かなで編

第43話 心の支え[かなで編]

 最前線が第9階層に到達した頃、オレはたまたま懐かしの第1階層[城塞都市カルディア]に来ていた。


 ここはオレが初めてパーティーを組んだ所……かなでと出会った場所だ。


(……かなで元気にしてるかな)


 かなでとはもうかなり長い間会っていなかったが、偶然にもベンチに座るかなでと再会することとなった。


「おーーい!かなで!」


 オレは大きな声で呼びかけたが、反応がない。よく見ると、どこか疲れ落ち込んでいるかのような雰囲気だった。


(……まさか、何かあったんだろうか?)


 オレはもう一度かなでに呼びかけてみた。


「あ……イザナくん……イザナくん!………うぅ……」


 かなではオレの姿を見つけるなり、我慢していたものが決壊したかのように、涙をこぼした。


 慌ててかなでを抱き寄せ、落ち着かせるように頭を撫でる。


「ごめんね、こんなつもりじゃなかったんだけど……色々あったから会えたのが嬉しくて」

「いや、いいんだよ。オレもずっとかなでに会いたかったんだ。【大司教ビショップ】にはなれたのか?」


 かなではオレに会えて本当に嬉しそうだったが、質問に対しては暗い表情を見せた。


「それが……レベルは25になったんだけど、まだ転職クエストをクリアできてないの」


 何度も何度も繰り返し挑戦していたようだが、未だにクリアできずにいるというのだ。


「確か転職クエストって条件はあるけど、手伝えたよな?」

「うん……でも武器は装備できないし、防具の効果も無効で、スキルも一切使用禁止だよ」

「だよな。それと確かクエストリタイアができないんだっけ?」

「うん。みすみす倒されに行くようなものだから誰にもお願いできないよ……」


 かなでは落ち込みながらそう答えた。


「とりあえず、クエスト内容について教えてくれないか?」


 オレの質問に少し躊躇しながら、かなでは【大司教ビショップ】転職クエストの内容について話し始めた。



 ———————————————————————

 ○【大司教ビショップ】転職クエスト

 ⇒専用のダンジョン内に隠された[転職の巻物]を誰よりも早く見つけよ!


 ※ダンジョン内には守護者である10体の強力なゴーレムが出現します。討伐は不可能なため遭遇しないように気をつけてください。


 ※参加するプレイヤーは最大10人です。

 ※ペア参加は可能ですが、装備効果・スキル使用等のあらゆる手段が封じられます。

 ※ペアの場合はリタイアできません。———————————————————————



「なるほどな。同じ境遇のプレイヤーと競って、一人だけがクリアになる仕様なんだな」


 MMOでは本来優遇されるべき回復職だが、やはり【オンラインNOW!】ではかなり過酷な状況のようだ。


「かなで!次のクエストはいつあるんだ?」

「えっと……今夜だけど」


(今夜……つまり夜ってことは都合がいいな)



