第21話 レンのいない夕方の宣言①


 大学の講義がないとある土曜日。

 窓から差し込む夕日が確認できる時間帯に僕らはアパートの部屋にいた。


 せっかくの休日だというのに、外に遊びにもいかず男子大学生四人が一室に集まるとは……暇人とは悲しいものだなと思ってしまう。


「ーーえぇ。そうです、ハンバーガーが2つにテリヤキとチーズも一つずつ。セットも……」


 ホイミが電話でデリバリーの注文をしている。

 実は僕達が一人暮らしをしてからデリバリーを使うのは初めてだったりする。

 というのもいつもレンが毎食作ってくれていたので、その必要がなかったのだ。


 しかし珍しいことに今日はデリバリーを頼む機会の日となった。

 なんとウチの料理長であるレンが、夜に予定があるとぬかしたのだ。聞けば、大学の女子と外に遊びに行くらしく、まぁ言うならデートらしい。


 くそぅ……レンのくせにいつの間に行動起こしてたんだ?

 それにその女子も詩葉に紹介してもらったとかなんとか。


「到着は19時? もうちょっとどうにかならないですかね」


 レンがいないせいで僕らはマク○ナルドのデリバリーで食事を済ますことになるが……まぁ良いだろう。

 ジャンクフードは久しぶりだからな。


 それにしてもホイミは律儀でいいな。注文とか普通にめんどいのを率先してやってくれる。要領いいし、頼りになるなぁ。

 てっきりレンが女子とデートって聞いて、ヒステリック起こしてるかと思ってたけど、平気そうだ。


「ーーあぁ! そうだ忘れないうちに……スマイル一つで」


 前言撤回、コイツは平気じゃなかったみたいだ。

 普通、店頭でやる注文をコイツは顔の見えない通話越しで行っている。


「え? 通話越しでは受け付けてない? 日本一のファストフード店が聞いて呆れる。サービス精神はどこへいったんですか? 値段と同じく、サービス度も安くなったのか?」

「はいはい、もういいからホイミ」


 変なところで熱くなっているホイミから電話を奪い、通話越しの女の店員さんに一度謝って、注文を無事受け付けてもらい僕は電話を切った。


 ふぅ〜これでよし。ホイミのせいで商品が来ないところだった。


「ホイミも落ち着きなよ。レンがデートだからって」

「落ち着いてられるか!? レンの野郎、抜け駆けしようとしてんだぞ? アイツとは『一緒にゴールしようね』って約束したのに」

「……それ、マラソンの時に一番信用しちゃいけない言葉でしょ」


 ホイミの機嫌が良くないことがとてもよく分かる。

 これは対応がめんどくさいパターンだな。


「どうしよ? クドウ」

「……マックで精神安定剤もテイクアウトしてもらえばよかった」


 流石のマックも薬は用意できないだろう。

 出来たとしてもどうやってアイツに食わすか……チーズバーガーのピクルスの代わりに入れるとか?


 僕とクドウが錯乱状態に近いホイミをどうあやすかなどを相談していると、事の発端であるレンの声が届く。


「おい、お前ら! これどう思う?」


 自室からリビングに来たレンは自分の服装を見せびらかすようにするがーー。


「……パリコレの服装としてなら正装なのかも」


 部屋から出てきたレンは、ルパ○3世もビックリの真っ赤な赤ジャケットに、裾が膝上くらいまでしかない緑色半ズボンを着ていた。


 女子と初デートって聞いたが、ヤツは今からランウェイでも歩くつもりなのか?


 ちなみにレンの服のセンスは酷いもんだ。

 普段大学に行く服装とかは大体僕が選んでいる。一緒に住んでる奴がダサいと他の目線が痛いからな。


 中高は制服だったからヤツの服のセンスは分からなかったが、私服登校になってから顕著にそれが見え始めた。制服の文化のありがたみをここまで感じることになるとは。


「もっとラフな格好でいいんじゃない? 初デートでしょ?」

「いや、そこはビシッと決めようかと。ほらフォーマルっていうやつ?」


 何がビシッとだ。それにフォーマルって言葉をもう一度ググって調べてこい。全く違う意味だから。

 お前のは、フォーマルってよりも斬新な服装過ぎてアパレル業界からスカウト来そうだぞ。


「デートの場所は?」

「夜の水族館だ! くぅ〜ロマンチックだよな」

「だったらそんなのはやめておけ。恥かくぞ? せっかくのデートなんだから服装はーー」


 おぉ……あれだけ恨めしそうにしていたホイミがレンにアドバイスだなんて、やっぱりホイミは優しい心の持ち主じゃないか。


「ーー『レーザー・レーサー』でいいんじゃないか?」


 コイツには友を想う優しい器が少しもないらしい。

 女子とのデートの服装に競泳水着を勧めるなんて。コイツ気でも狂ったか。


「ホイミ? レンは別に水族館で泳ぐつもりないんだけど」

「たわけ、泳ぎを見せるんじゃない。水着の密着具合を見せつけるんだよ。そうすればどんな女も一発で落ちる」

「……公衆の面前で競泳水着姿見せつけたら一発で捕まりそうだけど」


 今日会う女の子もビックリだろう。待ち合わせしていた男が地上で競泳水着を身につけていたら。


「それでいいんだよっ! レンは女に振られ、俺の気分は晴れる。WIN-WINじゃないか!!」


 ホイミの思うWIN-WINには他人の利益が入ってなさそうだな。


 絶賛狂っているホイミの状態を見ていたレンが、ホイミに聞こえないように小声で僕に話しかけた。


「どうやらあのデカブツは既に敵に成り下がってるようだな」

「うん。素直に昼に選んでたやつ着て、さっさと出て行った方がいいと思う」

「あぁ……そうする。しかしナギよ、この服装もなかなか--」

「--『レーザー・レーサー』と同列だよ? 上手くいかせたいんだよね?」

「すぐに着替えてくる」

「素直でよろしい」


 レンの提案をすぐに却下したことでレンは、僕が昼のうちに選んでいた服に着替えるべくすぐに自室に戻っていった。

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