デート①

「ねえ沙綾、咲良が可愛すぎるんだけど……」

 

 普段の部屋着とは違う服装の咲良を見て堪えきれずに言うと、いつものように呆れ顔で返される。


「うん、それさっきも聞いたから。ってか、いつも聞いてる」


 私達は今、遊園地にいる。規模が大きいところではないけれど、一通り楽しめるアトラクションが揃っていて人も賑わっていた。

 何故ここへ来ることになったかというと、私と咲良は恋人になってからも普段通り咲良の家でぬくぬく過ごしてばかり……それを知った沙綾は、あっという間に私と咲良、遥香ちゃんの予定を組んだのだ。


「来て良かったでしょ?」


「うん、いつもと違う服装の咲良が見られて最高」


「そのテンションにはちょっとひくけど、満足してくれてるなら良かった」


「感謝してるけど、そう言う沙綾もさっきまで遥香ちゃん見てデレデレしてたよね?」


「しょうがないじゃん、私の彼女めちゃめちゃ可愛すぎるんだから」


 沙綾がそう言ったところで、遥香ちゃんが慌てた様子で止めに入る。


「二人とも、声大きすぎるよ!」


 そう言いながら周りを気にしている様子の遥香ちゃんの頬は少し赤くなっていた。先程の沙綾の言葉に照れているようだ。

 一方の咲良は遊園地自体にわくわくしているようで、動くアトラクションを見ながらそわそわしていた。相変わらずマイペースな咲良にほっこりする。

 まずはメリーゴーランドやコーヒーカップなどでゆっくり過ごした後、不意に沙綾が立ち止まって言った。


「次、ここに行かない?」


 沙綾が指さしたのは、お化け屋敷だった。途端に遥香ちゃんが動揺しだす。


「さ、沙綾ちゃん、ここはやめとこうよ」


「遥香、こういうところ苦手?」


「うん……」


 沙綾は少し逡巡した後、怖がる遥香ちゃんの頭を安心させるようにぽんぽんとして、私と雪穂の前では絶対にしない表情をしながら言った。


「私がいるから大丈夫……って言いたいところだけど、遥香が本当に嫌ならやめるから遠慮せず言って」


 遥香ちゃんは、そんな沙綾を見つめ返して、しばらく考えた後小さく頷いた。


「……私、行くよ」


 すっかり手を繋いで良い雰囲気の二人から咲良に視線を移す。

 そういえば、咲良がホラーが苦手かどうかって今まで聞いたことがなかったな……。確認のため私の腕にぴったりくっついている咲良を見て尋ねる。


「咲良は大丈夫?」


「うん。菜瑠美がいるなら、良い」


 言い方的に、苦手ではあるようだ。じっと、少しの表情の変化も見逃さないように見つめる。


「本当に良いの?」


「うん」


 もう一度聞いても頷く咲良に、私は少し困ってしまった。咲良が嫌なら止めようと思っていたのだけれど、少なくともそうではなさそうに思えた。

 それどころか、咲良は考えて突っ立っている私の腕を引っ張って、お化け屋敷へ入る沙綾達の後ろに並んだ。

 腕を組み暗がりに進む沙綾達を見送ってから、私達も順番が来て中へ足を踏み入れる。

 真っ暗で視界も悪い中、微かな照明を頼りに歩いた。


「足下気をつけてね……って、咲良!?」


 横にいるはずの咲良の姿はなく、その代わり背中に温かい感触がある。出来る限り顔を後ろに向けると、咲良は周りが見えないよう頭ごと私の背中にくっついていた。


「菜瑠美、このまま歩いて」


「やっぱり、こういうの苦手だった……?」


「怖いけど……雨よりはまし。それに、菜瑠美と一緒ならどこでもいい」


 怖がりながらも嬉しいことを言ってくれる咲良にきゅんとしてしまう。もう既に前に立っているけど、何かあったら絶対に咲良の盾になろうと強く誓った。

 最初は暗すぎると思ったけれど、段々と目が慣れてきて今では割と色々見ることが出来る。

 そして、驚かしポイントを通過する度に、声には出さないけれどビクッと反応する咲良は小動物みたいで可愛い。咲良にとってはそんな場合ではないと思いつつも、出来ることなら今の咲良の様子が見たくて仕方なかった。

 そんな調子で出口まで辿り着き、建物の外へ出ると、沙綾が遥香ちゃんの頭をなでているところに出くわす。

 私が声をかけると、遥香ちゃんは沙綾から素早く距離をとった。私と咲良に見られるぐらい、そんなに気にしなくても良いのにな、なんて思いながら沙綾を見れば、全く動じていない様子で「どうだった?」なんて聞いてくる。


「どうだったって……やっぱり咲良が可愛すぎた」


「はいはい。それはもう何回も聞いた」


「沙綾達はどうだったの?」


「それはもう、遥香が可愛くて仕方なかったけど」


 沙綾の感想も私と全く変わらなくて苦笑いしてしまう。お互い恋人のことが好きすぎて語彙力がなくなってしまっている。

 そんな沙綾に、遥香ちゃんは顔を赤くしながら言った。


「沙綾ちゃん……!そういうの平然と言うのやめてよ~……」


「なんで?……照れるから?」


 少し意地悪な笑みを浮かべる沙綾を見て、遥香ちゃんは顔を覆う。


「だからそういうのだよ……」


 二人の仲睦まじいやり取りを生暖かい目で見守った後、私達は近くにあった売店でテラス席に座ると昼食をとった。

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