第24話 命がけの出産

「破水した?」

「まだ1ヶ月も前じゃない」

「救急車呼ぶわ待ってて」

「駄目だ人の姿になれないよね?」

「ごめんねちょっと無理」

「わかった私が連れて行く」

「かずみ、お母さんの手握ってあげて」

「うん、わかった」

さいわい雄一郎が乗っているバンがある

時々小回りが利くほうがいいと私の車に乗っていくのだ

後部座席を倒して寝れるようにする

ブルーシートを引いて毛布を引いて

「かずみ、お父ちゃんは?」

「仕事ですぐにはこれんって早く片付けてくるって」

「あーどうせ男は使いもんにならんけどね」

「毛布でくるむからそっちもって」

「少しくらい歩けます」

「大丈夫無茶しないでよ?」

「はい」

車まで歩いてもらう

Z病院に向かう

正確には柿股私立病院だ。妖怪が経営していて

妖怪を近辺では唯一受け入れてくれる病院

ちょっと遠いが後々の面倒を考えるとそこが一番だ

車を走らせる。あまり刺激も与えられないので

スピードもだせない。いや私がスピードだすと

簡単に違反でつかまるぐらいだす

ココだけの話、学生自分に暴走族やってた2年ほどだが…

父親の命と引き換えに荒れるのが収まった

一人で生きていかなきゃならないのになにも用意してなかった

父はそれを全部用意してくれてた

妖怪屋敷の管理人という湾曲した生き方だが…

だが私に必要なものがそこにあったんだと思う


車の無線でZ病院に連絡

ヂヂ

こちらB区アパート

「猫またの靴木さん奥さんが破水しました」

「あれぇ、ちょっと早いよねぇ担当を呼んでくるね」

待つこと3分

「ひと月ほど早いね救急車じゃないよね自家用車?」

「はい。人の姿になるのがすでに困難で」

「だねぇ陣痛始まると厳しいね裏口わかる?」

「休みの日にお見舞い出入りする入り口ですよね?」

「そうそこタンカ用意しとくからそっち回って」

「わかりました」

車がつくのとタンカが来るのと同時くらいだった

やっぱり気がせいているのかすこしスピード

出しすぎてたらしい

靴木さんはここでも歩いてタンカに乗る

気丈だ


だが破水して1時間がたつ

陣痛の感覚も早い

無事ならいいのだが…

「美穂ちゃん、これ着て母体に治癒かけてくれる?

疲労が激しすぎるみたいだから」

「俺も入れて」かずみも簡易服を着て入ってくる

「かーちゃんがんばれよ。やっとできた子なんだ。負けるなよ」

そういって手を握る

私は腹を中心に頭部から足先まで治癒をかけていく

かずみはわかってないが私が入れられたってことは

母体の生死がかかっているということなのだ

そうでなければ並みの治癒師なら病院にごろごろしている

それが柿股私立なのだ

慎重に治癒をかけていく陣痛も早い呼吸も乱れがちだ

それでも1時間も治癒をかけると安定してきた

医者もオーライをだす。まず一息。後は悪くならないように

適当に胸辺りを治癒かけている


それから子供が生まれてくるのに時間がかかった

生死をわける境目くらいでやっとでてくる

だが産声をあげない

体を拭いて人工呼吸10分20分30分

「奥様残念ですがお子様は…」

「待ってまだ生きている」

「そう思いたいのはわかるが機械の反応は全て死を意味してる!」

「まだ生きてる生命反応が伝わってくる」

「私の好きにさせて」


私はそういうと昔からの産婆の方法で人口呼吸をする

鼻から吸って異物を取り出し今度は鼻から息を吹き込む

胸を押す何度も何度もその繰り返し

時々足を持ち上げては背を叩く

また人口呼吸10分20分30分体の血の巡りが悪くなっていく

それを体で感じながら自分に触れてくる生命の反応を信じて…

何度目か背を叩く「げぼっ」異物を吐き出す

「みゃー、みゃー」みゃー?一瞬頭が混乱する

「かずみこれ産声?」

「そうだよ。猫股だからにゃーでいいんだよ」

「美穂ねぇの粘り勝ち。ありがとう美穂ねぇありがとう」

「驚いた生命力だな生まれてから1時間以上蘇生するとはなぁ」

「ありがとうなぁ、子の子の命の恩人や、ありがとうなぁ」

「そういや私も助けられたんやなぁ2重に恩人やおおきになぁ」

「2重にって?」とかずみ

「過去2回の流産で今度生む時は命がけやいわれとったん」

「美穂さんの高度な治癒術なきゃしんでもうとたわ」

「なんだよそれ一言もなしに生む決めたんか?

