その30:Happy birthday
ニューヨークからセントルイスへ。
金属探知機をなんとか通過して出発です。
目的の勉強会。
ボランティアで参加してくださった日本人留学生の方が講習の内容を通訳してくださいました。
既にクラブハウスとして活動している私たちにとっても意義深い勉強会でした。
そして帰国。
色んな意味で学ぶことが多い旅も終わりです。
帰国後は日本で行う勉強会に向けて大忙しです。
平日は主に仕事に行ってて、休みの日はミーティング。
やはりアメリカの文化と日本の文化は違うので、頂いた資料を翻訳しつつ取捨選択。
それから数ヵ月後、無事に日本でも勉強会が開催できました。
J氏も来日。
勉強会1日目終了後の夜、J氏も含めて夕食をとりました。
J氏から勉強会の最後にメンバーからなにかスピーチがほしい、との提案。
一瞬迷ったのですが立候補しました。
学んできた成果を生かしたい、と思ったからです。
最終日の最後。
スピーチをさせていただきました。
壇上に立ったらJ氏からハグとキス。そして貝殻の首飾りのプレゼント。
(J氏は本来ハワイを拠点として活動しておられます)
原稿がないので噛むかと内心はらはらしたのですが、なんとかOK。
これにて一連の活動は、無事成功いたしました。
さて。
それから6年。
今日(注*1)は私が足を切断してから7年目を迎えます。
中途障害を持った人は、事故に遭った日や手術を受けた日を「もうひとつの誕生日」と表現します。
私にとって、今日は本当の誕生日よりも大きな意味を持つ「もうひとつの誕生日」です。
本当にいろんなことがありました。
これまで前向きなことをメインに書いていましたが、決してそれだけではありません。
リハビリがうまくいかない悔しさに泣いた日もありました。
化学療法で髪が抜け、悲しい気持ちにもなりました。
でも、今私は笑顔で生活しています。
仕事の量も増え、クラブハウスに通うことは少し難しくなり、去年の春、卒業しました。
某千葉にあるのに東京にあると言い張っているテーマパークにはまり、年二回ですが通ってます。
しかもぼっちで(笑)
義足であることの不自由さはたびたび感じますが、それはもう私にとっては日常で、特に気に留める必要もないこと。
義足である私。それが私の今の本来の姿です。
もし、人生の選択肢がもっと幅広くて、義足にならずに済む人生を選べるのなら、そちらを選ぶとは思います。
しかし、義足になったおかげで出会えた人、出会えた事柄、学んだことは全てなかったことになってしまいます。
選択肢がなかったからこそ今この生活でいることが「できた」のだと思っています。
20年ほど前にうつ病を発症し、それから再発したり落ち着いたりを繰り返しながらの人生でした。
実を言うと、今でも薬は手放せません。
昔の自分は、”もういつ死んでもいいや”なんて思っていました。
車が私に突っ込んできてくれたらいいなー、思っていたこともあります。
かといって積極的に死を選ぶわけではなく、ただただ自暴自棄に生きていました。
生きることの意味。それを当時の私は知らなかったのです。
それから数年して、ふと思い立って通院していたクリニックに併設されているデイケアサービスに通いました。
その後出会ったクラブハウス。
少しずつ、生きることの意味を改めて学びなおしてきました。
そしてやってきた「もう一つの誕生日」。
自分なりにがんばって生き直してみたのになんで!?
そんな怒りが私を包みました。
怒りから受容へ、そして笑顔へ。
今、私は転移の心配も消えて楽しく生きています。
関わってくださった多くの方に深く感謝しています。
そして15年ほど前、ちょっと進んでみようと思った私にも。
私がよく講演で話すことがあります。
壁にぶつかってり生きることに疲れて、立ち止まって座り込んでもいい。
座り込んで充分休んで。
でも、気持ちが落ち着いたらもたれている壁をよく見てほしい。
単なる行き止まりの壁だ、と思ったそれは、次につながる大きな扉なのかもしれない、と。
私は行き止まりの扉を開けて、光を見つけました。
たまに気持ちが不安定になることもあるけれど、おおむね人生に満足しています。
生きることそのものが絶望だった過去。
「もうひとつの誕生日」を迎える度に思います。
――生きることは悪くない
注*1:この記事は、2017年1月14日に書いています。
義足ですけど何か質問ある? 遠野麻子 @Tonoasako
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