「分かった。オレがかなでのペアでクエストに挑むよ」

「えっ!……でも、装備もスキルも使えないんだよ?……リタイアもできないってことは、ペナルティだって——」


 ペナルティ……つまりログアウトできないオレにとっての事実上の "死" を意味していた。


 でも悩み苦しんでいる、大好きな人をここで見捨ててしまえるはずがなかった。


「大丈夫だよ!必ずオレたちでクリアしよう」


 オレはかなでと約束の指切りをし、必ずクエストをクリアすることを誓った。



 ***



大司教ビショップ】転職クエストの時間になると、オレたちは専用ダンジョンへとワープした。


 今回の参加者も10人。内一組はオレたちと同じようにペアを組んでいた。


 向こうもオレたちのペアに気が付いたのか声をかけてきた。


「あんたらもペアで挑むん?うちは【大司教ビショップ】のアコ。この子は後輩のヒカルや。よろしくなあ」

「オレはイザナ……でこっちがかなでだ。よろしく」


 アコは一度転職クエストをクリアしているので、クエスト中に助言できるようにと、ヒカルのペアで来たらしい。


「ゴーレムがほんまに恐ろしいやつやねん……あいつらに出会ったら、逃げきれやんし……終わりやからな。出会わんようにするんが攻略のコツやで」


 アコは屈託のない笑顔でオレたちに情報を教えてくれた。


「色々と教えてくれてありがとう」

「ええねん。うちらも全力で頑張るし、あんたら……いや、イザナくんとかなでちゃんも頑張りな!」


 アコはそう励ましの言葉をかけてくれると、ヒカルとスタート地点へと向かっていった。


「ちなみに、かなではゴーレムに遭遇したことはあるのか?」


 オレの質問に思い出したかのように、小刻みに震え始め『うん……あれは本当にヤバいよ……』とだけ答えた。


 状況から推測するに、ゴーレムの攻撃を一撃でもまともに受ければHP全損の危険性があるということだ。


「怖いけど……でもね!せっかくイザナくんが手伝ってくれてるんだし、絶対にクリアしたい!」


 そう意気込むかなでの手を握りしめ、クエストスタートと同時にオレは薄暗いダンジョン内を駆け抜けた。


「あれ……ここって。待ってイザナくん、私このダンジョン来たことある!……こっち!」


 かなでの指示でオレたちはどんどん奥へと進んでいく。


「今のところいい感じで進めてるんじゃないか?」

「うん!アコさんたちといい勝負かも!」


 通路を右に曲がり、奥に進み、左に曲がる。


「次の角を右に曲がったところに[転職の巻き物]があると思う!」

「よし、あと少しだ!」


 オレたちが最後の角に差し掛かった時、大きな悲鳴が奥から聞こえてきた。



「いやぁぁぁぁ!!ヒカル!しっかりするんや……お願いや……ヒカル!!」


 叫び声の主はアコだった。


 どうやらヒカルがゴーレムからの攻撃を受けたらしい。


「イザナくん、かなでちゃん……ヒカルが……ヒカルが……」

「アコさん落ち着いてください!擦り傷みたいなので、まだなんとかなります!ここは私が回復しますから」


 かなではゴーレムを見ないようにしながら、落ち着いた様子でヒカルのことを回復ヒールする。


「あれが……ゴーレムか」


 見るからに硬そうな巨体に、目と思われる部分には血のように赤い魔石が装着されていた。


「イザナくん気をつけや。あいつら物理攻撃はもちろんやけど、遠距離の魔法攻撃もしてくるで」

「あぁ、分かってる!」


 アコの注意通り、ゴーレムの目が光りを放ち始め、真紅の光線が一直線に飛んできた。


「あかん……終わりや……」


 アコが諦めたように膝をつく中、オレは素早く三人の前へ移動し、光線を片手で受け止めた。


「は?……え?何が起こってるんや……普通は腕弾け飛んでHP全損してるはずやろ」


 アコは目の前の出来事に理解が追いつかないといった様子だった。


「イザナくん……気をつけて!ここのゴーレムのレベル70だよ……」


 かなでからも心配そうな声が上がる。


 オレはゴーレムからの光線を軽々と片手で押し返し、大きな巨体を吹っ飛ばした。


「は……はぁぁぁ?!何してるんやイザナくん?!」

「イザナくん……ゴーレムのレベル70だよ……?」


 アコとかなでは口をあんぐりと開いて、飛ばされたゴーレムを見つめていた。


「問題ないよ、この程度」


 オレは格好をつけることなく、正直に感想を述べた。


「イザナくんは……かなでちゃんのペアやろ?スキルも武器も使われへんってことは……素のステータスであんなことしてるってことやんな?何者なんやあんた……」

「ただのイザナだよ……」

「ただのって……トッププレイヤーのレベル35やで?イザナくん……あんたまさか……レベル35なんか?!」


 オレは一呼吸ついてから、ハッキリと答えた。


「——95」

「え?」

「だから、オレのレベルだよ。95なんだ」

「—————!!!」


 アコは声にならない反応を示した。


 先程吹っ飛ばしたゴーレムが激しい警報音を鳴らし、他のゴーレムたちを呼び寄せ始めた。


「状況的にどう思う、シュナ?」

『恐らく生き残っているのはマスターたち四人だけです』

「やっぱ……そうだよな。ってことは——」



 オレの予想通り、残りの全てのゴーレムが集合してしまった。


「さすがにこの狭い空間を十体相手にしながら、三人を護るのって……今の制限かけられてるオレだけだとキツいと思うんだよな……だからちょっと力貸してくれるか、シュナ?」

『仕方ないですね。ただマスターの転職クエストの時みたいなことはできないので、あくまでも助言するだけですよ』



 ここからオレとシュナのコンビネーションが炸裂するのだった。







【あとがき】



『オンラインNOW!』でも少し、あとがきを書いてみることにします(笑)


 主人公イザナの活躍はヤバすぎますね。

 ただ、例のかなでとの約束を果たせるのか……楽しみではあります。


 さて、次回はクエストの結末に加え、かなでの抱えているものが明らかに……

 そして二人の行く末は?!



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