その29:報告会

 夜、観光から帰ってきて打ち合わせ。

 私の原稿はほぼネイティブの日本の方によって訳されていました。

 (私に話しかけるとき、無意識に英語で話してしまうくらいのレベル)

 しかし、私のたどたどしい英語では伝わりません。

 なので、J氏が代読してくれることに。

 しかし、本人も壇上に立たないことには格好がつきません。

 どうしたらいいかねー、とゲストハウスのリビングで相談していました。

 

 その中にはK氏(27話参照)もいて、彼がいいアイディアを思いついてくれました。

 スピーチ台にはJ氏がついて、発表する。

 で、その横で私が座って日本語で原稿を読む。

 ニュースなんかでよくある、英語音声の上に日本語音声をかぶせるようなみたいなものですね。

 日本人的には慣れているので大丈夫だけれど、英語圏の方は大丈夫なんだろうか、と確認したところ、アメリカでも似たようなことをやっているので聞き取りにくいということはないとのこと。

 それなら安心、とその提案に乗ることにしました。


 翌日。

 出発は早朝です。まだ日も昇りきってないぐらいからゲストハウスをでました。

 なぜなら、私たちが発表する場所はちょっと特殊だから。

 そこは国連ニューヨーク本部。

 入るにはセキュリティチェックを受けなければなりません。

 私たちは開催者側なので、ゲストよりも早く入る必要があったのです。

 しかし、いくらなんでも早すぎて、結局ゲート前でしばらく待つことになりました(笑)

 なんとかゲートの職員が出勤してきて、チェック。

 お約束のように引っかかる私。

 はーい、義足ですよ~。


 25話で説明したとおり、今回の目的は寄付金集めのための講演会です。

 国連本部内にあるビルのレストランを借り切って、セレブなみなさんを招待して朝食会兼報告会を行います。

 私たちも一緒に食事をします。

 いかにも、マダム!って感じの方も同席して緊張しました……。

 

 何人かの発表が過ぎ、私の番。

 どっきどきで壇上に。

 壇上に置かれた椅子に座って発表を開始しました。

 私が今までどんな風に生きてきたか。

 クラブハウスと出会うことでどう変わったか。

 そして、切断という重い事実の前にクラブハウスがどれだけの力を与えてくれたか。

 そんな感じの話をしていたのですが、横で話すJ氏の発表と私の原稿読むスピードがずれてる~~。

 流石にテレビの副音声そのままというわけにはいきませんでした。

 J氏が発表を終えた時点で私の原稿は三分の二くらいだったかな。

 まぁ、仕方ないです。

 

 その後も他の方の発表を聞きながら食事。

 一緒に壇上に上がった施設長さんが

「遠野さんの発表中、後ろのほうで小切手飛び交ってたよ」

 と耳打ち。

 原稿読むのに必死で気がつきませんでした。

 私の発表で心を動かしてくださった方がいてくれたことはとても嬉しく思いました。


 報告会も終わり、後は和やかな雰囲気で雑談しながらお食事。

 一人の男性が、私のところにこられて

「君の発表を聞いて、涙が止まらなかった」

 と言ってくださいました。

 ただただ、ありがたかったです。

 

 化学療法とリハビリを乗り越えて、義足である自分にはまったくコンプレックスは抱いていません。

 しかし、あるひと時、辛い時間を過ごしたという事実はあります。

 それがきっかけで遥々ニューヨークまできてしまいました。

 2009年末に足の切断を宣告されて、毎日泣いてました。 

 2010年のお正月ごろには泣いてはいませんでしたが、余り晴れやかな気持ちもせず、ぼーっとコタツで寝転んでいた三が日でした。

 そして、手術。

――できることならそれらの出来事が起こらなければ良かった。

 それは今でも時々思います。

 しかし最悪だった私の2010年は、この一連の体験をもってして、人生最良の年となったのです。

 

 帰りに記念品としてビアジョッキと小さいバッグを頂きました。

 折角だから、と本会議場の前で写真撮影。

 役目を果たしてすっきりさっぱりの笑顔で。


 さて、明日はセントルイスへ出発です。


 

 

 

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