第25話 オタクの彼女紹介の宣言③


 今、僕の目の前には女性がいる。

 詩葉以外に僕とレンの部屋に入ってきた初めての女性だ。


 彼女の髪は薄茶色でボブカット。

 目がパッチリとしていて、子犬顔というのかとても童顔で、幼気いたいけな顔つきだった。

 スタイルはモデル型でとてもスレンダー。

 可愛い顔つきで外国人のようなスラリとした体型から、僕は隣に詩葉がいるのに思わず、彼女を自然と目で追ってしまった。


 はっ! いかん、いかん。僕には詩葉がいるというのに……。

 こういう時は隣にいる詩葉を見て、すぐに詩葉ゲージを注入しよう。


 ……はぁ、詩葉可愛い。


 --というかクドウの奴め、外見は普通だと……?

 何をほざいてるんだ。普通以上に断然--


「ーーかわいいじゃないか!!」

「--わぁっ! ビックリしたー 凄いね、君。初対面の人にいきなりかわいいだなんて。もしかしてそれが女性を口説くための君の落とし文句かな?」

「ナ、ギ?」

「あ、あぅ……意図的じゃないよ。思わず声出ちゃったんだ」


 しまったな。心の内で留めておこうと思ったのが口から出ちゃったなんて。

 そのせいで詩葉の顔が怖くなってるし、自然と威圧感が出てる。殺し屋なんて目じゃないようだ。


「そ、それじゃ、クドウ。紹介してよ」

「……うん。彼女は六月一日(うりはり) 絆(ゆの)。ユノ、右からナギ、詩葉、ホイミだ」

「ど〜も、紹介にあずかりました。ユノです! 気軽にユノって呼んでね! みんなの事は、かけるから色々聞いてるよ?」

「よろしくね、詩葉よ? 私も呼ぶ時は詩葉でいいから」

「あ、僕もナギでいいよ〜!」

「ホイミだ。よろしくな」


 あ、そう言えば、かけるってクドウの名前だったな。

 ずっと僕らの中じゃ、クドウの名前が浸透していたから危うく誰のことか忘れるところだった。


 ユノの口からすんなりクドウ以外のクドウを表すワードが出たから少しだけ違和感があった。


「へぇークドウ、俺らの事ちゃっかり紹介してたんだな」

「……当たり前。大事な友人だから」

「ユノは俺たちの事どんな風に聞いてたんだ?」

「えーと、ホイミは、生き様が滑稽こっけいな発情期の類人猿。詩葉は、一途だから男を手玉に取らない残念版”峰不○子”。ナギは……敵かな」


 このクソメガネ。彼女にどんな紹介してんだ。


「不○子はありがたいけど、残念版って……。これじゃ褒められてるか分かんないわね」

「まだ人間だからいいじゃねぇか。俺なんてもはや猿指定なんだぞ? せめて人並みの扱いして欲しかったな」

「あ、あのー なぜに初対面の僕は既に敵扱いなんでしょうか?」


 詩葉とホイミはまだ良くないか?

 僕なんて文字数一文字の紹介で、いきなり敵宣言されたんだぞ。


 僕、ユノに恨まれるような事なんかしたっけ。


「あーそれね、ごめん。ボク、ド○クエ5でフ○ーラを選ぶ人は生理的に受け付けないの」

「クドウ!! もしかして彼女に言ったのかい!? 花嫁論争は協定でもう休戦にしようってことにしたじゃないか!」


 しまった、ユノはビア○カ一派だったのか。それは確かに初めから険悪になるだろう。

 しかし、クドウも嫌なヤツだ。わざわざ僕を紹介するのに捕捉情報として僕がフ○ーラ一派であることを話すなんて。


「……ナギと俺は休戦したけど、ユノとは協定結んでないでしょ」

「ねぇ、ナギ。金に溺れた結婚の味はどうだった?」

「いきなり○ローラ側にとって脆弱なとこ突いてきた!? 嫌だ、何この人怖い!!」

「それに青毛って現実性ないよね。金髪は分かるけど」

「ゲームにリアル性を持ってくるなんて……ひ、ひどいっ!!」


 初対面の人と話すことなんて他にもたくさんあるはずなのに、わざわざこの話をこのタイミングでぶつけてくるとは、この子……できる。

 僕らと同じくオタク特有の匂いがプンプンするな。


「そういえば、コイツらオタクだったなぁ。話に入る隙がないぜ」

「えぇ……どんどん深くなってくわね。--というか、私、ナギにオススメされたから現在進行系でド○クエ5やってるのに、もうネタバレされたんだけど」


 く、くそ〜言わせておけば……フロ○ラだってな。心配だからって危険な火山に足を運ぶぐらい優しいところがあるんだぞ?

