第18話 サークルに入りたいの宣言④

「あぁ、なんでもナギとレンが入ってみたいって言ってるんだがな、どれにするか悩んでて」


 先程の会話を繰り返すように話題は再びサークルの話題に。


「そうだ、参考になるかは分かんないけど」


 何かを思いついた様子の詩葉は、すぐにカバンの中から大量の紙束を取り出して机の上に広げた。

 紙の一枚一枚を見てみると、それら全部がサークルの勧誘広告だった。


「こりゃ凄い量だな。こんなにどうしたんだ?」

「なんか、大学の通りを通るたびに渡されたのよね。で、もらったところを見られて、断れずまた渡されて、見られて渡されて……の繰り返し」


 確かに詩葉のような美女が通りを歩いていたらサークルに勧誘したくもなるだろう。

 こんな美女を入れようものならサークルの株も断然上がるようなもんだし。


「へぇー色々あんだな。ナギとレンもこの中から決めちまえばいいんじゃないか?」

「……アイドルサークル『モーNNG娘坂46。』、蜘蛛研究サークル『トム・ホラン堂』、少女漫画サークル『女主人公から当て馬キャラを守る党』、こうして見ると、なんでもありだね」

「おぉこれなんて良いじゃねぇか? ハーレム研究サークル『ToL○VEる』……あぁこれダメだ、現在の人数の男女比10:0って、女子一人もいねぇわ」


 勧誘広告を見るとほんとになんでもありそうだった。学生が多い分、サークルの種類も多いようだ。

 だけど、これは絶対入りたくないやつとか、こんな内容で本当に人来るの? ……と思うサークルもあった。


 さて、どれにしようかな……ん? なんかこれ赤丸付いてて、妙に目に留まるな。

 僕は一枚の広告を手に取った。


「これなんてどうだろう。ウィンタースポーツサークル。僕一度で良いから雪山でやるスポーツしたかったんだよね。子供の頃には、縁なかったから」

「ふ〜ん。良いんじゃねぇの? サークル費も意外にお得だし、道具も使ってたやつ貸してくれるとか」

「そのチラシくれた人、結構良い人そうだったわよ? 他のサークル勧誘の人と比べて。他のみんなは、よこしまな雰囲気たっぷりだったし」


 詩葉のお墨付きもあったし、ここにしてみよう。


「よし、じゃあ一回、ここに行ってみるよ。あと何個か適当に回ってっと」


 とりあえず第一優先はここにして、そこがダメだったらとしての候補もいくつか選んでおこう。ここがハズレの場合もあるしね。


「そうだ! あの……その……詩葉も一緒に入らない?」

「…………っ! い、良い誘いだけど……ごめん、ナギ。私、親に啖呵切った状態で一人暮らし始めたからお金なくて、バイトばっかりする予定なの。だからサークルに顔を出す時間もないから入れないかも」

「そ、そっか……それはしょうがないね」


 そう言えば、詩葉はこっちの大学に入るために親の反対を押し切って来たんだ。そのせいで、お金の面で親の助けが得られなくて色々と苦労があるのかもしれない。

 こっちに来ることを許したとは言え、詩葉のお母さんの事だ、金銭的に援助をしないとか平気でやりそうだ。


 でも……残念だな。詩葉とサークル入ったら楽しくなること間違いなしなのに。


「そ、それに私、絶望的にウィンタースポーツ出来ないから」

「そうだったんだ……!」


 詩葉にも苦手なものがあるんだな。これは知らなかった。

 でも昔、詩葉の実家に行った時、詩葉が雪山にいた時の写真を見た気がするんだけど……見間違いかな。


 それから僕が見学してみようかなと思ったサークルを厳選していると突然、ホイミがスマホを覗き込みながら叫んだ。


「お、おい!! これ見ろ!! トクダネから『なんでお前ら授業いないの?』って、連絡きてるぞ?」

「は、はいっ!? なんで!? 休講でしょ!?」


 トクダネは僕たちと同じ講義を受ける予定だったのだが、そのトクダネから思わぬ連絡が届いたのだ。

 すぐに大学公式のネット掲示板を確認すると、なんと僕達が受ける予定の講義は休講になどなっていなかった。


「やられた……ハヤシダにガセネタ掴まれたのか」

「なんでそんなこと!」

「……昨日、嫌がらせで中学の頃のハヤシダの動画をTwitt○rに載せた腹いせかも」


 ハヤシダとは、僕らと同じく経営学部のやつなのだが、クドウとかなりの犬猿の仲なのだ。

 二人は同じ中学出身で前は仲が良かったみたいだけどその昔、いざこざがあったらしく今はかなりいがみあっている。

 ハヤシダも僕とかレン達とは普通の仲なんだけどな〜


 ちなみに昨日クドウによって出回ったハヤシダの動画とは、丸メガネ坊主のハヤシダが右腕に包帯を巻き、空に腕を突き上げてよく分からない言語を必死に詠唱しているものだった。


 今やオシャレな容姿のハヤシダにとっては消したい黒歴史だったに違いない。


「なんだ!? じゃあ、俺らはクドウへのやり返しに巻き込まれたってのか?」

「……リツイートしたら全員同罪」

「というか、なんで大学公式の連絡の方を見てないんだよ」

「いや、先に連絡もらったから見るまでもないかと」

「こうしちゃいられねぇ!! 急いで講義に戻るぞ!!」


 僕達は急いで荷物を持ち、授業のない詩葉とレンを残し、一目散に食堂を出ていくべく歩を早める。


「あ!! 詩葉、またあとでね!?」


 食堂を出て行く際、忘れずに僕は詩葉に別れの挨拶を残したのだった。



〇〇○○○



 騒々しかったナギ達を見送ると、食堂はいつにも増して静かになった。

 俺たちがどれほど騒がしかったのか、アイツらが去って一段と分かった気がする。


 授業を休講にした俺は残っている詩葉に声をかけた。


「意外だったぞ?」

「何が?」

「まさか、ナギがサークルに入ることにお前が何も言わず静観してるなんて。

 サークルと言えば、男女が仲良くなる絶好の機会、大体の大学生カップルが生まれる場だ。そんな危険な場所にみすみす愛しいナギを入れる事を許すとは」


 これは本当に驚きだった。

 ナギを惚れさせるために一心不乱に動いているはずの詩葉が、まさかナギと他の女子とが交わる機会を与えるとは思わなかったからだ。


 頭の良い詩葉ならそんな機会をみすみす見逃す真似しないはずだが……?


「あら? レンも鈍感になったものね。まさか私の内心が穏やかになっているとでも?」


 おぉっと、どうやらコイツの内なる炎はかなり燃えたぎっている様子だな。

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