5

 カイは本を見ながら、それぞれの妖怪や怪物について説明を始めました。ルルちゃんは聞いてるうちに怖くなり、からだが縮みはじめました。そうです、ルルちゃんは、怖くなったり不安だったり悲しかったり疲れていたりすると、からだが小さくなってしまうのです。


 しかもその日ははげしい雨が降っていました。風も吹いていました。風は雨粒を窓に叩きつけました。外は暗く、厚い雲におおわれていました。ゴロゴロと、雷の音も聞こえてきました。


 怖い話をするにはうってつけの日でした。けれどもルルちゃんには怖すぎたのです。


 窓の外で、光が走りました。少し間をおいて、大きな音がします。ドーン! ルルちゃんはびっくりして、「きゃっ!」と悲鳴をあげました。


「雷だよ」


 ルルちゃんを落ち着かせるように、カイが言いました。雷のことは、ルルちゃんも知っています。けれどもだからといって、恐怖がやわらぐということはありませんでした。ルルちゃんはそっと、ゴエモンのほうにわずかに身を寄せました。


 その頃にはルルちゃんのからだはいつもの三分の一になっていました(それでもまだゴエモンのほうが小さいのですが)。カイはさすがに気の毒に思って、言いました。


「もうこの話はやめよう。もっと楽しい話をしよう」


 そしてカイは楽しい話はなんだろうと考え、二匹に言いました。


「トラとライオンが戦ったら、どちらが勝つかって話にしよう」


 なるほどこれはたしかに楽しい話でした。いつもならば楽しかったでしょう。けれども少し間が悪かったのです。トラとライオンにはどちらも恐ろしいきばやつめがありましたし、戦えば血も出るでしょう。血は、さっきの怖い本の中でさんざん見ました。


 けれどもあの本が片づけられたことによって、ルルちゃんの気持ちは少し落ち着きました。夕飯の頃には、ルルちゃんのからだはほとんどいつもの大きさに戻っていました。(多少、小さかったのですが! でも気づく人はいませんでしたし、ルルちゃん自身も気づきませんでした)


 これでぶじ、一日が終わるかに思えました。しかし、そうはいかなかったのです! 夜がやってきました。ルルちゃんは自分のねどこに入りました。お父さんとお母さんが買ってくれた、ちょうどいいサイズのかごです。触り心地のいい毛布がしきつめられた、すてきなねどこです。


 カイとルルちゃんはおやすみを言いあい、カイはベッドに、ルルちゃんは毛布の間にもぐり、明りが消されました。部屋が暗くなりました。と、同時に、今日見た恐ろしい本のことが、ルルちゃんの頭によみがえってきたのです!


 ルルちゃんはぎゅっと目をつぶりました。いつもならすぐ眠くなります。けれども今日は違いました。眠気はやってきません。ルルちゃんは、自分のからだが小さくなっていることに気づきました。


 ねどこが大きくなっていきます。いいえ、そうではありません。ねどこは大きくなりませんね。ルルちゃんが小さくなっているのです。


 大きなねどこは、ルルちゃんをますます不安にさせました。ルルちゃんは寝返りをうちました。もう一度、反対方向に寝返りをうちました。なんだか、眠れそうにありません。


 カイのベッドからはすぐに寝息が聞こえてきました。けれどもルルちゃんは眠れません。だんだんと悲しくなってきました。


 目はつむったままです。もし開けて、恐ろしいものが見えたらどうしようと、思いました。白い服を着た長い髪の女性が、天井にはりついて、ルルちゃんを見下ろして笑っているかもしれません。カイは、この恐ろしい本に出てくるものたちは、少なくともこの世界には存在しないのだ、と言っていました。けれども、そうは言っても――どこかにいるかもしれません!


 ルルちゃんは泣きたくなりました。それに、心配なことはほかにもあります。もしこのままからだの大きさが元に戻らなかったら、どうしましょう。前にもルルちゃんは小さくなって、ゴエモンに相談したことがあります。このままちっちゃいままだったら、どうしよう、と。


 ゴエモンはまじめな顔をして言いました。


「小さいことになんの問題が?」


 まあそうかもしれません。小さいなら小さいなりに、上手くやっていくでしょう。けれどもなれるには時間がかかるかもしれません。それに――恐ろしさや不安や悲しみをかかえたままというのはいやでした。


 ルルちゃんは目をぱっちり開けました。意を決して、勇気をふるって、目を開けたのです! そしてぴょいっとかごから飛び出しました。実際に、飛んだのです。ルルちゃんは、飛ぶことができました。


 いつもは歩いて移動します。けれどもいざというときは飛ぶのです。そして、歩くよりも走るよりも、飛ぶほうが早いのでした。


 かごから出たルルちゃんは、一階へと飛んでいきました。一階には嬉しいことに明りがついていました。居間は明るく、そこにお母さんがいました。


「眠れないの!」


 お母さんを見て、ルルちゃんは言いました。そして説明しました。恐ろしい本のこと、その本の怪物たちが自分を苦しめていること。お母さんはルルちゃんの説明を聞いて言いました。


「じゃあ、一緒に寝ましょう」


 ルルちゃんは、小さくなったルルちゃんは、お母さんと一緒に同じおふとんで寝ることになりました。おふとんはルルちゃんのかごと同じように寝心地がよく、お母さんはあたたかく、ルルちゃんはたちまち眠りに落ちました。


 そして翌朝には、すっかり元の大きさに戻っていました。




――――




 これがルルちゃんのお話の始まりです。カイの相棒になったルルちゃんには、これからいろんなことが起こります。それらを少し、ここに書いてみることにしましょう。


 次のお話ではルルちゃんに新しいお友だちができます。それから迷子にもなります。この二つはそんなにつながりがありません。でもまとめて一つのお話にするつもりです。


 それでは、次のお話をお楽しみに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る