part3 【耐久】ゴールドランクまで終わらないFpex配信!

いやー勝てねぇ!」

怒りと疲労が合わさった何とも言えない声がイヤホン越しに聞こえる

「金曜の夜だから敵が強いな」

言い訳をするように彼に言う。


今日は爆4メンバーの一人であるルナトとコラボ配信をしている。

配信内容はFpexという銃を撃ち合うオンライン対戦ゲームで

ある目標を達成するまで配信が終わらないというものだ。


この配信形態は耐久配信と呼ばれ

多くの配信者が耐久配信を行いこの過酷さに後悔していく。

本当は普通の配信をやりたかったがルナトにどうしてもと懇願されてしまって泣く泣く耐久配信を行っている。

「ほんと人に頼まれるのに弱いなぁ」と自分の心の弱さを自覚する。


最初の頃はお互いに順調で、すぐ終わるかと思っていたのだがチーターに遭遇した辺りから流れが変わり今は負け続けてどんどん目標が遠くなっている。


お互いに睡魔と疲労が相まって判断力が鈍りつつあり

いわゆる深夜テンションというやつになっている。


「…クロト…お前勝つもりあるのか!」

「あるよ…あるに決まっているよ!でも勝てないんだ…僕が弱いから…」

といつも2人がやっている悪ノリが始まる。


「お前には足りないものがある。強くなるために足りないもの。それは守りたいものがあるかどうかが!」

「守りたい…もの?」

「そうだ!だからこれから先に死んだ方が女性の好み暴露する縛り追加ね」

「ちょっと待って意味がわからない」


突然何言いだすんだこの馬鹿は、ゲームのやり過ぎで頭いかれたかな?


「女性の好みを暴露したくないという守りたいものがあれば人は強くなれる。そう思わないか?」

お得意の低音ボイスでかっこよく言うのがさらにムカつくと思いながら

「思わないし言いたくない勝手にやってろ…ってゲームスタートするな!」

と僕がルナトの提案を承諾する前にゲームを始めてしまった。

こいつほんとこういう時勝手だよぁ。


こうなったルナトの意思を変えるのは困難なので意識を負けないことに集中する。

大丈夫だこのゲームは僕の方が多少うまい。

落ち着いて行動すればルナトより先に死ぬなんてまず有り得ない。


「あとで負けてやっぱりなしにしない?とか言うんじゃねーぞ」

そう挑発し、2人の男をかけた勝負がスタートした。



「…やっぱりなしにしない?」

僕が情けない声でルナトに訴えかける。

「ダメ!早く言えよ敗北者」

「ハァ…ハァ…敗北者?取り消せよ今の言葉!」

「いや、実際お前俺に負けただろ」

「うるせぇ!確かにゲーム内容は負けたかもしれねぇ!だがこころは負けてねぇ!」

「ごまかしてもだめでーす。お前が女性の好みを言うまで配信は終わりませーん」


誤魔化せなかったかと悔しがりながら

自分の好みの女性について考える。

「つっても好みの女性かぁ…あんまり考えたことなかったな」

僕は生まれてこの方女性との縁が全くなかった。

それどころか女性と付き合いたいと思った事もなければどんな女性が好きか考えたこともない。

2次元のキャラクターだったら見た目を言えばそれが好みとなる。

しかし、3次元の場合は何を基準にして好みを決めればいいんだ?

そもそも好きとはなんだ?

と好みの女性というお題に眠い頭をフル回転させる。


「優しい…女性がいいかな…」

照れながら必死に導き出した答えを言う。


「つまんねぇ…やり直し」

「おめぇマジぶっ飛ばすぞ!」

「この流れで優しい女性はないわ、センスないわ、発想がおこちゃますぎるわ」

「お前この配信は終わったらマジで覚えてろよ…」

真剣に悩んだ答えをつまらないの一言で流され怒りを覚えた。

マジで通話切ったろうかな。


「今回はそれでいいけど次負けたらまじめな解答よろしくな」

至ってまじめに答えたんだがと思いながらもゲームに気持ちを切り替える。


まぁいい

さっき負けたのはたまたま敵が強かっただけだ。

次こそはルナトの好みの女性を聞いてやる!


「教えてやるよ!奇跡は1回しか起きないから奇跡だということをな!

