第26話 オタクの彼女紹介の宣言④

「聞きたいこと?」

「うん。というのもなんでみんな”かける”のこと、クドウ……って呼んでるの? あだ名にしては、かけるの名前少しもかすってないんだけど」

「あぁ……それにはちょっと訳ありでね」


 ユノの反応はごもっとだ。なんの説明もなく彼氏の呼び名がおかしなものになっていたら疑問を持つのも無理はないだろうな。

 しかもそれが名前と一切関係ないものなら尚更だ。


「ここにはいないレンって奴が勝手に決めたんだよ。初めはコナ○に似てるからコ○ンだったんだけど」

「……俺が『だったらクドウの方がいい』ってなってそうなった」


 正直○ナンよりクドウの方が良いという基準はよく分からない。だってどっちになっても少しも本名にかすってないんだから訳わかんないよね。

 今更と思うが、クドウがメガネをかけてる姿からこのあだ名を名付けたレンの安直さは本当に酷いだろう。


「メガネかけてるからコ○ン? メガネキャラなら他にもいっぱいいるのに。の○太に、ハリー・ポ○ターとか」

「あぁ--それは多分、その事があった前日にレンと僕がコナ○の映画見てたからだと思う」


 その事があだ名の起因となったかはレンに聞いてみない事には分からない。

 でも少なくとも関係はあったとは思うんだ。


 確かあの時は『ベ○カー街の亡霊』見てたっけ。

 あれは名作だったな……と言うかあれぐらいがちょうど良い。

 年々、映画になるたびにあのメガネ少年は人間離れしたアクションしてるから非現実すぎて笑ってしまうんだよね。


「へぇ〜 それにしても良いあだ名だし、ボクもこれからクドウって呼ぼうかな」

「……ダメ。絶対に」

「えぇ〜なんで? いいじゃん、イジワルゥ〜」

「……呼ばせない」

「ぶぅ〜〜 いいもん。勝手に言ってやるから」

「……もし呼んだらユノの事、これから"オニャンコポン"って呼ぶ」

「ボクとその名前、関係性なさすぎない!?」


 クドウとユノが仲睦まじくしている。

 なんていうかあのカップルはたから見てもお似合いだよな。

 共通の趣味があるのもさる事ながら、なんて言っても自分の言いたいことをちゃんと言える関係なのは凄く素敵だと思う。


 --僕もこんな良いカップルになってみたいなぁ。


 僕はふとそんな事を思いながら隣にいる詩葉をぼんやりと見つめてしまっていた。


「…………」

「どうしたの、ナギ。私の顔をずっと見て。キスして欲しいの?」

「うぃえ!? い、いや違うよ、そんなつもりはなくて……あぁでもしてほしいような」


 僕が詩葉の言葉に戸惑い、しどろもどろしている姿がとても面白かったのか詩葉はクスクスと笑みを溢している。


 むぅー 詩葉の反応を見る限りじゃ、今の冗談のつもりだったな? 一丁前に照れちゃった姿を見せちゃったじゃないか。


 僕が内心悔しがっていると、クドウとユノが小笑いしながら小突きあっていた。

 それはさながら絵に描いたようなカップルのイチャイチャ姿で--


「--もういい。お前らイチャイチャするのはやめろぉ!! 孤独な友人を前にしてよくそんな事できるな。これ以上そんな憎たらしい事するなら俺にも考えがあるぞ?」

「何する気?」


 絶賛、この空間の中で唯一孤独を味わっていたホイミが場を制した。

 彼にとってはこのお花畑のような甘い空間は地獄に感じていたのだろう。必死さが窺える。


 しかしホイミの言う考えって?


「すぐさまコンビニに行って大量の酒を飲んで酔っ払い、お前らにとって、はた迷惑な奴になってやる。グフフ……これでお前らは俺を無視できず、世話をしなくちゃいけな--」

「……もう既に、はた迷惑な奴になってるのでは?」「コンビニ行くならお菓子とジュース買ってきて」

「私、じゃが○こがいいかも」「ボクはジャ○プね。今週忙しかったからワ○ピース見てないんだ。ちょうど良かったよ」


 いや〜本当ちょうど良かった。小腹が空いたから補充したかったんだよね。

 ホイミが行ってくれるとは。


「お前らに情を求めた俺が馬鹿だった」


 ホイミはそう言い残して寂しく一人コンビニに向かって行ったのだった。



 それからホイミがコンビニから帰ってきて話題は、クドウとユノの出会いの話に。


「ーーえ? じゃあ二人が知り合ったのはもう何年も前なの?」


 てっきり数ヶ月前とかそんなもんだと思ってた。

 この二人、高校とかも違うからそれこそ大学生になる前後に知り合って、付き合ったんじゃないかと予想してたんだけど。

 ということはユノは、僕とクドウが出会う前からクドウと知り合いだったんだ。


「うん。初めて知り合ったのは、お互いが高校一年の冬ぐらいだったかな。あるFPSのゲームで知り合ってさ」

「……初めは相当仲が悪かった。犬猿の仲ってやつ」

「え、意外」


 これだけ仲良い雰囲気なんだから知り合った当初からこんな感じかなと思ってた。二人が険悪な関係ってなんだか想像できないな。


「……二人ともそのゲームのトップランカーで嫌でも目についてた」

「大体、同じ場所ぐらいにいたからね。でもなんかゲーム上では全く馬が合わなくてさ」

「……死体にスクワットするやつに良いやつはいないから」

「死体撃ちする人がよく言うよ」


 二人ともマナーがなってないのは共通してたんだ。

 ある意味昔から似たもの同士だったんじゃないのか?


「……トップランカーの俺たち二人があまりに仲悪くて一時期、”2ちゃ○”でそれについてのスレが作られたくらい」

「ねぇ、”2ちゃ○”って?」

「煽り合戦の本拠地。悪口じゃない言葉を探すのが難しいような場所だね」

「へぇ……。ネット上にそんな所があるんだから世界平和って遠いわね」


 詩葉には一生関わらないでいてほしい世界かな。


「で、結局仲悪いまま時間が過ぎて、ある時みんなでオフ会しよって流れになったんだよね」

「それでリアルで会って色々してたら、唇絡まして裸で乳繰り合う仲になったってことか」

「ホイミ、表現が下品で生々しいよ」


 この男、こういう言動を無くせば、モテるのではないかと思う。

 本当はとても良いやつだというのに。


「なんかさ、かけるとゲーム上では仲が悪かったけど、面と向かって話したら意外に良い人でさ。それに他の趣味とかもあってたんだよね。アニメ、ラノベ、フィギュア愛とか」

「……オフ会がなかったら多分ずっと俺の宿敵リストに入ってた」

「いや〜やっぱり実際に会ってみないと分かんないよね。人間関係って」


 なるほど、このカップルはなるべくしてカップルになった訳じゃないんだな。

 オフ会がなかったらもしかしたらこの二人はカップルになっていなかったかもしれない。

 それこそ未だに宿敵同士でお互いがお互いのストレスの元凶になってたかもな。


 そう思うとオフ会開いた人、かなり良い仕事したな、グッジョブ。


 僕がそんな風にこのカップルについて感慨深く思っていると、部屋に大音量の通知音が流れた。


「あ、ごめん。僕だ。……バイト先からだな、ちょっと外すね」


 そう言って、僕は席を離れ部屋から出て行ったのだった。



○○○○



 ナギが消えてすぐ、ユノが開口一番にめんどくさい話題に触れやがった。


「ねぇねぇ……詩葉はさ、ぶっちゃけいつからナギと付き合ってるの?」

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