第20話 サークルに入りたいの宣言⑥


「そう言えば、俺が当時貯めたポイントはどうなってんだ? 女の子の紹介は? ここにいないぞ?」


 当時、俺は詩葉にナギの事を密告し続けた。だからそろそろ紹介してくれる基準値の1000ポイントまで言ってるはずだよな。

 数えるのがめんどくさくなってからいまいち何ポイントになっていたのか知らないが。


「そんなの0ポイントに戻ってるわよ。締め切りは高校卒業までだし」

「期限とかあんのかよ」


 くそ、詩葉の野郎。絶対に俺のポイントは基準値までいってたはずなのに、俺が女の子の紹介の事言い出さなかったからそのまま黙ってたな? なんて野郎だ。


「アンタも勿体無い事したわね。というか、ナギの好きな人教えてくれれば、1ポイントと言わず一気に8000ポイントプレゼントだったのに」

「楽天カードかよ。つーかそんなのあったらなら早く言え」


 ま、そうは言ってもナギの好きな人をその本人の前でなんか言わないけどな。


「というか、初めてレン達の部屋に入った時のリアクションを見る限りじゃ、レンは最後まで気づかなかったのね。私がナギに気があるの。けっこう出してたと思ってたけど」

「あ、あぁ……気づかなかったなー」


 バカ言え、気づいてたわ。

 四六時中ナギの事聞くんだぞ? 気づかないバカがどこにいる。


 それに俺はナギが詩葉の事を好きなのは知っていた。そして途中からとはいえ、詩葉がナギの事を好きなのも気づいた。


 つまるところ俺は全部知ってたんだよ。お前達の好きな人を。


 既に二人はお互いがお互いを好きで、両想いでいつでも付き合える状況になっていたんだ。もしも俺がそこで、どちらかに真実を話せば早々に付き合っていただろう。


 ーーだが、それはダメなんだ。


 自分の好きは、自分の口から出さないと本当の意味をなさないはずだ。

 例え、第三者が教えて本人達が付き合えたとして感じるのは何か。

 告白が失敗することなかったからよかった? 楽に付き合えた?

 いや違うね。結局彼ら彼女らに残るのは『本人の口から聞きたかった』っていう後悔だけだ。


 だから俺は二人には何も言わなかった。

 もちろん詩葉にはナギの好きな人を永遠に聞かれたが知らぬ顔をしたし、ナギにも詩葉がナギに気があるなんて事を微塵も伝えなかった。


 しかし、そうやって静観していたせいで、まさか詩葉がナギを惚れさせるだとか変な状況になるとは……全く思いもよらなかった。


「ーーで、アンタはどうするの?」

「は? すまん、話聞いてなかった」

「サークル。興味あるんでしょ?」


 俺が一人で考え事をしていたらいつの間にかサークルの話に戻っていた。

 むーーん、サークルね。


「まぁ、ナギと同じとこにでも行くよ。お前のお墨付きでもあるし」


 変なサークルに入るのもめんどいし、詩葉がマシと言ったんだ。そこに入るのが安パイだろう。

 俺がナギと同じところに行くと言った途端、目の前の詩葉の表情は少し不思議がっていた。


「アンタとナギの関係ほんっとよくわかんないわ。いつもの様子見てたらいがみあってばかりなのに、なぜか仲良いし」


 とりあえず、常にアイツのいる生活には罵倒、暴行が視野に入ってるからな。いがみあってる見えているのは概ね正解だ。


「まぁ、アイツといるのは飽きないからな。それに本当に嫌だったらルームシェアなんかしてないし」

「……ほぉ」


 俺がそんな事を言うと、詩葉は瞬間的に目を鋭くさせて、敵意を剥き出した。

 おいおい……なんだ、なんだ?


「……もしかしたら本当のライバルはすごく身近にいたのかも」

「お、おい!! 俺をお前ら二人の渦中に巻き込むなよ!?」


 本当にやめてもらいたい。

 ただでさえ今の生活でもこの二人のせいでややこしく、めんどくさい事になっているというのに。


 それに俺がナギと? それならまだ野生のゴリラと一夜を共にした方がマシだ。


 それから雑談をしていると突然、チャイムが鳴った。

 時計を見てみるや講義が終わった時刻になっていたのだ。


 どうやら詩葉は次の講義に向かうらしく、荷物を持って席を離れようとした。だがその瞬間、詩葉が急に一枚のメモを俺に渡した。


「そうだ、忘れないうちにこれ渡しとくわね」

「なんだこれ? 暗殺リストか? 水を取りに行かせただけじゃ飽き足らず、俺に人の命でも取ってこいとかか?」

「アンタ、私をなんだと思ってんのよ」


 いや、コイツならやりかねん……と思いつつ、渡された紙を広げてみると、そこには女性らしき名前と連絡先がリスト化されて書かれていた。


「ポイントはゼロになったけど、アンタには今までの借りがあるから返したくて。それ、私の学部で彼氏が欲しいって言ってる子のリストと連絡先。連絡してみたら?」

「う、詩葉様ぁぁぁーーーっっっ!!」


 め、女神がいらっしゃった!!

 神は実在していたんだぁぁ!!


「ちょー嬉しいぜ!! ハグしていいか?」

「やめてよ、下品で汚らわしい。私の身体に触れていいのはナギだけで、今までもこれからもこの身体はナギのモノよ。もちろんナギの身体も私のものだし」

「お前、今かなり下品な事言ってるって自覚してる?」


 だが下品とかはどうだっていい!!

 うひひ……このリストさえあれば。


「もしかして、このリスト作るために今日の昼は学部の子と飯食ったのか?」

「まさか。ついでよ、ついで」


 いやしかし、これは助かった。このリストはとても有効的に使わせてもらおう。

 確か詩葉は外国語学部だろ? 可愛い子がたくさんいるんじゃなかろうか。


 今でやっと密偵としてナギの事を密告し続けた甲斐があったと感じた。

 努力が実を結ぶとはこのことだな。


「詩葉、これからも密偵Xとして手伝ってやろうか?」


 この分じゃ、これからも密偵として活動すれば俺に利益が生まれるのでは……と少しの期待を込めて提案したが、詩葉の答えはーー


「いいえ。もういいの」


 俺にとっては意外なものだった。

 そして、俺の提案を断った詩葉は、振り向きざまに笑顔で言ったのだ。


「だって昔とは違って、今の私はいつだってナギの隣に行ける。

 これからは密偵なんか使わなくても私が知りたい事は直接ナギに聞くから!」


 俺は詩葉のその言葉に、密偵として働けない少しの悲しさと共に不思議な嬉しさを感じたのだった。



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