part4 【雑談】寝る前にみんなの質問食べちゃうぞ♡!
部屋の外は闇に包まれ街灯がポツンと寂しく道を照らす。
人の影は無くまるで別世界のような雰囲気を出しどこか魅力的に感じる。
そんな中僕は教科書の問題を見つめながら頭の中で格闘していた。
答えが浮かんでは沈みを繰り返しイライラからか持っているシャーペンをカチカチと鳴らす。
…ピコ
めったにならないスマホの通知音で意識が現実に戻される。
バイト先からの連絡だと思いベットの上に置いてあったスマホを手に取ると
【ヒナタがみんなの質問を片っ端から答える雑談配信】
通知の正体はヒナタの配信をお知らせするものと知り驚く。
「もうこんな時間か」
スマホの時計を確認すると時刻は22時ちょうどだった。
いつもならゲームか配信をしている時間だが今日は学校で出された課題をやっている。
しかし、プリント提出が明日なのを今日思い出して死にもの狂いで問題を解いている。
心の中で「なんでやらなかったんだろう」と後悔しながらも「配信やってたししょうがないね」と誰に言うわけでも言い訳をする。
「気分転換に見てやりますか」
そう言ってヒナタの配信を見ながら勉強することにした。
配信内容はシンプルであらかじめ集めていた質問にヒナタが答えるものだった。
配信をボケーと見ているとさっそくヒナタが質問を読み上げた。
【ヒナタさんの好きなゲームは何ですか?また最近やってるゲームは何ですか?】
「好きなゲームはRPGで最近やってるのは確か…クッキング2だったっけな?」
答えがすぐわかってしまったのでヒナタが答えるよりも早く質問の答えを呟く。
【私が好きなのはRPGで最近はクッキング2にはまってます!】
「はい完璧!ゲーム買うたびにヒナタから連絡もらうおかげでだいたい今何のゲームやってるかわかるからこれは簡単だな」
とクイズ番組を見ているような気持ちになりながらもヒナタに寄せられた質問をヒナタが答えるよりも早く答える。
勉強しながら配信を見るとは何だったのか意識を完全にヒナタに向ける。
【ヒナタさん今日晩ご飯何食べましたか?】
配信を一回止めて長考する。
「えっとまってよ…確かヒナタは中華料理好きじゃないからそれはないだろ…とな ると和食か洋食か…いやまて?確か今月お金がなくてピンチとか言っていた気が する、となると安価で早いカップラーメンが正解のはず!つまりヒナタの今日の 晩ご飯はカップラーメンだ!」
答えを確認するために動画を再生する。
【今日晩ご飯は…霞を食べました!】
まじかーそっちかー霞かー…霞ってなんだよ!
すぐさま霞について調べる。
<霞とは?>
・ 空気中に浮かんでいるさまざまな細かい粒子のこと
・何もないこと
…なんも食ってないって事じゃねーか!
晩ご飯食べてないならそう言えよ!
というかそのレベルで金欠なのかよ!
え、ヒナタ大丈夫?明日ぽっくり死なない?今のうちに遺書書かなくて平気?
霞を食べているヒナタにツッコミをいれる。
「あとで連絡して食べたいもんおごってやろ…」
かわいそうになってきたので最低限の食料を送ることを決意する。
【さーて次はどんな質問かな?…お、ヒナタさんは好きな人はいますか?だって!】
それを聞いた瞬間体の動きが止まる。
「なんて質問きてんだよ…」とあきれながらスマホの音量を上げてヒナタの配信に集中する。
あいつに好きな人はいないだろうと思いながらも体がソワソワする。
【好きな人は…いるよ】
勉強道具が床に落ちる。
予想と反した言葉が聞こえ雷に撃たれた衝撃を受ける。
一瞬フリーズした後すぐに頭の再起動を行い。
さっきまで勉強に使っていた頭をそれらしき人物を探すのにフル回転させる。
「いったい誰だ?わざわざ配信でいうってことは配信者か?ヒナタと仲の良い配信者といったら…もしかしてルナトか!」
とヒナタの行動を思い出しながら犯人をしぼっていくが情報が足りない。
何かヒントがないかと思い配信に意識を向ける。
【その人はいつも私を見守ってくれて時々ゲームもしてくれるんだ】
絶対ルナトだ!
あいつしかありえない!
くそ!ずっと仲間だと思ってたのに!
裏切られた気分だ!
もうあいつとはコラボしないし金輪際関わらない!
