第二話 ルルちゃん、迷子になる

1

 ルルちゃんが暮らすことになった家のとなりには、ユメという女の子とその家族が住んでいました。ユメはナミと同い年、14歳でした。ということはつまり、ユメにも魔物の相棒がいました。


 名前をキレイと言いました。名前の通り、きれいな魔物だったのです。ウサギほどの大きさでふさふさとした茶色の毛におおわれていました。


 たれた長い耳があり、ひたいの真ん中にはつのがついていました。つの自体はそんなに大きくありません。少しそりかえっています。そして――おどろくべきことに、きらきらとかがやいていたのです!


 まるで水晶でできているかのようなつのでした。ルルちゃんはそのつのがうらやましくてしかたありませんでした。自分の小さなつのは、ただの白です。そってもいません。二つあるので、そこはキレイよりもよいかもしれません(キレイのつのは一つだったので)。


 けれどもしかし、きらきらはしていないのです。


 キレイはしばしばルルちゃんたちのところへ遊びにやってきました。キレイはいつも、きれいな首輪をつけていました。首輪はユメがつくるのです。ユメは背が高くおしゃれで、大人っぽい女の子でした。そして手先が器用でした。


 首輪は何種類もあって、刺繍がしてあったり、リボンやボタンが縫い付けられていたり、ラインストーンで飾られたりしていました(これもまたきらきらしていました!)。


 キレイは美しい、こげ茶の目をしていました。そしていつも落ち着いていました。おっとりと、おだやかな声で話しました。ルルちゃんはたちまちキレイのことが好きになりました。


 ルルちゃんとキレイは一緒に遊びます。ルルちゃんはお話を聞くのが好きです。キレイはたくさんのお話を知っていました。塔にとらわれたお姫さまのお話、オオカミに食べられる子ヤギのお話、大きなつづらを選んだばかりにひどい目にあったおばあさんのお話。ルルちゃんは大変興味深く、キレイの話に耳をかたむけました。


 そしてそのお話を元に、ごっこ遊びもやりました。キレイがオオカミになって、ルルちゃんが子ヤギになって、ルルちゃんがキレイに食べられるのです。ときおり、役割を交代しました。食べられるよりも、食べるほうが楽しいからです。


 あるときはキレイが王子さまの銅像になり、ルルちゃんがツバメになりました。これは悲しいお話です。知っている人もいるかもしれません。王子さまが、自分についている宝石などをまずしいものに分け与えるのです。ツバメがそれをはこびます。そのうち冬が来て、ツバメは寒さで死んでしまいます。


 その日はカイの部屋で遊んでいました(カイは学校です)。ルルちゃんとキレイが力を合わせて、カイのいすを部屋の真ん中に運びました。キレイがその上に立ちます。いすのそばには、カイのボールやらものさしやらぼうしやらが転がっていました(これもルルちゃんとキレイで集めたのです)。


 キレイに言われるままに、ルルちゃんはそれらを、ボールやらものさしやらぼうしやらを、運びます。まずしい人の役はゴエモンがやります。ゴエモンはたまにごっこ遊びにかりだされました(でもたいていは「鍛錬」をしています。いまもごっこ遊びにつきあいながら、刀をふっていました)。


 ルルちゃんが何度も行き来して、ゴエモンの前にボールやらものさしやらぼうしやらを置いていきました。ゴエモンはあまりうれしそうな顔をしませんでした(ここは元の話と違いますね)。


 そして冬が来て、ルルちゃんは死にました。キレイの立ついすのかたわらで、それはみごとに死にました! ここは見せ場だとルルちゃんは思ったので、力をこめて死んだのです。


 お姫さまを救い出す話も、ルルちゃんは好きでした。これはいろいろなパターンがありました。お姫さまにキスするものもありましたが(ルルちゃんもキレイもあまりお姫さま役をやりませんでした。そこでゴエモンにやらせるのはどうだろうとキレイは言いましたが、ゴエモンはきっぱりとことわりました)、これは少し恥ずかしかったので、それよりも、怪物と戦ってお姫さまをごほうびにもらう話のほうが好きでした。


 ごほうびが、お姫さまではない場合もありました。あるときキレイが、なにかもっと別のものにしようと言いました。ルルちゃんは、なにがもらえるのだろうとわくわくしました。


 ちょうど近くで、ゴエモンが刀をふりまわしていました。ナミがつくった木の刀です。キレイはゴエモンに言いました。


「ちょっとその刀をかしてくれないか」


 ゴエモンはいやそうな顔でしぶしぶ差し出しました。そして今度は、キレイがルルちゃんに刀を差し出します。


「きみは実にゆうかんな若者だ。ほうびとしてこれをやろう。すぐれたものだけが手にできる、伝説の刀だ」


 ルルちゃんはうやうやしく、伝説の刀とやらを受け取りました。と、すぐに、ゴエモンがそれを取り上げました。


「返してもらおう」


 そう言って、ゴエモンは「鍛錬」に戻りました。ルルちゃんの手の中は空っぽです。ルルちゃんは言いました。


「伝説の刀は、どこにいったの?」

「ゴエモンが持っているよ」


 キレイが、おだやかに言いました。ルルちゃんはゴエモンのほうを見ました。刀をふりまわしています。そしてふたたび自分の手を見ました。


「ルルのごほうびは?」

「ゴエモンが持ってる」


 ルルちゃんはまた、ゴエモンを見ました。ゴエモンはやっぱり刀をふりまわしていました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る