第27話 オタクの彼女紹介の宣言⑤

「ん? 私とナギが? ……あら、ユノったら勘違いしてるわよ? 私たち付き合ってないの」

「え? あ、そうだったの? すんごい仲良さげだったからてっきり付き合ってるのかと思ってた」

「でも嬉しい勘違いね」


 ユノに、ナギと付き合ってるのではないかと言われて、詩葉は微笑を溢している。


 しかし、この場の流れマズイな。

 クドウもこの事を察してか、少しばかり複雑な表情を見せている。


 それこそこの話は色々と面倒すぎて出来れば話題に出したくなかったものだったのに、ユノがすんなりと出してしまった。


 まぁ出てしまったのなら仕方ない。なんとか穏便に済むといいが。


「付き合ってはないけどさ、詩葉ってナギの事好きだよね」

「もちろん。天地がひっくり返っても」

「おぉ……っ。微塵も戸惑う事なく肯定とは。普通、こういうのって少しぐらい戸惑ったり照れるもんとボク思ってた」

「……普通ならそう」

「こんなにもオープンにしてるのは珍しい方だな」


 こうもオープンに好意を示しているやつなんて余程いないだろ。俺も知り合いの中じゃ、詩葉ぐらいだし。


 それにしても、ユノ止まらないな。

 知らない事は知らないままにしておけないタチか。


 さっきからこの話題を挫折させようと、わざわざ空気重くしてるのに核心にどんどん迫ってきている。流石にここいらで止めとかなきゃ、引き返せなくなるな。


 よし、そうとなれば……いくぞ、クドウ!


 俺たち二人は目を合わせ、合図と共に口を開いた。


「よし、じゃあここいらで俺のすべらない話をしてやるか!!」

「……聞きたい聞きたい。例え面白くなくても苦笑いしよう」

「ーーえ、じゃあさ、なんでナギと付き合わないの? 早く告って、付き合えば良いじゃん」

「「「………………」」」


 なんてこった。ユノがまさかこうも簡単にパンドラの箱を開けるとは。

 クドウと一緒に話題を変えたつもりだったが、ユノにはまるで効果はなかったようだ。


「二人の様子見れば、逆になんで付き合ってないのって思うんだけど」

「--はぁ……ユノ。こうもズケズケと色んなことに首を突っ込むのは命取りよ? クドウ、アンタが説明してくれた死体撃ちをこの子にしたくなるのもなんだか分かるわ」

「……友よ。歓迎する」

「え、急に辛辣」


 触れてはならぬ部分に触れた洗礼だろう。

 ユノにはぜひここで空気を読む事を学んでもらいたい。


「あのね、ユノ。事はそう簡単じゃないのよ。実は私、ナギを惚れさせてる途中なんだから」

「惚れさせてる……途中? どゆこと?」


 まぁ初見じゃ、その反応も分かる。

 俺も事情を知らなければ、ユノみたいな反応になっていただろうから。


「言葉の通りよ、ナギを私の魅力でメロメロにさせてる最中ってこと」

「は、はぁ……。ナギをメロメロにって……なんで……?」


 その疑問も分からなくもない。


 もはやナギが詩葉にメロメロになっているのは火を見るよりも明らか。ユノもそれには気づいているんだろう。

 しかし、明らかだというのに詩葉はそれに気づかず、なぜか既に自分に惚れてる相手を惚れさせるもいう二度手間な事を絶賛進行中というわけだ。


 訳がわからないのはよく分かるぞ、ユノよ。だが、その疑問は当の本人にとって疑問じゃないんだよ。


「クドウ。ユノってノイズキャンセリングのイヤホンしてる? 全く話通じないんだけど」

「……いや、確かイヤホン届くのは翌日って言ってたからしてないと思う」

「なんかボクの扱いがホイミと同じ感じになってきた気がするのはボクだけ?」

「友よ。歓迎するぞ」


 仲間が増えて何よりだ。しかし、ユノは新参者だから俺よりは位は低いぞ?


「なんで……というか。あのね、ナギは全く私に気がないのよ。普段私と一緒にいてくれるのもナギが超絶優しいからでね、それにナギは--」


 おっと、詩葉がナギのこと好き好きモードになったな。

 この状態になったら誰の声も届かず、詩葉が満足するまでひたすらにナギの好きなところを言い続ける。


 さて、この調子じゃしばらく詩葉はほったらかしにしてもいいだろ。その間にユノに処置を。


 俺とクドウがユノに、指導をしようとしたその時、彼女は勝手に詩葉に向かって口出そうとしていてーー


「へ!? ナギが詩葉に気がない? --いやいやいやっ!! 明らかにナギは、うた--ムグムグ」

「……はい、そこまで」

「それ以上はまた話がややこしくなる」


 クドウがすぐさまユノの口を押さえて黙らせた。

 ふぅ……危ない危ない。下手な言葉が出るのを防ぐ事ができた。


 これは早めにユノと話す必要があるな。


「おい、詩葉!! ちょっくらユノにここの常識ってやつをクドウと教えるから少し離れるな?」

「……詩葉嬢さんに頼まれたように、一生反抗できないようにコイツを締めてくるでやんす」

「え、何そのひと昔前のヤンキーが言いそうなセリフ。そんな事頼んだ覚えないけど……ま、まぁいいや」


 俺達は詩葉を席に残したままユノを担いでレンの部屋に入って行った。

 そして部屋の扉を閉めるや否やユノは口を開いた。


「ね、ねぇあれってどういう事なの?」


 あれとはつまりナギと詩葉の事だろう。ユノは疑問に疑問が膨らんで、戸惑っていた。

 あの二人のを説明か……時間が足りんな。


「あれはまぁ……ややこしくて難しい話でな」

「……処理がかなり難しいトピック。あれ以上続けてたら朝になってた」


 話したいのは山々だが、それは今じゃなくていい気がする。

 時間がある時の方が断然良いし、それこそ詩葉本人がいない方が絶対に良い。


「処理が難しいって、どのくらい難しいの?」

「……"どうぶ○の森"系統しかやってこなかったゲーム初心者に、一週間でフロムゲーをクリアさせるぐらい」

「不祥事起こした芸能人に休止明けすぐに、ゴールデンの帯番組MCやらせるぐらい」

「そ、それは難しすぎるね」


 ほぼほぼ不可能と言っていい。

 つーか、アレに関しては当事者のナギがいない事には解決なんて絶対無理だし、あのままユノが進めていても決着はつかなった。


 それが分かっていたから俺とクドウはこうしてユノを拉致したというわけだ。


「……まぁ詳しい事は後で話すよ。今は話題を変えていこう」

「う、うん。わかった」


 クドウの言葉に、少しばかり躊躇していた表情のユノだったが、なんとか納得したようにうなづいた。

 しかし、彼女的には惜しいという気持ちもあったみたいで。


「んーでも、あの二人付き合ってないのか〜 ナギと詩葉かなり良いカップルになると思うんだけどな。あれだけ好き同士なカップルそういないのに」


 そんな言葉を漏らしていた。

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