そう言い放ちコントローラーを強く握った。



「なんでだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!なんで負けるんだよぉぉぉぉぉ」

近所迷惑なんてお構いなしで夜中に叫ぶ。

ルナトはそんな僕を見てケタケタと笑っている。


「はーおもしろい!じゃあクロトくんの好みの女性はなーにかな?」

「好きな女性か…」

「なんなら好きなアイドルとかでもいいよ

「いや、僕あんまりテレビ見ないから好きなアイドルとかもいないかな…」


またしても何を答えていいかわからず考えた込んでしまう。


「一緒にゲームをしてくれる女性…かな?」

「違うそうじゃない」

僕の答えを聞くや否やばっさりと否定する。

なんでだ一緒にゲームしてくれる女性最高だろ。

夜通しパーティーゲームやってくれるとか天国じゃん!


「よし分かった、女性経験が乏しいクロトくんの為に俺が質問するからそれに対して答えてもらおう」

と僕が悩んでいる姿を見てしびれを切らしたの妥協案を出してくれた。

女性経験が乏しいは余計だよ!事実だけど。


「それでいいならそっちのほうが助かる」

「じゃあ先ずはそうだな…よし!好きな髪型はロングかショートか!」

もっと変な質問が来ると思っていたが思ったより普通の質問が来たことに驚いた。


「ロングヘアの方が好きかな。ショートに比べて女の子感が出て好き」

特に考えず頭に浮かんだ答えをそのまま口に出したが

答えた後に「ホントにロングヘアの方が好きか?」と自問自答したが好きなアニメキャラがロングヘアなのを思い出し納得する。


「なるほど、よし次はかわいいのときれいなのどっちが好きか」

何事もなかったかのように進めようとするルナトにすかさずツッコミをいれる。

「おい、何しれっと新しい質問してるんだよ。1回の約束だろ」

「誰も1回しか聞かないなんて約束してないが?」

「汚なお前…」


確かに言ってないがそれやってること詐欺師とかわらなくね?と思った。

「ささ、かわいいのときれいなのどっちが好みだい?」

どっちもあんまり変わらなくね?と思いながら

僕の意見は完全無視の方向でいってることに若干悲しみを覚える。

「どちらかといえばきれいな方が好みかな」

という感じで二人の質問は続いていった。



「つまり、クロトくんの好みをまとめると優しくてゲームが好きなきれいな女性がいいということだね」

と今までの質問の解答を簡潔にまとめる。

まとめてくれるのはありがたいけどいざ自分の好みの女性を面と向かって言われるってなんかやだな。


「まぁおおまかにいえばそうだな」

「なるほどね…あれ」

ルナトは何かに気づいたのか急に言葉が止まった。

何か機材トラブルでもあったのかと思い心配する。

「どうかしたか?」


「いやー今思ったけどクロトくんの好みの女性ってヒナタさんみたいだなーって」

「………………は?はああああぁぁぁぁ!?」


予想外の答えが来たことに驚きつい大声を出してしまった。

「うわぁびっくりした!?急に大声出すなよ」

「いや、まって、え?ヒナタってあのヒナタ?

バカでお調子者な爆4の劇薬といわれているあのヒナタ?」


もしかすると僕の知ってるヒナタとは別人かもしれないので尋ねる。

というか別人じゃないとおかしい。

僕の好みがヒナタなんてのは物理的にあり得ない。



「ああ、お前も知ってるあのヒナタだよ」


同一人物だった。


「ないないないないないない!あれのどこが優しくてゲームが好きなきれいな女性なんだよ!あってるのゲーム好きだけだろ!」

「そうか?ヒナタって普通にみんなに優しいし見た目もロングヘアできれいじゃないか」

「いーや違うね、あいつは僕に対して全然優しくないもん」

「確かになぜか知らんけどお前にだけはいつもちょっかい出してるなw」


とヘラヘラしながら答えている。

笑うな!こっちは割とそのこと気にしてるんだぞ。

「でもまあ」と急にまじめな声に変えて話始める。


「それだけヒナタはお前に気を許してるってことだと俺は思うけどな…それかガチであいつ嫌われてるかだなw」


と励ましてるのか煽ってるんだかわからない言葉を受け取った。

僕の理想の女性がヒナタ?

あり得ない!

確かにあいつとは一緒にいて楽しいし本音で話し合える数少ない人だけど。

それは友人だからであって恋ごころとかそういうのでは断じてない!

第一相手の顔も名前もわからないのに好きになるはずがない!

きっと初めて出来た女友達だから無意識に意識してるだけだ。

僕はヒナタのことは好きでも何ともない!

そう心に繰り返し言い聞かせて配信を続けていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る