Epilogue:現実夢

Future prospects

 万物は流転する。

 情報は変わらない。

 わたしは日々変わっている。

 生き物はどんどん変化していく存在だから。仕事も恋愛も、失敗しながら少しずつ一つひとつできるようになってきた。よくもわるくも成長を続けている。


 改札口を出て、エスカレーターに乗りながら思い出す。夢の中でカコもトモローも昔のままだった。それは情報だから。

 だけど、わたしは流転する。


 情報社会といわれる現代。

 意識中心の世界にわたしたちは生きている。

 日々刻々と変化していく自分自身が、情報と等しく同じになってしまっている。

 本当は流転する存在なのに、自分が変わらない存在だと錯覚して生きている。

 自分は変わらない情報だと、信じてやまない意識の世界に、個性を持ち込んだ。

 意識こそが個性だと思い込んでいる。

 それがそもそも間違いだ。

 自分は不変で、個性をもっていることが当たり前だと信じている。

 当たり前なんて考えはどんどん変わっていく。

 個性を持て、といわなくていい。

 自分の個性はなんだろう、と無駄に考えなくていい。

 親や友達、相手の気持ちをわかってあげる人になることの方が、個性を考えるより、ずっと大切だ。

 他人の痛みがわからないと生きていけないのだから。


 ミュートスラントは、相手の気持ちがわからない人間が夢と妄想で作り出した世界だったのではないだろうか。

 わたしにはわからない。

 わからないけど、三つ辻でカコが現れたのは、くり返す過去ではなくちがう明日を歩ませようとしたから。トモローがわたしの気持ちを黙ってきいてくれたのも、同じ理由だったのではないだろうか。


 これまで、わたしは二人の気持ちをわかっていなかった。

 考えたこともなかったから、夢使いたちに選ばれたのではないだろうか。

 いまとなっては確かめる術もない。

 わたしは二人の思いを受け止め、迷いの霧を遠ざけて、これまでとは違う明日を歩んでいこう。


「でもやっぱし、歳はとりたくないものね」


 思わず口に出てしまい、笑ってしまった。

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猫は無慈悲な夢の月姫 snowdrop @kasumin

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