい性格に、そのボンキュッボンで修道服が似合いそうだからって言うのもあるがとにかく男女ともに人望が厚いのが彼女、鈴夏さんだ。
「それに、真礼ちゃんもあんまり熱くならないのっ」
「だってぇ」
「大丈夫。真礼ちゃんには他の魅力がいっぱいあるんだし、ね?」
「うぅ……そんなこと言ってくれるの鈴夏君だけだよぉ~~」
泣きつく先輩と美鈴のダブルコンボで苦渋の表情を浮かべる鈴夏さん。
さすがにしびれを切らしたのか、二人を引きはがしてこう言った。
「美鈴ちゃんはとにかくまとめをしてね? それと――っ翔琉ちゃんと真礼ちゃんは2人で一緒に買い出し行ってきてくれるかしら?」
「はぁ⁉ お姉ちゃん! どうしてこんな奴なんかにっ」
もちろん、そんな配役には美鈴は黙っていなかった。
何かと俺と先輩には噛みついてくるのはお姉さんでも止められないのか――
「ねぇ、美鈴ちゃん。実際、間違っていたのはどっちだったっけ? 私はちゃんと美鈴がまとめなきゃいけなかったのは聞いたし、覚えているんだけど、どうだっけ?」
「うっ——お、おねぇ」
「そんな可愛い顔しても許しません! しっかりと書くこと書いてから言いなさいな?」
「……ぅぅ、ぁぃ」
——と思っていたのだが、実際のところはそんなこともなかった。
姉のパワーとは凄いもので、兄である俺でも計り知れない大きさを感じる。さすがに美鈴が可哀想になってきたので「大丈夫だから、心配すんな」と適当に声を掛けておくことにした。
さすがの俺も一人立ちしたい。いい加減、美鈴に守られる生活も卒業しなきゃだからな。
そんなこんなで、お二人きりデートが始まったのである。
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