ルナトの野郎絶対に許さ…
【その好きな人ってのはリスナーのみんなだよ】
やっぱり僕の最高の親友はルナト様だと思います。
優しいしカッコイイし優しくて…あと優しい?
そんなルナト様が僕を裏切るわけないよね。
いやー安心安心ハハハハハ!
…今度レアアイテム渡して謝ろう。
と心の中でルナトに謝っていると配信では
【みんなごめんねーびっくりした?】
といういつもの彼女らしい人をからかうように言った。
それに対してコメント欄では
【知ってた】【だよねー】【言うと思った】
というコメントがほとんどだった。
なんだよ、パニックになったの僕だけかよ。
恥ずかしさと悲しさが混ざった何とも言えない感情になった。
「でもヒナタに好きな人がいなくてよかった」
と一連の流れを受けて思ったことを口に出す。
ん?なんで今ヒナタに好きな人がいなくてよかったなんて言ったんだ?
そもそもあいつに好きな人がいようがいまいが僕には関係なくないか?
…なんでだ?
自分で言った言葉の内容を不思議に思っていると。
【よしこれで最後の質問…好きな歌は何ですか?あれば配信で歌ってください。というわけで今から私歌います!】
【今から歌うのは昔から好きな歌、寂しい時や落ち込んだ時によく聞いてたんだ】
どうやら配信はそろそろ終わるようで最後に歌うらしい。
ヒナタの歌か…そういえば聞いたことないな。
長いこと彼女と一緒に活動をしているが歌っている所は見たことがない。
前々から大人の女性らしい綺麗な声だと感じていたのできっと歌も上手いのだろうなと思っていた。
何故か本人に綺麗な声だねと伝えると怒られるので最近は話題にすらあげていない。
なのでヒナタの歌が聞けるということにワクワクしていた。
しかし、僕は知らなかった。
この歌をきっかけに僕とヒナタの関係が大きく変わることを。
おそらく僕は今日という日を忘れないだろう。
なぜなら今日この瞬間から僕の物語が始まったのだから…。
BGMが消えていく。
聞こえるのはヒナタの声のみ。
それも準備が終わると同時になくなっていく。
長い静寂が訪れる。
長いようで短いような異様な緊張感が走る。
それをぶち壊すように曲が始まりを告げる。
そして彼女の歌声が響いた。
彼女の歌を聞いた途端正直背筋が震えた。
そこにはいつもからかってくる幼稚な彼女はどこにも存在しなかった。
私が主役だ!私だけを見ろと言っているような自分勝手で傲慢な彼女がいた。
ドスを聞かせた低い声が心臓に響いてくる。
男らしくもあり女らしい。
荒々しくもあり落ち着く声。
その姿がかっこよくそして…美しかった。
歌を聞き終えた頃には僕は彼女の歌に心奪われていた。
ヒナタの声が頭から離れない。
胸が痛い。
体が熱い。
息が苦しい。
頭の中を整理しようとしても上手く回らない。
何でこんな状況になっているのかわからず泣きそうになる。
ふとスマホの画面を見てみるといつの間にか配信が終わっていた。
とりあえず何かしなければと思い目の前にあったジュースをがぶ飲みする。
飲み終わる頃には少しだけ気持ちが落ち着いていた。
落ち着いた頭でこうなってしまった原因を考える。
一番最初に頭をよぎったのはこの前やったルナトとの配信だった。
「クロトくんの好みの女性ってヒナタじゃね?」
彼の言った言葉が頭を駆け巡る。
僕はヒナタが好きなのか?
ヒナタのことを思い出す。
一緒に配信したこと、夜遅くまでゲームしたこと、相談に乗ってくれたこと、そして僕が彼女の歌に心を奪われた瞬間のこと。
今まで起きた全てのことを振り返る。
わからない。
ヒナタのことがわからない。
好きということがわからない。
キャラクターを好きになるとは違う。
もっと深く心臓に突き刺さるような感覚。
ヒナタのことを考えれば考えるほど胸が痛くなる。
苦しい
いつの間にか涙がこぼれ服が所々濡れていた。
自分で自分がわけがわからなかった。
まるで別人のような。
自分が自分でなくなってしまうようだった。
「寝よう…」
極力ヒナタのことを考えないようにしてベットに向かった。
何がしたいのか何をするべきなのかわからない不安に押し潰すされそうになりながらも僕は寝ることに集中した。
底辺配信者の僕が顔も名前もわからない彼女を好きになっちゃダメですか? @namonakiv
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。底辺配信者の僕が顔も名前もわからない彼女を好きになっちゃダメですか?の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます