第22話 レンのいない夕方の宣言②

「それじゃ行ってくるぞ? 負け犬ども」


 身支度の済んだレンは玄関前でそう述べる。

 あ、そうだ。レンにデートについて色々確認しとかないと。これでも僕はレンにはこのデートを成功してもらいたいからな。


「レン、確認だよ? 出てきたご飯が美味しくなくても?」

「文句は言わない」


 この確認は重要だ。

 レンは外食の時、味についてやたら口うるさいからな。いつもいる僕らはかろうじて耐えられるけど、初対面からしたら気分を害するだろうから。


「……もしもの時のゴムは持った?」

「あぁもちろん。サガミを常備している」

「お金も多めに持ってる? 準備はするにこしたことはないから」

「あぁ昨日おろしてきたからな、大丈夫だ。つーかナギとクドウは心配しすぎだぞ? 母親か?」

「レン、お前のアソコが短小って広めていいか?」

「…………」


 さて、僕らによる確認(ホイミは除外)も終えたことだし、お見送りといこうか。


「……上手くいくことを期待している」

「頑張って!」

「お前のデートがぶち壊れる事を祈ってるし、惨めに嫌われるのを期待してる」

「お前ら……ありがとな。ーーそれとホイミはハンバーガー喉に詰まらせて死ね」


 そう恨み節を残しながらレンは部屋を出て行ったのだ。


 それから僕らはどうしたかって? レンに付いて行くとほざくホイミを押さえ込んだに決まってるじゃないか。




「……そう言えば、デリバリーについて面白い事を聞いたことある」


 ホイミを落ち着かせ、デリバリーが届くのを今か今かと待っていたところ、突然クドウが話し始めた。


「……なんでも、デリバリーの配達人が届け先のお客さんに連絡先を聞いてそれから付き合ったとかなんとか」

「え、なんだよ、それ! そんな事あるのか?」


 先ほどまで沈黙を続けていたホイミだったが、恋愛の事の話になったので突如興味を示した。

 しかしホイミはすごい反応速度だな。さっきまで食べ残したポテトの如くしおれてたのに。

 

 それにしても配達員と届け先の恋愛か……そんなのもあるんだ。

 まぁ一時期、バスの運転手と女優の結婚が注目されたくらいだからな。そういうのもあるんだろう。

 そのうち、こぞって恋愛漫画や恋愛小説のテーマになりそうだな。


「可能性とかはあるんじゃない? それこそ玄関から出てきた人が思わぬ美人とかだったらそうしたくなるのもわかるし」

「まぁ確かに、玄関から新垣結衣が出てきたら連絡先聞きたくなるわな」

「……たぶん、その家には星野源いるから無理でしょ」

「そんなもん適当に『ドラえも○』歌いながら恋ダンス踊っとけばなんか仲良くなるだろ。親近感湧いて」

「他人の玄関でそれやってたらただの不審者だよ」


 連絡先を聞ける確率なんて限りなく少ないだろう。

 しかし『もしも』という事がある。女子側もその配達員を気に入れば、利害が一致するので交際に繋がる可能性も否定は出来ないだろう。

 

 だけど、普通は怖くないか? 配達員から連絡先聞かれたなんて。女性陣はどう思うか分からんけど。


「……しかもここからが面白い。俺が聞いたのは”逆”ってパターン」

「え、それって、配達の人が女の人で連絡先をーー」

「ふぉぉぉーーーっっ!! 早く来いぃぃぃ!! マックゥゥ--ッッ!!」


 クドウの言葉でホイミは突然雄叫びをあげた。

 ライオ○キングのシ○バも青ざめるほどの咆哮だったと言える。

 しかもソファで立ち上がり、天井を見上げてやるもんだから、もうライオンキ○グにしか見えなくなった。


「あんなにもテンション上がるなんて」

「……精神安定剤より効果テキメンだった」


 クドウはホイミがこうなることを狙ってこの話題を言ったのだろう。

 だけど、これさらに悪化しないか?


「ねぇ、ホイミ? 事はそんな単純じゃないと思うよ? 配達員の人が男かもしれないし」

「男だったらハンバーガーのパティのようにミンチにする」

「……女だとしても連絡先くれないかも」

「いや大丈夫だ。すぐさま髪の毛とか入れ、異物混入を示した上で責任追求し、半強制的に連絡先をもらう」

「お前、ど畜生だな。ドナルド・マ○ドナルドに殺されるよ?」


 あの赤髪ピエロを怒らせたらとんでもないことになる。

 それこそ当時の子供を恐怖のどん底に落としたランランルーを食らわせられるに違いない。



○○○○



 --そしてそれから数十分が経った時、それは起きてしまった。


「……なぁ、ものは相談なんだが」

「なんだ、クドウ? いくらお前が手伝うと言っても権蔵さんとカップルチャンネルなんてやらないぞ?」

「……その事じゃない。というかその提案の返事はまだしなくてもいい。いずれ気分が変われば--」

「--いや絶対変わんねぇから!」


 今やカップルチャンネルは需要が高いんだからやればいいのに。しかもそこらへん詳しいクドウのバックアップ付きならぼろ儲け出来るに違いない。


「それで、クドウの相談ってなんなの?」


 クドウが相談とは珍しい。いったいどんな内容なのだろうか。

 ま、どうせ奴のことだ。僕の大好きなオタク系の話に違いないだ--


「……ここに彼女を呼んでいいか?」



「「……は?」」

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