俺やとーちゃんどなする気だったんや。ひどすぎるで

欲しいかてひどすぎるで何倍も大事や生まれてくる子より

何倍も大事なんだ!」

そう言ってかずみは部屋をとびだしていく

ふーっため息をつく靴木奥さん

私はかずみを追いかけて出てきた

「美穂ねぇ。ひどいわ。ひどすぎるわ」

そう言って泣きついてくる

なりはでかくとも小6だまだ母親を必要としている年齢だ

「よしよし。いいこいいこ。助かったんだから許してやんなよ。」

「そんなこと言ったって輝がいるのに美穂ねぇも同じことする?」

「そうねぇ子供生むには辛い年齢だし同じ選択をせまられるかも」

「そしてやっぱり生むかもね。私がいなくとも輝がいる雄一郎がいる」

「たとえなにもなくても生むかもしれないそれが母ってもんね」

「あるものを見捨てていくの?」

「違うわね。あるものに希望を抱くの」

「兄弟に父親に世間に社会に一欠けらの希望をいだくのだから生む」

「逆に自分がいなくても大丈夫だろうと思わなきゃ生めない

どんなに元気な母親でも命がけで生んでいるんだよ」

「当たり前のように生むから忘れがちだけどね」


「ほら妹か?弟か?わかんないけど迎えてやんなさい。

母親にとって一番怖いのが兄弟を平等に育てられるかなんだから」

「お兄ちゃんが頑張ればその分楽になる」

「妹だよ。わかってるずっと楽しみにしてた。

すごい怖い事だってわかったけど生まれてきてくれたんだ

大事にするよ。」「あ、おやじ」

「生まれたか?母子ともに健康か?」

「危なかったけど美穂ねぇが助けてくれたよ」

「俺もまだ顔拝んでないんだ見に行こう、ほら、おじけつかない」

「そうは言ってもだな、何を言ったらいいんだか」

「ぷぷっ、ほんとだ男なんて役にたたねぇ。美穂ねぇの言った通り」

「ほら、なんだっていいからはいるぞ」「おお」


私はしばらく入り口の椅子でこくりこくりしていた

「美穂ねぇ、起きれる?美穂ねぇ?」

「うん、平気覚醒は早いほうだから。帰る?」

「うん、俺おやじの車で帰るから美穂ねぇ一人で平気」

「うん、ひさしぶりにぶっとばすか」

「それはやめい美穂ねぇの本気は怖いんだから」

「あれ乗せたことあったっけ?」

「雄一郎さんから聞いた100キロキープするって」

「ははは、よほど怖かったんだな」

「安全運転で帰ります」

「本当だよ俺たち追い抜いちゃ駄目だよ」

とは言われたもののトロイ

おもわず追い抜きたくなる

うずうず

そんなかんなで帰ってきました

文ちゃん長いことごめんね交代します

「いえいえ、母子ともに元気」

「うん、元気」

「そか時間かかってるから心配しちゃった」

「トラぶったからね。でも平気かわいい猫ちゃんだったよ」

「二股にわかれている以外は」

「ははは猫又ですからね」

「それじゃ交代します」

「おやすみなさい」

「おやすみなさい」


こうしてアパートも日がくれている

輝ももう寝てるみたいだし

冷蔵庫からビールを一缶とりだして開けようとすると

上からすーっと取られてしまった

「おつかれさん」

「はやく帰れたんだ」

私はもう1本缶ビールを取り出し…できなかった

「お前は飯」

「んー作ったの」

「野菜炒めか肉が解凍してなかったでしょう?」

「ざく切りにしてレンジで解凍した」

「さすが一人暮らししてただけはあるー」

こうして慌しい一日は終っていく


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