 

 しかしなんとかして反撃を……このままでは。


「--まさか昔からの幼馴染捨ててまで、お金持ちのところに行くなんてとんだメンタルしてるよね。ボク、ある意味尊敬するよ」

「う、うぐぐ……」

「もはや大魔王と同じレベルだよね。酷さは」

「う、う……」

「村に残されたビ○ンカの気持ち分かる?」


 もう無理だ。

 この子とこの話題話すだけで、フ○ーラとの結婚生活が悪く思えてしまって心が病みそうだ。


「ねぇ、詩葉。なんとかしてよぉ!」


 僕はこの話題を中断させるべくこのオタク話に疎そうな詩葉に助けを求めたが、なぜか彼女は深刻そうな顔を見せていた。


「オタクの話だから安直に考えてたけど、ナギが幼馴染を捨てた? ……こりゃ他人事じゃなくなってきたわね」

「う、詩葉さん? どうし--」

「ナギ、なんでアンタが幼馴染を選ばなかったのか、限界まで話し合いましょ!」


 僕の願いとは裏腹に、彼女はこの話題を止めるどころかむしろ推奨していた。

 

 まさか詩葉まで参戦するなんて……。

 うぅ……もう辞めたいのに。


 僕の心が折れそうになっていた時、この話題を断ち切る図太い声が響いたのだった。


「そこまでだ。オタク共。これ以上はオタクの巣窟であるアニメイトでやれ」


 その時だけ発情期の類人猿が僕にとっては救世主に見えたんだ。



○○○○○



「いや〜ごめんね。ボク、熱くなるとなんでもかんでも言っちゃって」

「う、うん。もういいよ」

「……ナギをボコボコにする勇姿を見て、ますます惚れ直した」


 もう決めた。

 これからは二度とこのカップルの前ではドラ○エの話をしない。


「それじゃあ話に戻って、ユノにいきなり質問していいか? 会った時から思ってたんだが……ユノのその服装はなんなんだ?」


 実は僕もそれについて質問したかった。

 ユノが今身につけているのは、某美少女戦士の服装だったからだ。

 今にでも『月に変わって……』とでも言いそうな感じだった。


 コスプレ……だと思うんだけど、部屋に入ってきた時からこれだったから私服ではないかと疑ってしまう。


「あ、これ? いや〜実はコスプレイベントの帰りだったからそのまんまの服装で来ちゃったの」

「……ユノは俗に言うコスプレイヤーという人種なんだ」


 へえ〜コスプレイヤーか。

 確かにスタイルもいいし、なに身につけても似合いそうだ。


 それに衣装も近くで見たら全部手作りっぽいからそんじょそこらの素人じゃなくて、ガチな子なんだろう。


「っていうか、その格好で電車とか道を歩いてここに来たの?」


 コスプレイヤーの心情がどうか分からないが、公共の場所をこうも目立つ格好で歩くのはかなり恥ずかしくないか。

 むしろいつも人の目を向けられているから慣れてるものなのかな。


「うん、そうだよ。そのおかげで月の戦士を崇拝してたおじさまに電車賃もらって、お金が浮いたわ」

「おいおい大丈夫か、それ? かなり危ないやつじゃねぇか?」

「んー 大丈夫っぽかったよ。身元もはっきり言ってくれたし。北山大学の篠崎さんって言ってたけど」

「……完全な知人」


 まさか篠崎学部長がここでも出てくるなんて。

 『週刊BUN秋』で夜の店をお勧めしてると思ったら次はコスプレイヤーにも声かけてたとは、何かと話題に上がる人だ。


「あ、そうだボクもみんなに聞きたいことあるんだよね!」

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