修学旅行③[沙綾]
遥香ちゃんからの返事を待ち続けたまま修学旅行を迎えた。
菜瑠美と咲良ちゃんの距離感は相変わらずで、見てるこっち側が恥ずかしくなるほど近い。あれでまだ友達のままだというのが不思議でならない。
私はというと、告白して以来なるべく遥香ちゃんの側にいるようにしていた。遥香ちゃんも前より私との距離を詰めようとしてくれているのが伝わってくる。何の根拠もないけれど、良い返事がもらえるような予感がしていた。
遥香ちゃんの友達二人とも、いつの間にか名前で呼び合うほどの仲になって一日目は思いっきり楽しんで過ぎ去っていった。
そんな中、みんなで集まった夜。丁度良い質問が飛んできたから、私は遥香ちゃんの反応を見たくて少し踏み込んだことを言ってみる。
「私は今、告白の返事を待ってるところかな」
ちらっと遥香ちゃんの方を見ると、少し頬が赤くなってる……ような気がした。恥ずかしそうにうつむいているのがまた可愛らしい。
誰にも気づかれないように心の中で微笑むと、他のみんなの話に集中する。
咲良ちゃんが言ってるのは絶対菜瑠美のことだな……なんて思いながら、菜瑠美の反応を見てみると分かりやすいほどに動揺していた。苦笑しながら見守っていたら、あっという間に消灯時間になる。
ぼーっと荷物を弄っていると、突然肩をぽんぽんっと叩かれる。振り返れば、遥香ちゃんがどこか緊張した面持ちでいた。
「沙綾ちゃん、ちょっと二人きりになれるところで話さない?」
その言葉を聞いた瞬間、私も少し緊張してきてしまう。頷くと、菜瑠美に遥香ちゃんを送ってくると声をかけて二人で部屋を出た。
さすがに消灯時間に外へ出るわけにはいかないから、廊下は廊下でも通り過ぎる人からは死角になる場所へ移動する。この階は学校の生徒しかいない。消灯時間で本当に寝ている人なんて少ないだろうけどとても静かだ。
目の前の遥香ちゃんは、緊張した面持ちで深呼吸をした。顔も赤い。……どんなことを言われるのか、大体見当がついてしまって思わず頬が緩んでしまいそうだ。自惚れすぎだろうか。
「遥香ちゃん、何か私に話したいことあるんだよね」
待ちきれなくて、急かさない程度に話しかける。
「う、うん。あれからずっと考えて……私、沙綾ちゃんとお付き合いしたいと思っています」
最後まで聞き終えると、衝動的に遥香ちゃんを抱きしめた。
「わっ……沙綾ちゃん?」
「……嬉しい」
驚く遥香ちゃんに私は今の感情をそのまま口にする。
好きと伝えたものの、それに何か返してもらおうなんて一ミリも思っていなかった。ただ想っているだけで良いと考えていたのに、いざ相手から気持ちを向けてもらえるのがこんなに嬉しいなんて知らなかった。
最初は驚いているだけだった遥香ちゃんも、しばらくすると抱きしめ返してくれる。しばらく想いが通じた余韻に浸ってから、お互い自然と身体を離した。
「じゃあ……戻ろっか」
もう少し二人きりでいたかったけれど、遅すぎると特に遥香ちゃんと同部屋の二人には怪しまれそうだ。
上機嫌で遅くなったことを誤魔化す言葉を吐きながら部屋のドアを開ける。すると、いつもよりも距離が近い菜瑠美と咲良ちゃんの姿が視界に入った。
「ごめん……なんかお取り込み中だった?」
「い、いや別に何もないよ」
明らかに動揺している様子の菜瑠美に、私は心の中でため息をつく。どう見ても何か真剣な話……恐らくは告白しようとしていたところを邪魔してしまったのだろうと見当がつく。さっき自分は幸せな思いをした後なだけに、より申し訳なさを感じる。
部屋を出て行く二人の後ろ姿を見ながら、こうなったら何が何でも力にならなければとお節介魂に火がつくのだった。
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